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青の雀

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 男に飢えていた。

 姫乃は正直なところを言うと、そういうこと。前は大輔に毎晩のように求められ、抱かれて眠ることが当たり前のようになっていた。それがここ半年以上、途絶えて、一人寝の寂しさをイヤというほど噛みしめていたから。

 良平のHは丁寧で、姫乃の隅々まで優しくしてくれた。

 抵抗しないと軽い女だと思われるという気もあったが、抗うことができない程気持ちよかったのも事実。

 それをカラダの相性ピッタリだと言われると、そうかもしれないという納得感がある。

 姫乃は良平からのプロポーズを受け、チェックアウトのぎりぎりまで愛し合ったのだ。

 それからは、毎日必ず1回は会い、今日の出来事を話し合いながら、後は必ず肌を重ねた。

 姫乃の自宅、良平の自宅、車の中、観覧車の中、前から後ろから責められ、喘がされ、転がされ、何度果てても、尽きない快楽に溺れる日々。

 でも仕事のON、OFFの切り替えに抜かりはない。お互いの存在があればこそ仕事も頑張れる最高のパートナーとなった。

 最初は良平のカラダ目的だった姫乃も、次第に良平のことを深く愛するようになっていく。

 合格発表から約1か月後のクリスマスは、今年は一人で過ごすことになると思っていたけど、良平と出会え、この日イブから有給休暇を取り、良平と温泉旅行に洒落込むことにした。

 余頃不動産社内でも、姫乃が萬年の良平と恋人同士になっていることは有名な話で、誰も姫乃に対して、営業妨害をされることもなく、その交際は社内で歓迎されている。

 1年前と大違いな反応に、姫乃自身戸惑いを隠しきれないものの嬉しさは十分に感じている。

 あれから渡戸と永山は別れたらしく、しばらく渡戸は、姫乃に言い寄っていたが宅建合格と共に、言い寄られることはめっきりと少なくなった。

 宅建合格と共に良平と付き合いだしたこともあったけど、それよりこれ以上、余頃社長の不興を買うことを恐れてだろうと察した。

 姫乃は宅建に合格したことにより、他社からの引き抜き話が絶えない。それをいつまでも義理堅く余頃に留まっているから、社長も姫乃を高く評価してくれることにつながる。

 姫乃は幹部候補生となり、渡戸は一般社員のままコースに乗ることはない存在と格差ができてしまったのだ。

 四大卒同期入社、同い年であっても、ほんの些細なことがきっかけで大きく社会人人生が変わってしまう。

 とはいうものの、あの時、良平とああいう関係にならなかったら、引き抜きを引き受けていたら、萬年という大手で、どこまで姫乃は力を発揮することができるか疑問に残る。

 上には上がいるということを、知っている。

 だからできる限り、余頃に残るつもりでいたのだが、温泉旅行から戻ってから、またまた人生の転機を迎えることになろうとは、この時は思ってもみなかったことなのである。

 温泉旅行に出かける前々日。良平の勧めで結婚式場の見学会に参加することになった姫乃。

 カップルで行くと、披露宴で出されるお料理を無料で試食できるとあって、その日は朝食を抜いて、ゴムのスカートを穿いて準備万端というところ。

 どのカップルもみんな楽しそうに幸せそうに微笑んでいる。私たちは、人から見れば、そういう風に見えるのだろうか?

 まだ付き合いだして1か月足らずなんだけど……。

 前から歩いてくるカップルの女性が良平のことをチラ見しているのに気づき、咄嗟に相手の男性の方を見たら、……姫乃がよく知る人物だったので驚く。

 その男性は、今春、一方的に別れを切り出してきた大輔。その人であった。隣にいる女性と結婚するために、姫乃を捨てたの?疑問と怒りがフツフツと湧く。

 姫乃の視線に気づいたのか、大輔は、姫乃を見て、青ざめる。

「どうして、ここに」

 それは、こっちのセリフだっつうの!

 不穏な空気に、良平は姫乃の腰を強く抱いた。


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