契約婚から玉の輿婚~前世喪女が朝チュン

青の雀

文字の大きさ
2 / 15

2

しおりを挟む
 とにかくわたくしは、まっすぐ家へ帰り、自室のベッドへダイブして二度寝を楽しむ。

 どこの誰かも知らない男と長~い夜を過ごしてしまったわけだが、もう考えることは止そう。二度と会わない一夜限りの過ちだから。

 でも社交界は、そんなに甘くはない。

 わたくしバーバラ・メルセデスがハーバネス公爵から婚約破棄され、「捨てられたシンデレラ」という汚名がついてしまったのだ。

 それに引き換えハーバネス公爵は、まだ婚約者がいない希少物件として、他の貴族令嬢からモテモテになっているらしい。

 「ちくしょう!アイツのせいで、わたくしの純潔は散らされたというのに!それもどこの誰かもわからない男に捧げちまったなんて……。」

 バーバラはやはりあの夜のことを気にしていた。いくら忘れようたって、忘れられない。破談だけでも貴族令嬢にとっては汚点になる。

 それがこともあろうと、見知らぬ男性と一夜を共にしてしまったのだから、もう汚点などというレベルではない。

 他の国では婚約破棄された女性は修道院へ行くか、キズモノ同盟に入らなければならない。

 バーバラはそのどちらも行くことを拒否している。なんで?女だけ?どう考えても不公平。ハーバネス公爵もキズモノじゃない?婚約者から愛されずに、待ちくたびれて破棄しといて、自分だけモテモテってどういうことよ?

 まぁ、いいっか。所詮、アイツは器が小さな男だということね。

 「何が一生大切にします。だ。口では調子のいいこといくらだって言えるからね。あーあ、なんて愚かな女だったのかねぇ。」

 それから夜会があるたびに憂鬱な気分にさせられる。針の筵に座らせられた気分、わたくしを見て、あちこちでヒソヒソ、クスクス。そんなある時、ハーバネス公爵が男爵令嬢と結婚したという噂を耳にする。

 そしてその男爵令嬢は、バーバラの前に勝ち誇った顔で登場したのだ。

 「あなたがバーバラ・メルセデス様なのね。ハーバネス様と婚約していたって言うから、もっと美人かと思っていたわ。案外、というかずいぶんなオバサンでビックリしちゃったわ。ウチの人、年増が好きだったのよね。あ!そうだ。わたくしのオジサマ、バツイチで子供もいるけど、紹介して差し上げましょうか?」

 なんたる屈辱!たかが若いというだけで、男爵令嬢を嫁にするとは、ハーバネスもとんだ貧乏くじを引いたものね。

 「その必要はない。バーバラ・メルセデスは、私の婚約者だからだ。」

 振り向くと、そこにはあの夜の男が立っていた。なぜか周りにいた貴族たちはすべて跪いている。立っているのは、バーバラとハーバネス公爵夫人の二人だけ。

 バーバラは訳が分からないが、皆と同じように跪く姿勢を取ろうとするが、一夜限りの男性がバーバラの腰を抱いているから、かがめない。

 そこへハーバネス公爵が歩み出て、無理にでも夫人のリリアーヌを跪かせようとする。

 「陛下、妻の無礼、お許しください。そして、バーバラ嬢が陛下の……、その……婚約者と言うのは真のことでございましょうか?」

 陛下?

 この国で陛下と呼ばれる人はただ一人!国王陛下しかいない!

 「ハーバネス!貴様がようやく婚約破棄してくれたおかげだ。礼を言う。」

 「そ、そんな……、陛下が恋敵だったなんて……。知っていたら婚約破棄などせずに、いやそもそも婚約の申し込みなど……恐れ多いことを。」

 「皆のものに告ぐ。ここにいるバーバラ・メルセデス伯爵令嬢は今後、この王国の王妃となる女性である。国王であるバトラー・アルキメデスの名において、これより誰であろうと私の婚約者に無礼を働くことは断じて許さない。」

 「はぁ?旦那様も国王陛下も、こんなオバサンのどこがいいわけ?」

 「リリアーヌ、陛下の御前だ、おとなしく……。」

 ハーバネス様が言い終わらないうちに、リリアーヌは衛兵により連れていかれる。

 「旦那様ぁ、助けてぇ!」

 「私の婚約者をオバサン呼ばわりするなどバカな女だ。ハーバネス!そなたの処分は追って言い渡す。」

 ありゃぁ!家がつぶれるかもしれないね。

 でも信じられない展開!一夜限りの火遊びが、まさか王妃になるなんて夢みたい。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

拝啓~私に婚約破棄を宣告した公爵様へ~

岡暁舟
恋愛
公爵様に宣言された婚約破棄……。あなたは正気ですか?そうですか。ならば、私も全力で行きましょう。全力で!!!

良くある事でしょう。

r_1373
恋愛
テンプレートの様に良くある悪役令嬢に生まれ変っていた。 若い頃に死んだ記憶があれば早々に次の道を探したのか流行りのざまぁをしたのかもしれない。 けれど酸いも甘いも苦いも経験して産まれ変わっていた私に出来る事は・・。

やさしい・悪役令嬢

きぬがやあきら
恋愛
「そのようなところに立っていると、ずぶ濡れになりますわよ」 と、親切に忠告してあげただけだった。 それなのに、ずぶ濡れになったマリアナに”嫌がらせを指示した張本人はオデットだ”と、誤解を受ける。 友人もなく、気の毒な転入生を気にかけただけなのに。 あろうことか、オデットの婚約者ルシアンにまで言いつけられる始末だ。 美貌に、教養、権力、果ては将来の王太子妃の座まで持ち、何不自由なく育った箱入り娘のオデットと、庶民上がりのたくましい子爵令嬢マリアナの、静かな戦いの火蓋が切って落とされた。

【完結】謀られた令嬢は、真実の愛を知る

白雨 音
恋愛
男爵令嬢のミシェルは、十九歳。 伯爵子息ナゼールとの結婚を二月後に控えていたが、落馬し、怪我を負ってしまう。 「怪我が治っても歩く事は難しい」と聞いた伯爵家からは、婚約破棄を言い渡され、 その上、ナゼールが自分の代わりに、親友のエリーゼと結婚すると知り、打ちのめされる。 失意のミシェルに、逃げ場を与えてくれたのは、母の弟、叔父のグエンだった。 グエンの事は幼い頃から実の兄の様に慕っていたが、彼が伯爵を継いでからは疎遠になっていた。 あの頃の様に、戻れたら…、ミシェルは癒しを求め、グエンの館で世話になる事を決めた___  異世界恋愛:短編☆(全13話)  ※魔法要素はありません。 ※叔姪婚の認められた世界です。 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

もしもゲーム通りになってたら?

クラッベ
恋愛
よくある転生もので悪役令嬢はいい子に、ヒロインが逆ハーレム狙いの悪女だったりしますが もし、転生者がヒロインだけで、悪役令嬢がゲーム通りの悪人だったなら? 全てがゲーム通りに進んだとしたら? 果たしてヒロインは幸せになれるのか ※3/15 思いついたのが出来たので、おまけとして追加しました。 ※9/28 また新しく思いつきましたので掲載します。今後も何か思いつきましたら更新しますが、基本的には「完結」とさせていただいてます。9/29も一話更新する予定です。 ※2/8 「パターンその6・おまけ」を更新しました。 ※4/14「パターンその7・おまけ」を更新しました。

悪役令嬢は名女優 〜そんな小芝居で私を断罪できるとでも?〜

本見りん
恋愛
 元女優のこの私は、婚約者の王子の三文芝居に我慢が出来なくてよ!  いきなり始まった婚約破棄劇の真っ最中に蘇った前世の記憶。  『婚約破棄』? 『私がそこの令嬢をいじめた』? ……何を言っているのかしら? そんな三流の小芝居でこの私を陥れようだなんて! 前世名女優と呼ばれたこの私が本物の演技というものを見せて差し上げますわ!  王宮でのパーティーでいきなり『婚約破棄』を言い出した婚約者のファビアン王子に、前世は大女優だった侯爵令嬢セシリアが演技で反撃させていただきます!   『小説家になろう』様にも投稿しています。

処理中です...