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大の大人一人が立って歩けないぐらい床と屋根の感覚は低い。それでも、ピカピカに磨き上げられた床は、キャロライン嬢が高尚な人物であることをうかがわせるに十分だった。
公爵邸にいた全員が、玄関ホールに集められ、一人ずつ名前を確認したうえで、ぞろぞろと歩いて連行されることが決まった。
その中には、キャロラインの部屋を奪ったマリリンやキャロラインにわざとぶつかって、バケツの汚水を頭から浴びせたクローム家の兄弟の姿もある。
キャロラインに嫌がらせをした侍女や植木職人、キャロラインに、カビの生えたパンを食べさせた料理長も含まれている。
皆、一様に俯き、馬車にも乗せてもらえず、後ろ手に括られ、足枷をハメられて、王城までの道のりを連行されて、異様な光景この上もない。
少しでも口答えをすると容赦ない鞭が飛んでくる。だから、誰も何も言えず、昨日までの栄華は嘘のように静まり返りながら、ひたすら歩を進めている。
やっと、敷地内すべての掃除が終わり、キャロラインが自室に引き上げようとしたときには、なぜかいつもよりひっそりとしている。
クリスティーヌは、知っていたが、あえて何も言わないで、努めて明るい声を出し、
「さあ、お嬢様、朝ごはんを頂きましょう。このクリスティーヌが腕によりをかけて、ご馳走を作りますからね!今日は、屋根裏部屋を遣わずに、久しぶりでございますから食堂でいただきましょう」
「え!でも、そんなことしたら、伯爵様に叱られてしまいますわ」
「大丈夫ですわ。今日は、伯爵様も誰も、いらっしゃいませんもの」
厨房に行けば、クリスティーヌが思ったとおり、食事の途中であったためか、食材が出しっぱなしで、放置されている。
それで素早くクリスティーヌがスープとパン、サラダ、それにオムレツを作って、キャロラインお嬢様のところへ持っていく。
「わぁ!本当に、今日は豪華ね。まるで、お父様とお母様がいらっしゃったときのようだわ」
アイツらは、いつもこの程度のご馳走を当たり前に食していたかと思うと、はらわたが煮えくり返る思いがする。
クリスティーヌもご相伴させてもらい、屋根裏部屋に戻っていく。
驚いたことに、まだ陛下は屋根裏部屋にいらっしゃった。戻ってきたキャロラインを見つけ、立ち上がろうとなさった陛下は、天井にしたたかに頭を打たれ、痛みをこらえながら苦笑いをされている。
「少し、階下で話そうか?」
頷いて、階段を下りていく。
階下には、近衛騎士団と思われる制服を着た騎士が、陛下に跪いている姿が見える。
玄関わきの応接室に入り、そこに座ることになったが、クリスティーヌは、キャロラインの後ろで控えている。
「儂のことは、知っているな?」
「はい」
「では、単刀直入に言おう」
今から何の話をされるのか、心配で、膝に置いた手を握りしめる。
「キャロライン・フォン・クリスタルは公爵家の家督を継ぐ気はないか?」
「え!継げるのでございますか?女の身でも……」
「ああ、継げるとも、問題はない。ただ先代のクリスタル公爵が亡くなった時、そなたは10歳で年齢が足りなかったので、継ぐことができなかったが、今はもう15歳になっておるであろう?だから、何の問題もなく侯爵家を継げるし、爵位も父上からの者を引き継げる」
「ありがたき、幸せに存じます」
「そうか、受けてくれるか、それは重畳だ。それともう一つ、そなたに頼みごとがある。そなたにゾッコンの男がいるのだ。ぜひ、一度、あってはもらえぬか?」
「え……と、それは、どなたでございましょうか?」
「儂が口に出してもよいかどうか、迷うておる。ただ、そなたに一目ぼれしたというか、なんというか、先日、王都で暴れ馬を取り押さえたことがあったろ?その時に、そなたに一目ぼれしてしまった朴念仁がおるのだ」
「確かに、広場で暴れ馬を取り押さえましたが、その時は何も……」
公爵邸にいた全員が、玄関ホールに集められ、一人ずつ名前を確認したうえで、ぞろぞろと歩いて連行されることが決まった。
その中には、キャロラインの部屋を奪ったマリリンやキャロラインにわざとぶつかって、バケツの汚水を頭から浴びせたクローム家の兄弟の姿もある。
キャロラインに嫌がらせをした侍女や植木職人、キャロラインに、カビの生えたパンを食べさせた料理長も含まれている。
皆、一様に俯き、馬車にも乗せてもらえず、後ろ手に括られ、足枷をハメられて、王城までの道のりを連行されて、異様な光景この上もない。
少しでも口答えをすると容赦ない鞭が飛んでくる。だから、誰も何も言えず、昨日までの栄華は嘘のように静まり返りながら、ひたすら歩を進めている。
やっと、敷地内すべての掃除が終わり、キャロラインが自室に引き上げようとしたときには、なぜかいつもよりひっそりとしている。
クリスティーヌは、知っていたが、あえて何も言わないで、努めて明るい声を出し、
「さあ、お嬢様、朝ごはんを頂きましょう。このクリスティーヌが腕によりをかけて、ご馳走を作りますからね!今日は、屋根裏部屋を遣わずに、久しぶりでございますから食堂でいただきましょう」
「え!でも、そんなことしたら、伯爵様に叱られてしまいますわ」
「大丈夫ですわ。今日は、伯爵様も誰も、いらっしゃいませんもの」
厨房に行けば、クリスティーヌが思ったとおり、食事の途中であったためか、食材が出しっぱなしで、放置されている。
それで素早くクリスティーヌがスープとパン、サラダ、それにオムレツを作って、キャロラインお嬢様のところへ持っていく。
「わぁ!本当に、今日は豪華ね。まるで、お父様とお母様がいらっしゃったときのようだわ」
アイツらは、いつもこの程度のご馳走を当たり前に食していたかと思うと、はらわたが煮えくり返る思いがする。
クリスティーヌもご相伴させてもらい、屋根裏部屋に戻っていく。
驚いたことに、まだ陛下は屋根裏部屋にいらっしゃった。戻ってきたキャロラインを見つけ、立ち上がろうとなさった陛下は、天井にしたたかに頭を打たれ、痛みをこらえながら苦笑いをされている。
「少し、階下で話そうか?」
頷いて、階段を下りていく。
階下には、近衛騎士団と思われる制服を着た騎士が、陛下に跪いている姿が見える。
玄関わきの応接室に入り、そこに座ることになったが、クリスティーヌは、キャロラインの後ろで控えている。
「儂のことは、知っているな?」
「はい」
「では、単刀直入に言おう」
今から何の話をされるのか、心配で、膝に置いた手を握りしめる。
「キャロライン・フォン・クリスタルは公爵家の家督を継ぐ気はないか?」
「え!継げるのでございますか?女の身でも……」
「ああ、継げるとも、問題はない。ただ先代のクリスタル公爵が亡くなった時、そなたは10歳で年齢が足りなかったので、継ぐことができなかったが、今はもう15歳になっておるであろう?だから、何の問題もなく侯爵家を継げるし、爵位も父上からの者を引き継げる」
「ありがたき、幸せに存じます」
「そうか、受けてくれるか、それは重畳だ。それともう一つ、そなたに頼みごとがある。そなたにゾッコンの男がいるのだ。ぜひ、一度、あってはもらえぬか?」
「え……と、それは、どなたでございましょうか?」
「儂が口に出してもよいかどうか、迷うておる。ただ、そなたに一目ぼれしたというか、なんというか、先日、王都で暴れ馬を取り押さえたことがあったろ?その時に、そなたに一目ぼれしてしまった朴念仁がおるのだ」
「確かに、広場で暴れ馬を取り押さえましたが、その時は何も……」
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