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不穏な空気の中、先に口火を切ったもは良平だった。
「失礼ですが、三波埼さんのお嬢様ですよね?ご結婚なさるのですね」
「ああ、はい。萬年さんもこの見学会にいらしたということは、近々、ご予定があるのですね」
「ええ。私の婚約者です。今は余頃さんのところで勤務しています」
良平が姫乃を婚約者として紹介してくれたことは嬉しいが、大輔はどんどん顔色を悪くしている。
「姫乃は、三波埼さんのお相手の男性のことを知っているのか?さっきから、ずっと見ているみたいだったけど」
「ええ。同じ大学の同級生でした」
この「でした」に強調したので、良平はピンと来たようで、いつも寝物語で元カレのことを話していたから、
「あなたが大輔さんでしたか?姫乃の学生時代の話によく登場なさるので、お会いしたいと思っていました。ご結婚おめでとうございます」
「はじめまして」
大輔はブルブル震えながら、初めましてが精いっぱい絞り出した挨拶で、三波埼さんのお嬢さんは、怪訝な顔をして大輔を見ている。
その様子を見て、私たちは互いにクスリと笑いあい、会釈をして、その場を離れた。
少し歩いたところで、振り返ったら、大輔たちは何か揉めているような気配がした。
やっぱり元カノだと言って、挨拶した方がよかったかしらん。
「あの元カレが姫乃を手放してくれたおかげで、姫乃は宅建を受験して、それで俺と運命的な出会いをしたわけだよな」
「そうね。でも、まさか勤めている会社のお嬢さんと結婚するために、私のことを邪魔にしたとは思っていなかったわよ」
「あの三波埼さんのお嬢さんとも、以前、縁談らしきものがあったけど、会社の規模が違うので、お断りをしたことがあったんだ。政略結婚は、会社同士の規模のつり合いが取れないと話にならないからね」
「そうなの!?だから、良平のこと、チラ見していたんだ」
「え?そうなの?」
「きっと、あのお嬢さんからしたら、良平との結婚が第1志望で、大輔は滑り止めだったのだと思うわ」
「じゃあ、滑り止め同士で結婚って、お似合いじゃんか!?」
「そういうことね」
試食会のお料理はフレンチのコース料理で途中、フィンガーボウルが出てくる箸休め的なものまであった。
姫乃自身は、結婚式なんてもの、どうでもいいと思っていたけど、良平の立場上、外してはいけないセレモニーらしく、式場選びは真剣そのものだった。
「美味しかったね」
「俺はデザートなら、まだ入るよ」
「うん。私もフルーツなら食べてもいいわ」
「そ?じゃあ、部屋を取るか?」
「えっ!」
「俺のフルーツを食べたいんだろ?」
「もう、エッチ!」
バシバシと良平の背中を叩いていると、やっぱり三波埼さんのお嬢さんからの視線が痛い。
言っとくけど、他人の男を盗ったのは、お嬢さんが先なんですからねっ!
良平は、その視線を知ってか知らずか、いつもより甘く抱きしめる。そして、首筋にチュっと唇を落とし、「続きは部屋で」と囁く。
人前でのキスに恥ずかしさの余り、顔を朱に染める姫乃を優しくエスコートするようにしてくれる。どこまでも紳士的なのだが、これがベッドまで続くとは限らない。
良平はベッドに入ると、捕食者の顔を持つ。時に強引に荒々しく姫乃を求め、時には優しくを繰り返されるので、ベッドの中では、いつも姫乃は翻弄されっぱなしになるのだ。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
「あの方、おっぱいが大きい方なのですね」
「うん。そうだな」
喧嘩をしたのだろうか、大輔の口数は少ない。
「やっぱり!あの方に振られたからわたくしの方に乗り換えたのですね!悔しい!」
「違う。違う。それは反対だよ。俺が姫乃を振ったんだ」
ついにボロを出してしまった大輔、二人の結婚の行方は……?
「失礼ですが、三波埼さんのお嬢様ですよね?ご結婚なさるのですね」
「ああ、はい。萬年さんもこの見学会にいらしたということは、近々、ご予定があるのですね」
「ええ。私の婚約者です。今は余頃さんのところで勤務しています」
良平が姫乃を婚約者として紹介してくれたことは嬉しいが、大輔はどんどん顔色を悪くしている。
「姫乃は、三波埼さんのお相手の男性のことを知っているのか?さっきから、ずっと見ているみたいだったけど」
「ええ。同じ大学の同級生でした」
この「でした」に強調したので、良平はピンと来たようで、いつも寝物語で元カレのことを話していたから、
「あなたが大輔さんでしたか?姫乃の学生時代の話によく登場なさるので、お会いしたいと思っていました。ご結婚おめでとうございます」
「はじめまして」
大輔はブルブル震えながら、初めましてが精いっぱい絞り出した挨拶で、三波埼さんのお嬢さんは、怪訝な顔をして大輔を見ている。
その様子を見て、私たちは互いにクスリと笑いあい、会釈をして、その場を離れた。
少し歩いたところで、振り返ったら、大輔たちは何か揉めているような気配がした。
やっぱり元カノだと言って、挨拶した方がよかったかしらん。
「あの元カレが姫乃を手放してくれたおかげで、姫乃は宅建を受験して、それで俺と運命的な出会いをしたわけだよな」
「そうね。でも、まさか勤めている会社のお嬢さんと結婚するために、私のことを邪魔にしたとは思っていなかったわよ」
「あの三波埼さんのお嬢さんとも、以前、縁談らしきものがあったけど、会社の規模が違うので、お断りをしたことがあったんだ。政略結婚は、会社同士の規模のつり合いが取れないと話にならないからね」
「そうなの!?だから、良平のこと、チラ見していたんだ」
「え?そうなの?」
「きっと、あのお嬢さんからしたら、良平との結婚が第1志望で、大輔は滑り止めだったのだと思うわ」
「じゃあ、滑り止め同士で結婚って、お似合いじゃんか!?」
「そういうことね」
試食会のお料理はフレンチのコース料理で途中、フィンガーボウルが出てくる箸休め的なものまであった。
姫乃自身は、結婚式なんてもの、どうでもいいと思っていたけど、良平の立場上、外してはいけないセレモニーらしく、式場選びは真剣そのものだった。
「美味しかったね」
「俺はデザートなら、まだ入るよ」
「うん。私もフルーツなら食べてもいいわ」
「そ?じゃあ、部屋を取るか?」
「えっ!」
「俺のフルーツを食べたいんだろ?」
「もう、エッチ!」
バシバシと良平の背中を叩いていると、やっぱり三波埼さんのお嬢さんからの視線が痛い。
言っとくけど、他人の男を盗ったのは、お嬢さんが先なんですからねっ!
良平は、その視線を知ってか知らずか、いつもより甘く抱きしめる。そして、首筋にチュっと唇を落とし、「続きは部屋で」と囁く。
人前でのキスに恥ずかしさの余り、顔を朱に染める姫乃を優しくエスコートするようにしてくれる。どこまでも紳士的なのだが、これがベッドまで続くとは限らない。
良平はベッドに入ると、捕食者の顔を持つ。時に強引に荒々しく姫乃を求め、時には優しくを繰り返されるので、ベッドの中では、いつも姫乃は翻弄されっぱなしになるのだ。
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「あの方、おっぱいが大きい方なのですね」
「うん。そうだな」
喧嘩をしたのだろうか、大輔の口数は少ない。
「やっぱり!あの方に振られたからわたくしの方に乗り換えたのですね!悔しい!」
「違う。違う。それは反対だよ。俺が姫乃を振ったんだ」
ついにボロを出してしまった大輔、二人の結婚の行方は……?
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