運命のあなた

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亡霊

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国民に挨拶をするためのバルコニーで、中央に立つ宰相が告げた言葉が国民をざわつかせた。

「そんな!!」
「イオリス様!!」

何も言わずに立つ私を国民達は呼ぶ。
予想以上の国民の動揺ぶりに、どういえば良いのか、考えてきたはずの言葉が喉につっかえて出てこない。

どうやらこの国が負けたとしても、私が国を治めるものだと思っていたらしい。
いや。国民達は薄々わかっていたのだと思う。
声を上げる者達の中でも、やはり。というような表情が窺い見える。

「私達の王を取らないでくれ!」
「そうだ!」
「待ちわびた真の王を!!」

だが、一部の国民は納得がいかず、この場は熱が上がっていく。
私の横に立つヴィルヘルム王に、殺意の籠った目を向けている者もいる。
興奮した国民達が、前に立つ護衛達を少しずつ押していく様子が見えた。

暴動になりかねない雰囲気に、意を決して宰相の横へ歩み出て、勢い良く頭をさげた。

「皆、ごめん!」

すると、先ほどの騒動が嘘のように静寂に包まれた。
顔を上げると、私の意図しない涙が溢れ出る。
本当は満面の、幸せそうな笑みを浮かべようとしていたのに、泣き笑いになった。

「ヴィルヘルム王は、私の番なんだ」

認めていないが、こうでも言わないと皆が納得しない。
理解していたことだが、自分の口から出すと胸が抉られるように痛かった。

涙の意味を良い方にとらえてくれたのか、国民達の声が歓喜に沸き立つ。
ならば、しょうがないのだと笑顔で祝いの言葉を次々と掛けてくる。

私を王にと望んでいた者達が、私の事のように喜んでくれる。
「幸せに」と自分の望みを諦め、私の幸せを祈ってくれた。

涙は止まらなかったが、国民達の温かさに、私は今度こそ幸せそうに微笑んだ。

「イオリス…………」

民衆の中で、呆然と私を呼んだ声など知らずに。


◆ ◆ ◆



まだ熱の下がらない私に、ヴィルヘルム王が安静にしていろというので、またベッドに舞い戻った。

横になると身体が楽になって、安堵の溜息を吐くと、扉から来訪を知らせが聞こえた。
すかさずコニ―が、扉を少し開け取り次ぐ。
私に振り返ったコニ―が微笑んで、「ラドフォード様です」と告げてきた。

幼馴染の名前を聞き、気分が少し上がる。
すぐに頷いて、許可を出した。

ラドフォードは今回、降参の旗を掲げる計画の立役者と言っていいだろう。
兄王の目から隠れ、国中を駆け回ってくれた。

扉を前回に明けたコニ―が入るように促すと、ラドフォードが入ってきた。
服装は、長旅から先ほど城に着いたばかりというようにくたびれている。
実際にそうなのだろう。疲れているだろうに、目が合うとラドフォードは微笑んだ。

「よう。久しぶりだな」
「ああ。良くやってくれた」

友人として話しかけてくるラドフォードに、私はそれに倣った。
くらくらするが上体を起こし、近づいてくるラドフォードを迎えた。

差し出してくる大きな手に、躊躇なく自身の手を乗せる。

「コニ―、飲み物を」

にこにことこちらを見ていたコニ―に、飲み物を口実に退出してもらうことにした。
この数日、目まぐるしい変化をラドフォードに聞いて欲しかったからだ。

「はい。かしこまりました」

快く頷いてくれたコニ―が、寝室を退出した。

扉が閉まるのを見計らって、ラドフォードが私の頬に触れた。

「見ない内に、かなり痩せたな…………」
「まあな」
「――――イオリス」

大丈夫だと竦ませた私の両肩をラドフォードが掴む。
少し力が強い手に、どうしたのだろうと首を傾げる。

ラドフォードは一度俯いたが、すぐに顔を上げた。
その表情は、何かを決心しているように見えた。

「逃げよう。イオリス」
「…………え?」

困惑の声を上げた私は、軽々と横抱きされた。

「ラド――――んぅ」
「…………」

最後まで、名前を呼べなかった。

何が起きているのかわからない。
息ができず、ただでさえ働かない頭が、空気が足りないことで更にぼやける。

ラドフォードの顔が離れていくと、息ができた。
まさか。と心が否定する。

「ラドフォード……お前…………」
「なっ、何をしていたんですか!!」

『キスを?』という前に、飲み物を持っているコニ―が叫んだ。

大声に舌打ちしたラドフォードは、私を抱えたまま走り出す。
落ちそうになり、咄嗟にラドフォードの首に抱き着いてしまう。

そんな私に微笑んだラドフォードは、ガラス戸を蹴りバルコニーへ出ると、躊躇なく二階から飛び降りた。
危ない! と反射的に目を瞑る。

「――――!?」
「イオリス様!!」

悲鳴を上げるコニ―の声に恐る恐る目を開けると、ラドフォードは何事もないように走り出していた。

「なっ!? ラドフォードこれはどういうことだ!!」
「見ている通りだ」
「ふざけるな! 何をしているおろせ!!」
「嫌だね」

否定の言葉と、暴れてもびくともしないラドフォードに、焦りを覚える。
このまま、どうなってしまうのか。
バルコニーの手摺に乗り上げたコニーが、手を伸ばし私を呼ぶ。

「イオリス様!!」
「コニー!! 誰か助けてくれ!!」
「何を言っているんだイオリス!!」

我に返った私は、ラドフォードの肩に乗り上げ今更ながら助けを求めた。

騒ぎを聞きつけた者達が、外へ出てくる。
その中に、こちらを睨むヴィルヘルム王が居た。
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