【R18】婚約者が変態すぎて困るのですがどうしたらいいでしょうか?

卯月ミント

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第17話 反省したパスカル1

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(ついに突き落とす段まできてしまいましたか……)

 ゼナはため息をつき、目の前の背中を見つめた。

 ゼナの目線より高い位置にある肩――それはフレデリクの実弟・パスカルだった。

 朝にざっぱあと水を掛けられ、昼の教室移動中に兄の白い液体を机の中に放たれた、あのパスカルである。

 今は放課後。
 ゼナとパスカルは旧校舎裏にある非常階段の踊り場にいた。
 遠くから運動部のかけ声が聞こえるくらいで、ここは人通りもなく静かなものだ。

 踊り場から下を見てみれば、すぐ下にナルティーヌが控えていた。ついでに柔らかそうな芝生も敷かれている。

 ――さて。ここからパスカルを突き落とさなければならない。

 誰かに見られたら言い逃れできないほどの、これは犯罪行為だ。

「あの、私……」

 こんなの嫌です。やっぱりやめませんか? その言葉はしかし、中断されてしまった。

 振り返ったパスカルがゼナの言葉を遮って謝ってきたのだ。

「すみませんでした、ゼナさん。本当に申し訳ありませんでした」

 深々と頭を下げるパスカル。ゼナは一瞬呆気に取られてしまう。

「パスカル様……?」

「今日一日、いろいろ考えたんです。あなたにしたこと、ナルティーヌさんにしたこと。……俺は最低です」

「…………」

「こんなことを言って許されるなんて思っていません。でも、これだけは言わせてください。すみませんでした!」

 パスカルはまた深く頭をさげた。
 この人はもう、「なんで俺がこんな目に……」と嘆いていた今朝のパスカルではない。
 きちんと反省し、更生したパスカルだ。
 パスカルはたった一日で自分の罪を認め、謝罪できる強さを持った人間になったのである。

「パスカル様……」

「俺はただ、皆さんが羨ましかった。かっこよくてモテモテな兄上、眼鏡をとったら美少女でモテモテなゼナさん、あとキャラが濃くてモテモテみたいな感じになってるナルティーヌさん。みんな学園ですごく目立ってるし、俺よりもずっと幸せなんだと思ってたんです。それでつい嫉妬してあんな真似を……」

 ゼナは黙ったまま聞いている。彼の謝罪を、一言一句聞き逃さないように。

「本当に、本当に申し訳ありませんでした」

 もう一度深く頭を下げて、パスカルは謝罪した。ゼナのほうを向いたまま、彼は動かない。

 ゼナは、微笑んでみせた。

「パスカル様、頭をあげてくださいませ。あなたの気持ちはよくわかりました。私は……、私は、あなたを許します」

「ゼナさん……!」

「ですから……」

 ゼナは自分の胸の前で両手を組み、祈るようなポーズをした。

「これからは仲良くしてくれますか? 私の大切なお友達として」

「もっ、もちろんです! こちらこそ、よろしくお願いいたします!」

 ぱあああっと笑顔を浮かべるパスカルに、ゼナも嬉しくなって笑ってしまった。

「うふっ、よろしくお願いしますね、パスカル様。それではさっそく一ついいでしょうか?」

「はい、なんでもどうぞ!」

「もう、これやめませんか?」

 ……それは、まごう事なきゼナの本心だった。





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