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番外編
【番外編】ロジェのクマ3(ユベルティナ視点)
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翌朝。
ロジェの執務室の扉を開き、中に入ったのは――
(緊張する……)
胸にサラシを巻き、騎士団の制服を着て男装したユベルティナだった。
ロジェの真意を探るため、今日だけユビナティオと入れ替わることにしたのだ。
(……ロジェ様は気づいてくれるかしら? それとも……)
愛するロジェには気づいてもらいたい。
だが、なんといってもそっくりな双子である。気がつかなくても無理はないし、かえって気づいてくれないほうが双子の矜持が満たされる側面もある……。
ドキドキしながらロジェに挨拶しようとするが、机で書類を読んでいたロジェは顔を上げるなり、
「……!」
目を見開いた。そして次の瞬間には、見たこともないほど優しい笑みを浮かべ……。
その笑顔を見て、ユベルティナは胸をなで下ろし、そして同時にイタズラが失敗した気分になった。
ロジェは、どんなに双子が似ていてもユベルティナを見抜いてくれるのだ。その安心感が妙に肌触りの良い毛布のように、いろいろな思いに揺れるユベルティナの胸をふわりと包み込んでいる。
無言で椅子から立ち上がったロジェが、そのままユベルティナに近寄ってきて――、
「ユベルティナ……!」
ぎゅっ、と抱きしめられた。
「……っ」
抱きしめられたユベルティナはきゅんと胸を疼かせながら、ロジェの腕の中に収まっていた。
こうして彼とスキンシップをとるのは久しぶりなのだ。
週一のデートは人目があって、手を握ることすらなかなかできないから……。
ロジェはしばらくユベルティナを抱き締めていたが、やがてゆっくりと身体を離すと、まじまじとユベルティナの顔を見つめた。
「どうしたんだ、こんな姿になって。今日は、ユビナティオは?」
「えーと、その……」
「もしかして、何かあったのか」
ロジェは真剣な眼差しでユベルティナの目を見ている。
「いえ、そういうわけではなくてですね、実はティオに相談されたんですけど……」
ユベルティナは説明を始める。
ロジェに嫌われているのではないか、とユビナティオが悩んでいたこと。……性的に狙われているかも、は言わなかったが。
そこでユベルティナが思いついた方法のこと――。
――ロジェがユビナティオを嫌っているのかどうか、確かめる方法。それが、これだった。
もう一度、ユビナティオと入れ替わるのだ。それでロジェを探る。
ロジェが男装したユベルティナだと気づけば直接話を聞くし、気づかなければ様子を見つつ判断をする――そんな大ざっぱな計画だった。
それに、ユベルティナの勘が正しければ。彼が男装を見抜けばそれだけで問題は解決するはずだ。
「私が、ユビナティオを嫌っているだと?」
「そう思ってるみたいなんです、ティオは」
「そんなことはないが……」
ユベルティナは視線をついと資料室のドアへ向けた。
「……自分を避けて資料室に行って、しばらく戻ってこなかった、って……」
「……………………」
ロジェは薄いクマのある目を軽く瞬かせたが無言である。そんな彼の頬を、ユベルティナは両手で覆った。
「ところでロジェ様。ちゃんと寝れてます?」
「……正直、君のことばかり考えて、よく眠れていない」
「週に一度は会っているのに」
「それでは足りない」
ロジェはユベルティナの手に自分の手を重ねると、そのまま顔を近づけてきた。
ユベルティナはそっと瞳を閉じる。
優しく唇を塞がれ、ユベルティナの心臓が跳ね上がった。
(ロジェ様……)
ユベルティナが切なく思うと同時に、彼はそっと離れた。
「……君が欲しくて欲しくて、たまらないんだ」
ああ――
ユベルティナはそっと息を吐いた。
思っていたとおりだ。
週一回、彼と会うときは、常に誰かの目がある環境だった。
以前は簡単に二人っきりになれたのに、今はなかなかなれない。それはつまり二人で逢瀬を楽しむ暇などないことを意味する。
ごちそうが目の前にあるのに手をつけてはいけない状況が続いているのである、それがロジェにとってかなりのストレスとなっているのだろう。
一ヶ月前までは頻繁に愛を交わしていたわけだから……。
「もうっ、ロジェ様ったら」
ユベルティナは、ロジェの胸に額を押し当てながら、わざと軽い調子で囁いた。
「わたしと二人っきりになれないくらいで仕事に支障をきたすなんて。ロジェ様らしくないですよ」
ロジェは苦笑しながら訂正する。
「確かに自分が情けないとは思うが……、べつに仕事に支障はきたしてはいない」
「十分支障ですよ。部下のメンタルを壊しかけたんですから。かわいそうに、ティオったらノイローゼっぽくなっちゃってるんですよ!」
「そうか……、それはすまなかった」
「まっ、ティオにはちゃんとわたしから言っておきます。嫌われているわけじゃないんだって! それより、仕事の内容は変わってませんよね?」
ユベルティナはロジェを見上げ、にっこりと微笑みかけた。
「今日はわたしがユビナティオですから。久しぶりにお手伝いしますね!」
「……そうだな」
ロジェはユベルティナの髪を撫でると、耳に口を寄せ囁く。
「早く終わらせて、君と『続き』をしよう」
「……も、もうっ! そんなことを言って……」
ユベルティナは思わず赤面した。
今日は様子見だけに留める予定だったのだが、ロジェの様子だとそれだけでは収まりそうもない。
まぁ、ごちそうが目の前にあるのにお預けをくらっているのはユベルティナだって同じである。
ロジェにここまで求められて、正直嬉しいし、ロジェと深く繋がりたいとも思う。
「それとも……」
ロジェはユベルティナの手を取ると、ちゅっ、とキスを落とした。
「今すぐ君を抱いても?」
「……っ!」
ユベルティナは真っ赤になってパッと彼から離れた。
まんざらでもないユベルティナではあるが、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
「とっ、とりあえず仕事しましょう、ロジェ様!」
「……そうだな。手早く片付けるか」
ロジェはくすりと笑うと、ユベルティナに促されるまま、執務机に戻り仕事に取りかかった――。
ロジェの執務室の扉を開き、中に入ったのは――
(緊張する……)
胸にサラシを巻き、騎士団の制服を着て男装したユベルティナだった。
ロジェの真意を探るため、今日だけユビナティオと入れ替わることにしたのだ。
(……ロジェ様は気づいてくれるかしら? それとも……)
愛するロジェには気づいてもらいたい。
だが、なんといってもそっくりな双子である。気がつかなくても無理はないし、かえって気づいてくれないほうが双子の矜持が満たされる側面もある……。
ドキドキしながらロジェに挨拶しようとするが、机で書類を読んでいたロジェは顔を上げるなり、
「……!」
目を見開いた。そして次の瞬間には、見たこともないほど優しい笑みを浮かべ……。
その笑顔を見て、ユベルティナは胸をなで下ろし、そして同時にイタズラが失敗した気分になった。
ロジェは、どんなに双子が似ていてもユベルティナを見抜いてくれるのだ。その安心感が妙に肌触りの良い毛布のように、いろいろな思いに揺れるユベルティナの胸をふわりと包み込んでいる。
無言で椅子から立ち上がったロジェが、そのままユベルティナに近寄ってきて――、
「ユベルティナ……!」
ぎゅっ、と抱きしめられた。
「……っ」
抱きしめられたユベルティナはきゅんと胸を疼かせながら、ロジェの腕の中に収まっていた。
こうして彼とスキンシップをとるのは久しぶりなのだ。
週一のデートは人目があって、手を握ることすらなかなかできないから……。
ロジェはしばらくユベルティナを抱き締めていたが、やがてゆっくりと身体を離すと、まじまじとユベルティナの顔を見つめた。
「どうしたんだ、こんな姿になって。今日は、ユビナティオは?」
「えーと、その……」
「もしかして、何かあったのか」
ロジェは真剣な眼差しでユベルティナの目を見ている。
「いえ、そういうわけではなくてですね、実はティオに相談されたんですけど……」
ユベルティナは説明を始める。
ロジェに嫌われているのではないか、とユビナティオが悩んでいたこと。……性的に狙われているかも、は言わなかったが。
そこでユベルティナが思いついた方法のこと――。
――ロジェがユビナティオを嫌っているのかどうか、確かめる方法。それが、これだった。
もう一度、ユビナティオと入れ替わるのだ。それでロジェを探る。
ロジェが男装したユベルティナだと気づけば直接話を聞くし、気づかなければ様子を見つつ判断をする――そんな大ざっぱな計画だった。
それに、ユベルティナの勘が正しければ。彼が男装を見抜けばそれだけで問題は解決するはずだ。
「私が、ユビナティオを嫌っているだと?」
「そう思ってるみたいなんです、ティオは」
「そんなことはないが……」
ユベルティナは視線をついと資料室のドアへ向けた。
「……自分を避けて資料室に行って、しばらく戻ってこなかった、って……」
「……………………」
ロジェは薄いクマのある目を軽く瞬かせたが無言である。そんな彼の頬を、ユベルティナは両手で覆った。
「ところでロジェ様。ちゃんと寝れてます?」
「……正直、君のことばかり考えて、よく眠れていない」
「週に一度は会っているのに」
「それでは足りない」
ロジェはユベルティナの手に自分の手を重ねると、そのまま顔を近づけてきた。
ユベルティナはそっと瞳を閉じる。
優しく唇を塞がれ、ユベルティナの心臓が跳ね上がった。
(ロジェ様……)
ユベルティナが切なく思うと同時に、彼はそっと離れた。
「……君が欲しくて欲しくて、たまらないんだ」
ああ――
ユベルティナはそっと息を吐いた。
思っていたとおりだ。
週一回、彼と会うときは、常に誰かの目がある環境だった。
以前は簡単に二人っきりになれたのに、今はなかなかなれない。それはつまり二人で逢瀬を楽しむ暇などないことを意味する。
ごちそうが目の前にあるのに手をつけてはいけない状況が続いているのである、それがロジェにとってかなりのストレスとなっているのだろう。
一ヶ月前までは頻繁に愛を交わしていたわけだから……。
「もうっ、ロジェ様ったら」
ユベルティナは、ロジェの胸に額を押し当てながら、わざと軽い調子で囁いた。
「わたしと二人っきりになれないくらいで仕事に支障をきたすなんて。ロジェ様らしくないですよ」
ロジェは苦笑しながら訂正する。
「確かに自分が情けないとは思うが……、べつに仕事に支障はきたしてはいない」
「十分支障ですよ。部下のメンタルを壊しかけたんですから。かわいそうに、ティオったらノイローゼっぽくなっちゃってるんですよ!」
「そうか……、それはすまなかった」
「まっ、ティオにはちゃんとわたしから言っておきます。嫌われているわけじゃないんだって! それより、仕事の内容は変わってませんよね?」
ユベルティナはロジェを見上げ、にっこりと微笑みかけた。
「今日はわたしがユビナティオですから。久しぶりにお手伝いしますね!」
「……そうだな」
ロジェはユベルティナの髪を撫でると、耳に口を寄せ囁く。
「早く終わらせて、君と『続き』をしよう」
「……も、もうっ! そんなことを言って……」
ユベルティナは思わず赤面した。
今日は様子見だけに留める予定だったのだが、ロジェの様子だとそれだけでは収まりそうもない。
まぁ、ごちそうが目の前にあるのにお預けをくらっているのはユベルティナだって同じである。
ロジェにここまで求められて、正直嬉しいし、ロジェと深く繋がりたいとも思う。
「それとも……」
ロジェはユベルティナの手を取ると、ちゅっ、とキスを落とした。
「今すぐ君を抱いても?」
「……っ!」
ユベルティナは真っ赤になってパッと彼から離れた。
まんざらでもないユベルティナではあるが、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
「とっ、とりあえず仕事しましょう、ロジェ様!」
「……そうだな。手早く片付けるか」
ロジェはくすりと笑うと、ユベルティナに促されるまま、執務机に戻り仕事に取りかかった――。
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