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第29話 足に絡まる白い蛇
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「はぁ……」
ゼナは登校してきた廊下でため息をついた。
「あら、ゼナ様。ごきげんよう……」
「ごきげんよう、セルフィス様」
「そっ、それじゃあ。元気出して下さいませね、ゼナ様」
「あ、はい。ありがとうございます、セルフィス様」
……こんな具合にクラスメイトに朝の挨拶をするのでも、今朝はなんとなく相手の反応まちまちなのだ。
たとえばこのセルフィス嬢は気がかりそうに眉を下げてねぎらいの言葉をかけてくれるが、さきほど挨拶した別の令嬢はちょっぴり顔を朱くして恥ずかしそう視線を移ろわせていた。
そしてだいたいの男子生徒は遠巻きにゼナを見て目を輝かせている。
(いったい何だっていうのかしら……)
いつも人目を避けるために瓶底眼鏡をしているし、青みがかった豊かな黒髪も二本のお下げにまとめているというのに。
そんな扮装なんて意味ないといわんばかりのこの注目度……。
うつむきながらため息をつくゼナ。
(なんだか分からないけど目立ちたくないよぅ……)
そんな彼女の足下に何かが絡みつく。ゼナが足元を見ると、そこには白蛇がいた。
「ッ!?」
いきなりのことに驚くわ逃げようとするわ絡みつかれた足はもつれるわで、ゼナは派手に転倒し――なかった。
「おっと。大丈夫ですか?」
ゼナを抱き留めたのは背の高い教師だった。魔術教諭のチェナート・アロイズモだ。
「せっ、先生! 私の足を見て下さい!」
ゼナは恐怖にかられたまま必死に訴えかける。だがチェナートは首を傾げるばかりだった。
「何のことです? あなたの綺麗なおみ足を見ても何もありませんけど……ああ、あなたはお美しいですね、ゼナさん。まるで天使のようですよ」
専門は攻撃魔術であるチェナートは、真顔で女性を口説くようなことをいう。
顔もいいので女子生徒からの人気は高い。ちなみに彼は生徒とは一線を引いていて絶対に手を出してこない――これが人気の最大の秘訣ではある。
「ちっ、違います。あの、私の足に白い蛇が……!」
「そんなものいませんよ?」
チェナートはキョトンとした顔をする。
「えっ?」
ゼナは足下を見て――自分の目が信じられなかった。
確かに自分の足元にいたはずの白蛇がいないのだ。
代わりに、一枚の白い羽が落ちていた。ゼナはそれを拾ってしげしげと眺めてみる。
「……まさか、これを見間違えたのかしら?」
「おやおやゼナさん、背中に隠していた白い翼から羽が一枚抜け落ちたようですね。と、言いたいところですが……ちょっと貸してくれますか」
チェナートは羽をゼナから受け取ると、軸をもってくるくると回した。
「ふむ、やはりこれは白羽の悪魔のもの……」
「え? なんですかそれは」
「白羽の悪魔は人に幻覚を見せます。悪魔ならぬ人であってもその羽を使えば強い幻覚を人に見せることができる……。この前授業でやりましたよ?」
「す、すみません」
最近授業中に寝ていることが多いゼナは素直に謝った。
「おそらくゼナさんが見たという白い蛇の正体はこれでしょうね。術者が魔術で一瞬だけこの羽を蛇にしたのでしょう」
「そ、そんな……」
ゼナは震えあがった。
教師であり魔導師でもあるチェナートがいうのだからそれは正しいのだろうが。
しかし、いったい誰がゼナの足に幻の蛇を絡ませるなんてことを……?
「ゼナさん、これは私が預かっていいですか? 少し私のほうで調べてみます」
「す、すみません先生。お願いします」
ゼナは勢いよくぺこりと頭を下げて頼む。あまりの勢いに編んだ三つ編みが宙を舞ったほどである。
「こういうのは私の専門分野でもありますからね。興味あるんです。またなにかあったら相談に来て下さい。私でよかったらいつでも力になりますよ」
「はい……、ありがとうございます、先生」
ゼナは恥ずかしげにはにかんでお礼を言ったのだった。
ゼナは登校してきた廊下でため息をついた。
「あら、ゼナ様。ごきげんよう……」
「ごきげんよう、セルフィス様」
「そっ、それじゃあ。元気出して下さいませね、ゼナ様」
「あ、はい。ありがとうございます、セルフィス様」
……こんな具合にクラスメイトに朝の挨拶をするのでも、今朝はなんとなく相手の反応まちまちなのだ。
たとえばこのセルフィス嬢は気がかりそうに眉を下げてねぎらいの言葉をかけてくれるが、さきほど挨拶した別の令嬢はちょっぴり顔を朱くして恥ずかしそう視線を移ろわせていた。
そしてだいたいの男子生徒は遠巻きにゼナを見て目を輝かせている。
(いったい何だっていうのかしら……)
いつも人目を避けるために瓶底眼鏡をしているし、青みがかった豊かな黒髪も二本のお下げにまとめているというのに。
そんな扮装なんて意味ないといわんばかりのこの注目度……。
うつむきながらため息をつくゼナ。
(なんだか分からないけど目立ちたくないよぅ……)
そんな彼女の足下に何かが絡みつく。ゼナが足元を見ると、そこには白蛇がいた。
「ッ!?」
いきなりのことに驚くわ逃げようとするわ絡みつかれた足はもつれるわで、ゼナは派手に転倒し――なかった。
「おっと。大丈夫ですか?」
ゼナを抱き留めたのは背の高い教師だった。魔術教諭のチェナート・アロイズモだ。
「せっ、先生! 私の足を見て下さい!」
ゼナは恐怖にかられたまま必死に訴えかける。だがチェナートは首を傾げるばかりだった。
「何のことです? あなたの綺麗なおみ足を見ても何もありませんけど……ああ、あなたはお美しいですね、ゼナさん。まるで天使のようですよ」
専門は攻撃魔術であるチェナートは、真顔で女性を口説くようなことをいう。
顔もいいので女子生徒からの人気は高い。ちなみに彼は生徒とは一線を引いていて絶対に手を出してこない――これが人気の最大の秘訣ではある。
「ちっ、違います。あの、私の足に白い蛇が……!」
「そんなものいませんよ?」
チェナートはキョトンとした顔をする。
「えっ?」
ゼナは足下を見て――自分の目が信じられなかった。
確かに自分の足元にいたはずの白蛇がいないのだ。
代わりに、一枚の白い羽が落ちていた。ゼナはそれを拾ってしげしげと眺めてみる。
「……まさか、これを見間違えたのかしら?」
「おやおやゼナさん、背中に隠していた白い翼から羽が一枚抜け落ちたようですね。と、言いたいところですが……ちょっと貸してくれますか」
チェナートは羽をゼナから受け取ると、軸をもってくるくると回した。
「ふむ、やはりこれは白羽の悪魔のもの……」
「え? なんですかそれは」
「白羽の悪魔は人に幻覚を見せます。悪魔ならぬ人であってもその羽を使えば強い幻覚を人に見せることができる……。この前授業でやりましたよ?」
「す、すみません」
最近授業中に寝ていることが多いゼナは素直に謝った。
「おそらくゼナさんが見たという白い蛇の正体はこれでしょうね。術者が魔術で一瞬だけこの羽を蛇にしたのでしょう」
「そ、そんな……」
ゼナは震えあがった。
教師であり魔導師でもあるチェナートがいうのだからそれは正しいのだろうが。
しかし、いったい誰がゼナの足に幻の蛇を絡ませるなんてことを……?
「ゼナさん、これは私が預かっていいですか? 少し私のほうで調べてみます」
「す、すみません先生。お願いします」
ゼナは勢いよくぺこりと頭を下げて頼む。あまりの勢いに編んだ三つ編みが宙を舞ったほどである。
「こういうのは私の専門分野でもありますからね。興味あるんです。またなにかあったら相談に来て下さい。私でよかったらいつでも力になりますよ」
「はい……、ありがとうございます、先生」
ゼナは恥ずかしげにはにかんでお礼を言ったのだった。
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