7 / 19
7.
しおりを挟む
キャロラインが公爵になったことで、それまで散らばっていたかつての使用人が戻ってきたが、王家は、その使用人たちの復職を認めなかったのだ。
クリスタル公爵家の使用人は、王家で選抜試験を受けてから、配属するようにした。いくら家族のためとはいえ、主家筋の正当な後継者をずる賢い輩から守り切れなかった罪は大きい。
その点、クリスティーヌの行いは立派すぎる。婚約者がいる女性でも、その功績は爵位に値すると判断され、クリスティーヌは男爵の位を拝命する。伯爵夫人よりも、男爵の方が身分は上になる。それに毎月、王家からお給金が出るところも魅力がある。
ひと月分のお給金は、タダ働きしていた5年分のお給料に匹敵するよりもまだ多い額に驚愕するも、ありがたくいただくことにして、このお金で婚礼品をそろえることができる。
晴れて、マイケルとの結婚式の日取りが決まる。結婚後もしばらくは、キャロラインの侍女を務める予定。ただし、通いになるので、住み込みはできなくなる。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
アーノルドは、せっかくキャロラインを助け出した陰の立役者が自分だと気づいてもらえない。
救出作戦の先手を父・国王に持っていかれたためなのであるが、本来は、国王陛下が乗り込むのではなく、自分が乗り込むつもりで準備をしていたのだが、直前になり、親父が急に、その娘を検分したいと言い出されて、……おかげでキャロラインの第1印象は親父に持っていかれたというわけ。
あれから、いろいろ贈り物をしてもお礼状が来るだけで、梨のつぶて状態に苛立っている。
ここは、一発気晴らしに、舞踏会でもして、新しい女を探すことにするか?おれは、たまたまあの日、見かけただけの公爵のことが気になっただけで、別に何とも思っていないと虚勢を張りたい。
そう何とも、思っていないはず。だが、舞踏会となれば、長らくクロームから疎まれていた存在だったから、着てくるドレスも困っているはずだ。だから、ドレスぐらいプレゼントしたところで、俺がキャロライン嬢に気があるなどと勘違いをしてくることはなかろう。
良い考えを思いついたとばかりに、クリスティーヌ男爵を城に呼びつけ、キャロラインは何色が似合うか?どんなデザインを好むか?さらには、サイズまで聞き出し、ドレスを誂えることにする。
舞踏会の当日、そのドレスを着てくれたら、どんなに嬉しいか胸がわくわくするのをグっと抑え込み、その日が来るのを待つ。
キャロラインは、舞踏会の前日になり、会ったこともない王太子殿下から、自分好みのドレスが贈られてきたことに困惑が隠せない。
ピンクのサテンの生地にフリルとリボンがいっぱいあしらわれたドレス。襟は詰まっているものの、背中は大きく開いている。そして背中の腰の部分にも、やはり大きなリボンがアクセントとして、付いているものだった。
それにサイズまでピッタリだなんて、殿下は、どこかでわたくしのサイズを測ったとしか思えない。気持ちが悪い。でも、身分が上位の殿下からの贈り物に袖を通さないわけにはいかない。
迷った挙句、少し顔を出して、すぐに帰ることを決意する。だって、舞踏会に行くには、誰かがパートナーになり、エスコートしてもらわなければ行けない決まりがある。女性一人で参加して、笑いものになりたくない。
クリスティーヌには、マイケルという立派な婚約者がいるが、キャロラインは婚約者はおろか、父親も死んでいるから、いない。
それならば、と執事や家令がエスコートを申し出てくれるも、うーん。年が離れすぎている。護衛騎士が、エスコートを申し出てくれるも、これまた身長が違いすぎる。
キャロラインは、成長期に十分な睡眠と栄養を摂っていなかったから、まだ子供体型なのだ。出るところも発達していないカラダでドレスを着ることは、コンプレックスの火に油を注ぐようなもの。
こんな姿で、本当にお城へ行ってもいいのかしら?と悩んでいる。
クリスタル公爵家の使用人は、王家で選抜試験を受けてから、配属するようにした。いくら家族のためとはいえ、主家筋の正当な後継者をずる賢い輩から守り切れなかった罪は大きい。
その点、クリスティーヌの行いは立派すぎる。婚約者がいる女性でも、その功績は爵位に値すると判断され、クリスティーヌは男爵の位を拝命する。伯爵夫人よりも、男爵の方が身分は上になる。それに毎月、王家からお給金が出るところも魅力がある。
ひと月分のお給金は、タダ働きしていた5年分のお給料に匹敵するよりもまだ多い額に驚愕するも、ありがたくいただくことにして、このお金で婚礼品をそろえることができる。
晴れて、マイケルとの結婚式の日取りが決まる。結婚後もしばらくは、キャロラインの侍女を務める予定。ただし、通いになるので、住み込みはできなくなる。
-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
アーノルドは、せっかくキャロラインを助け出した陰の立役者が自分だと気づいてもらえない。
救出作戦の先手を父・国王に持っていかれたためなのであるが、本来は、国王陛下が乗り込むのではなく、自分が乗り込むつもりで準備をしていたのだが、直前になり、親父が急に、その娘を検分したいと言い出されて、……おかげでキャロラインの第1印象は親父に持っていかれたというわけ。
あれから、いろいろ贈り物をしてもお礼状が来るだけで、梨のつぶて状態に苛立っている。
ここは、一発気晴らしに、舞踏会でもして、新しい女を探すことにするか?おれは、たまたまあの日、見かけただけの公爵のことが気になっただけで、別に何とも思っていないと虚勢を張りたい。
そう何とも、思っていないはず。だが、舞踏会となれば、長らくクロームから疎まれていた存在だったから、着てくるドレスも困っているはずだ。だから、ドレスぐらいプレゼントしたところで、俺がキャロライン嬢に気があるなどと勘違いをしてくることはなかろう。
良い考えを思いついたとばかりに、クリスティーヌ男爵を城に呼びつけ、キャロラインは何色が似合うか?どんなデザインを好むか?さらには、サイズまで聞き出し、ドレスを誂えることにする。
舞踏会の当日、そのドレスを着てくれたら、どんなに嬉しいか胸がわくわくするのをグっと抑え込み、その日が来るのを待つ。
キャロラインは、舞踏会の前日になり、会ったこともない王太子殿下から、自分好みのドレスが贈られてきたことに困惑が隠せない。
ピンクのサテンの生地にフリルとリボンがいっぱいあしらわれたドレス。襟は詰まっているものの、背中は大きく開いている。そして背中の腰の部分にも、やはり大きなリボンがアクセントとして、付いているものだった。
それにサイズまでピッタリだなんて、殿下は、どこかでわたくしのサイズを測ったとしか思えない。気持ちが悪い。でも、身分が上位の殿下からの贈り物に袖を通さないわけにはいかない。
迷った挙句、少し顔を出して、すぐに帰ることを決意する。だって、舞踏会に行くには、誰かがパートナーになり、エスコートしてもらわなければ行けない決まりがある。女性一人で参加して、笑いものになりたくない。
クリスティーヌには、マイケルという立派な婚約者がいるが、キャロラインは婚約者はおろか、父親も死んでいるから、いない。
それならば、と執事や家令がエスコートを申し出てくれるも、うーん。年が離れすぎている。護衛騎士が、エスコートを申し出てくれるも、これまた身長が違いすぎる。
キャロラインは、成長期に十分な睡眠と栄養を摂っていなかったから、まだ子供体型なのだ。出るところも発達していないカラダでドレスを着ることは、コンプレックスの火に油を注ぐようなもの。
こんな姿で、本当にお城へ行ってもいいのかしら?と悩んでいる。
0
あなたにおすすめの小説
ふしあわせに、殿下
古酒らずり
恋愛
帝国に祖国を滅ぼされた王女アウローラには、恋人以上で夫未満の不埒な相手がいる。
最強騎士にして魔性の美丈夫である、帝国皇子ヴァルフリード。
どう考えても女泣かせの男は、なぜかアウローラを強く正妻に迎えたがっている。だが、将来の皇太子妃なんて迷惑である。
そんな折、帝国から奇妙な挑戦状が届く。
──推理ゲームに勝てば、滅ぼされた祖国が返還される。
ついでに、ヴァルフリード皇子を皇太子の座から引きずり下ろせるらしい。皇太子妃をやめるなら、まず皇太子からやめさせる、ということだろうか?
ならば話は簡単。
くたばれ皇子。ゲームに勝利いたしましょう。
※カクヨムにも掲載しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
『影の夫人とガラスの花嫁』
柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、
結婚初日から気づいていた。
夫は優しい。
礼儀正しく、決して冷たくはない。
けれど──どこか遠い。
夜会で向けられる微笑みの奥には、
亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。
社交界は囁く。
「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」
「後妻は所詮、影の夫人よ」
その言葉に胸が痛む。
けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。
──これは政略婚。
愛を求めてはいけない、と。
そんなある日、彼女はカルロスの書斎で
“あり得ない手紙”を見つけてしまう。
『愛しいカルロスへ。
私は必ずあなたのもとへ戻るわ。
エリザベラ』
……前妻は、本当に死んだのだろうか?
噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。
揺れ動く心のまま、シャルロットは
“ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。
しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、
カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。
「影なんて、最初からいない。
見ていたのは……ずっと君だけだった」
消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫──
すべての謎が解けたとき、
影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。
切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。
愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる