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1.運命の出会い

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 高村小夜香、大手商社の営業事務をしている。故遭って、今はホームレスOLなのだが。

 高村小夜香は、5人姉弟の真ん中で23歳。

 高村家は、上から30歳姉美奈香、27歳姉優里香、下は21歳弟健一郎、18歳弟信一郎、それに小夜香がいる。

 父は代議士で、民自党の幹事長も経験したことがある地元では大物で知られている高村寛一郎。祖父も代議士で、やはり幹事長経験がある高村源一郎。

 母は、小夜香が12歳の時、乳がんがリンパ節に乗り、全身に転移して鬼籍の人となった。

 母が亡くなって、半年ほどで寛一郎はすぐ後添えをもらったのだが、義母は23歳で、一番上の長姉と4歳違いだったことから、継母と小夜香たち姉弟の確執はその時からすさまじくあった。

 でも、幸いなことに寛一郎は、幼い弟たちの世話と自分の肉欲を満たすためだけに、継母を娶ったに過ぎず、継母との間に子供は設けていない。

 仮に愛人を囲えば、スキャンダルになり、政治家としては命取りになる。当時、寛一郎は45歳の働き盛り、源一郎も健在で衆議院議長を務めていた。

 継母は、初婚であったにもかかわらず、寛一郎専属の娼婦に身をやつしたには理由があり、継母の父は、寛一郎の政敵でスキャンダルをその娘がカラダでもみ消すという前代未聞の不祥事のために。

 継母の父は娼婦として嫁いだことを知らず、自分の政敵である相手との結婚に渋ったが、継母がどうしても、と言い張り苦渋の決断をしたと言われている。

 それぐらい政治的には、決して相容れない考え方で、思想根本が違う相手だったのだ。

 寛一郎がそれでも、継母で辛抱したのは、単に継母が美人で若く処女だったことが分かったから、それに帝国大学を卒業したばかりの才媛だったから、幼い息子の家庭教師にうってつけと思ったのだろうか?

 寛一郎は、自分好みの女に育てることに意欲をもって、取り掛かり、継母のカラダをとことん開発し弄び、調教する喜びを覚える。

 若い娘の人生を踏みにじる行為をしたことは許しがたいが、このことが将来、自分の娘に思わぬ災厄?幸せ?が降りかかることになろうとは、寛一郎は知る由もない。



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 高村小夜香は、今、猛烈に困っている学生時代から住んでいたオンボロマンションが老朽化のために、マンションに建て替えられることが決まって、昨日、立ち退きを食らってしまったのだ。

 バストイレ付きで家賃が1か月3万円の1LDK、最初このマンションに契約を決めた時、「高村の娘がこんなボロいマンション暮らしなんて、高村の顔に泥を塗るつもりですか!」と継母に叱られたことがよぎる。

 娼婦のようなアナタに言われたくないわよ。寛一郎の財産管理は、公設秘書が行っていたけど、継母は、途中から公設秘書試験に合格し、自分がやると、しゃしゃり出てからというもの、高村家5姉弟のお小遣いはなくなってしまったのだ。

 学費は出してもらえるけれど、それ以外の出費は、全部自分で稼がなければならない。

 18歳の小娘が1か月に稼げるお金なんて、たかが知れている。それこそパパ活でもすれば、別の話だろうけど。継母は、小夜香たち3姉妹にパパ活をさせ、スキャンダルで父寛一郎を潰す目的だったのかと思えるほど、高村の財布を握っていた。

 継母は、下着でも化粧品でも、常に最高のものを身にまとい、対して3姉妹には、コンビニ化粧品、100均下着という徹底ぶりで、長姉がいつもカンカンに激怒していたことを覚えている。

 その姉も大学を卒業すると同時に、結婚して家を出て行ってからは、継母に内緒で少しだけど、お小遣いをくれるようになり、パパ活をすることなく青春時代を送ることができたことは嬉しい。

 次姉も同じように大学を卒業して就職してから、継母に内緒で、お小遣いをくれるようになり、この二人の姉からのお小遣いと家庭教師のバイト代を足して、生活費を賄うには、このオンボロマンションは最適だったのだ。

 なんでも、自殺者が出たという訳ありな部屋だったけど、そんなことは気にしていられない。

 小夜香が暮らしている間の5年間は、一度も幽霊が出たことがなかった。だから、卒業後も住み続けていたのに、こうなれば、また事故物件狙いをするしかなさそう。

 必ず出るとは限らないのだから、クロスも床もすべて張り替えていて、バストイレも新品を設置してある。築55年のマンションとは思えないぐらい快適で家賃が格安。

 そのかわり耐震性は乏しいと思う。上の階の住人の足音、特に夜中のアノ声は少々困り、筒抜けで、コンドームの袋を破る音まで聞こえる。

 しかし、耳栓すれば、事足ることだから、許容範囲のうち。

 ただ小夜香は、いきなりだったことが不運。仕事が忙しくて、管理会社からの案内をロクすっぽ見ていなかったことから、前日になるまで気づかずにいた。

 仕方なく使っている家具を全部処分し、大きめのスーツケース2個に鍋釜からドライヤー、オープントースターなどの電化製品、傘、靴などを入れ、もう一つはタンスの中の洋服に下着、化粧品、シャンプーリンスなどを放り込む。

 ファンヒーターとエアコンは、諦めることにしたのだ。

 そのスーツケース2つを毎日もって、通勤する羽目になってしまう。

 泊まるところは、ビジネスホテル。素泊まりでも1万円以上する。貯金を取り崩し、安いビジネスホテルを探す。

 早く次の住処を探さなければ、ヤバイ。残業続きで土日にしか動けない。コンビニ弁当を買い、ビジネスホテルで食べることは、わびしい以外の何物でもない。

 それに1万円以上するビジネスホテルでも、夜中に寝ていると突然部屋のドアを開けようとする音が聞こえる。女性が一人で泊まっていることがわかると、レイプ目的の男が侵入しようとする。だから、鍵のかけ忘れは、即レイプ被害につながると言っても過言ではない。

 今、流行りのゲストハウスは相部屋だけどなかなか安くていい。予約が取れれば連泊したいが、人気があるところは、なかなか予約が難しい。

 いっきゅうさんや、ヤホーでは、ゲストハウス情報も乏しいので、不動産屋巡りをするついでに、足で探している。

 今日は土曜日、いつものように次の住処を探すため、不動産屋巡りをしていて、疲れたので、たまたま入ったカフェ。もう、足が棒のようになり、立っていることが辛い。

 小夜香は、ストロベリーシェイクを注文して、賃貸情報誌と睨めっこしている。

 「これが!」と思う物件は、たいてい成約済みで、なかなかいい条件の、といっても小夜香の場合は、事故物件狙いなのだけど、ない。

 事故物件ってありそうでない。「小島てる」さんサイトで探してから行っても、不動産屋さんから興味深そうにジロジロ見られ、挙句にまともな物件を勧められるか、成約済みと断られるかの2パターン。

 大学生でもあるまいし、一流企業に勤務しているOLが事故物件をわざわざ探すなどありえないと思われてのことかもしれない。

 「はぁ……。」

 思わず出るため息を吐きながら、注文したストロベリーシェイクを飲むと、小夜香の真後ろの席から何やら男女の言い争う声が聞こえてくる。

 さっきから、聞こえていたのだが、新しい住処を探していた小夜香の耳には届いていなかっただけ。

 「もう、いつになったら結婚してくれるのよ。私、来月で30歳になるのよ。」

 「俺はまだ結婚はしないと何度も言っているだろ。それにだいたい結婚する気でサユリと付き合っていたわけではない。」

 「なんなのよ、それ?3年も私と交際していて、結婚する気がないなんて、あり得ない話でしょ?」

 「サユリがしつこく遊びでもいいから、抱いて。と言ってきたじゃないか?」

 「ハァ?それを真に受けて、3年もの間、さんざん人のカラダを弄んどいて、よくそんなことが言えるわね。お願いだから、結婚してよ。ウチの親、学校の教師なのよ。嫁入り前の娘が綺麗なカラダではないなんて、知ったらお見合いもさせてくれないわ。」

 「俺と知り合った時、すでにバージンではなかったじゃないか?俺がバージンを奪ったのなら文句のつけようもあるかもしれないが、それなら最初に捧げた奴に結婚してくれと言えばいいのではないか?筋違いの要求には、断固として拒否する。」

 「結婚する気がないのに、私を抱いたってこと?」

 「だから、何度も言っただろ、サユリとは結婚する気がない。当分、仕事が忙しいから結婚する気などない。」

 「ばか!ヨウスケなんて、大嫌いよ。」

 「嫌いでけっこう。じゃあな。」

 よーすけ?後ろの席にいた小夜香は、どこかで聞き覚えのある名前に振り返ろうかどうしようか、でもあからさまに見るのは……失礼かもしれない。

 そんな時、後ろから「パツーン!」というビンタ音が聞こえてきた。

 そして真後ろにいた女性がいきなり立ち上がって、かなりの大声を張り上げ、

 「ヨウスケ、本当に最低の男ね。最後にこれだけは言わせてもらうわ。ヨウスケのセックスは世界で一番へたくそなセックスだったわ。自分善がりのセックスで、今まで付き合ってきた男の中で一番へたくそなセックスに呆れたわ。あんなセックスをしていたら、女は誰も満足なんて、できやしない。せいぜい一人で、自分を慰めてあげて、ヨウスケなんかと結婚したい女などいるはずがないわ。だからヨウスケと結婚しなくてよかったわ。さようなら。」

 それだけをいい女性は伝票も持たずに店から出ていく。

 男性の方は、唖然とした様子で、でも、その時小夜香と偶然、目が遭ってしまったような?

 いやいや、すぐ小夜香は目を逸らしたから、合ってないはず。

 なんとセックスが下手だと言われた男性は、小夜香の直属の上司であったのだ。まさかね、似ている人だけよね。

 新藤陽介33歳、社内で一番のハイスペイケメンと言われている上司。でもさっきの女の人は、その男性のことをヨウスケと呼んでいたような。

 いやいや、私には関係のない話だから、見て見ぬふりを決め込む。

 たとえ、それが上司であったとしても、でもこんな大勢の人に聞こえよがしにセックス下手をアピールされたら、誰だってイヤだろうなとは思う。

 ほかの女性客は、チラチラと小夜香の後ろの席に視線を送り、ひそひそと喋っている様子。

 小夜香は、知らんぷりを決め込んでいると、いつの間にか後ろの席にいた上司が小夜香のところまできて伝票を手に取りながら

 「待たせて、悪かったな。行こうか。」

 声をかけてきて、ビックリする!

 「えええーっ!私は何の関係もないわー!巻き込むなんて、ひどいー!」

 あっさり心の声を無視されてしまう。

 ほかのお客さんは、これからの展開に興味津々な様子で、小夜香とヨウスケの動向を見守っている。

 上司は、会計のところで、2枚の伝票を出し、支払いを済ませた後、さっさと出口に向かっていく。小夜香は慌てて、その後を追いかける。
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