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第17話 反省したパスカル1
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(ついに突き落とす段まできてしまいましたか……)
ゼナはため息をつき、目の前の背中を見つめた。
ゼナの目線より高い位置にある肩――それはフレデリクの実弟・パスカルだった。
朝にざっぱあと水を掛けられ、昼の教室移動中に兄の白い液体を机の中に放たれた、あのパスカルである。
今は放課後。
ゼナとパスカルは旧校舎裏にある非常階段の踊り場にいた。
遠くから運動部のかけ声が聞こえるくらいで、ここは人通りもなく静かなものだ。
踊り場から下を見てみれば、すぐ下にナルティーヌが控えていた。ついでに柔らかそうな芝生も敷かれている。
――さて。ここからパスカルを突き落とさなければならない。
誰かに見られたら言い逃れできないほどの、これは犯罪行為だ。
「あの、私……」
こんなの嫌です。やっぱりやめませんか? その言葉はしかし、中断されてしまった。
振り返ったパスカルがゼナの言葉を遮って謝ってきたのだ。
「すみませんでした、ゼナさん。本当に申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げるパスカル。ゼナは一瞬呆気に取られてしまう。
「パスカル様……?」
「今日一日、いろいろ考えたんです。あなたにしたこと、ナルティーヌさんにしたこと。……俺は最低です」
「…………」
「こんなことを言って許されるなんて思っていません。でも、これだけは言わせてください。すみませんでした!」
パスカルはまた深く頭をさげた。
この人はもう、「なんで俺がこんな目に……」と嘆いていた今朝のパスカルではない。
きちんと反省し、更生したパスカルだ。
パスカルはたった一日で自分の罪を認め、謝罪できる強さを持った人間になったのである。
「パスカル様……」
「俺はただ、皆さんが羨ましかった。かっこよくてモテモテな兄上、眼鏡をとったら美少女でモテモテなゼナさん、あとキャラが濃くてモテモテみたいな感じになってるナルティーヌさん。みんな学園ですごく目立ってるし、俺よりもずっと幸せなんだと思ってたんです。それでつい嫉妬してあんな真似を……」
ゼナは黙ったまま聞いている。彼の謝罪を、一言一句聞き逃さないように。
「本当に、本当に申し訳ありませんでした」
もう一度深く頭を下げて、パスカルは謝罪した。ゼナのほうを向いたまま、彼は動かない。
ゼナは、微笑んでみせた。
「パスカル様、頭をあげてくださいませ。あなたの気持ちはよくわかりました。私は……、私は、あなたを許します」
「ゼナさん……!」
「ですから……」
ゼナは自分の胸の前で両手を組み、祈るようなポーズをした。
「これからは仲良くしてくれますか? 私の大切なお友達として」
「もっ、もちろんです! こちらこそ、よろしくお願いいたします!」
ぱあああっと笑顔を浮かべるパスカルに、ゼナも嬉しくなって笑ってしまった。
「うふっ、よろしくお願いしますね、パスカル様。それではさっそく一ついいでしょうか?」
「はい、なんでもどうぞ!」
「もう、これやめませんか?」
……それは、紛う事なきゼナの本心だった。
ゼナはため息をつき、目の前の背中を見つめた。
ゼナの目線より高い位置にある肩――それはフレデリクの実弟・パスカルだった。
朝にざっぱあと水を掛けられ、昼の教室移動中に兄の白い液体を机の中に放たれた、あのパスカルである。
今は放課後。
ゼナとパスカルは旧校舎裏にある非常階段の踊り場にいた。
遠くから運動部のかけ声が聞こえるくらいで、ここは人通りもなく静かなものだ。
踊り場から下を見てみれば、すぐ下にナルティーヌが控えていた。ついでに柔らかそうな芝生も敷かれている。
――さて。ここからパスカルを突き落とさなければならない。
誰かに見られたら言い逃れできないほどの、これは犯罪行為だ。
「あの、私……」
こんなの嫌です。やっぱりやめませんか? その言葉はしかし、中断されてしまった。
振り返ったパスカルがゼナの言葉を遮って謝ってきたのだ。
「すみませんでした、ゼナさん。本当に申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げるパスカル。ゼナは一瞬呆気に取られてしまう。
「パスカル様……?」
「今日一日、いろいろ考えたんです。あなたにしたこと、ナルティーヌさんにしたこと。……俺は最低です」
「…………」
「こんなことを言って許されるなんて思っていません。でも、これだけは言わせてください。すみませんでした!」
パスカルはまた深く頭をさげた。
この人はもう、「なんで俺がこんな目に……」と嘆いていた今朝のパスカルではない。
きちんと反省し、更生したパスカルだ。
パスカルはたった一日で自分の罪を認め、謝罪できる強さを持った人間になったのである。
「パスカル様……」
「俺はただ、皆さんが羨ましかった。かっこよくてモテモテな兄上、眼鏡をとったら美少女でモテモテなゼナさん、あとキャラが濃くてモテモテみたいな感じになってるナルティーヌさん。みんな学園ですごく目立ってるし、俺よりもずっと幸せなんだと思ってたんです。それでつい嫉妬してあんな真似を……」
ゼナは黙ったまま聞いている。彼の謝罪を、一言一句聞き逃さないように。
「本当に、本当に申し訳ありませんでした」
もう一度深く頭を下げて、パスカルは謝罪した。ゼナのほうを向いたまま、彼は動かない。
ゼナは、微笑んでみせた。
「パスカル様、頭をあげてくださいませ。あなたの気持ちはよくわかりました。私は……、私は、あなたを許します」
「ゼナさん……!」
「ですから……」
ゼナは自分の胸の前で両手を組み、祈るようなポーズをした。
「これからは仲良くしてくれますか? 私の大切なお友達として」
「もっ、もちろんです! こちらこそ、よろしくお願いいたします!」
ぱあああっと笑顔を浮かべるパスカルに、ゼナも嬉しくなって笑ってしまった。
「うふっ、よろしくお願いしますね、パスカル様。それではさっそく一ついいでしょうか?」
「はい、なんでもどうぞ!」
「もう、これやめませんか?」
……それは、紛う事なきゼナの本心だった。
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