ストーカー

Mr.M

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二章 葉月

八月二十六日(金曜日)9

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結局、僕はもう一度検討してみますと言って、
「禁断の果実」を後にした。

車に乗ってシートに背を持たせると、
どっと疲れを感じた。
名探偵が美女だったことによる緊張が
その主な原因だった。

時刻は十三時を僅かに過ぎていた。
一時間近く話し込んでいたことになる。
相談時間が三十分を超えたことにより、
当然のように二万円を徴収された。
結局、二万円を支払ってわかったことは二つ。
一つは武衣実果という名探偵は恐ろしく美人だが、
その外見からは想像できないほどに
性格に難があるということ。
もう一つは依頼料が高すぎるということ。
僕は大きな溜息と共にエンジンをかけた。

忌寸市の市街地まで戻ってくると、
そのどこか寂しい街並みに
僕の気持ちも自然と沈んだ。
探偵に依頼すれば事件は解決だと
思っていた自分の認識の甘さを呪った。

その時、
うなぎ屋の看板が見えて僕は急に空腹を感じた。
しかし先ほどの出費を考えると
財布の紐を締めざるを得ない。
後ろ髪を引かれる思いで
うなぎの看板をやり過ごした。
そば屋、とんかつ屋、カレー屋と
過ぎたところで赤信号に引っかかった。
通りの右に
『YoungGreens』
と書かれた小さな看板と、
さらにその奥にある鮮やかな緑色のドアが
目に入った。

僕はその鮮やかな緑のドアに
吸い寄せられるように駐車場へ車を乗り入れた。
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