ストーカー

Mr.M

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四章 神無月

十月三日(月曜日)1

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「シュガー&ソルト」
の店内には他の客はいなかった。
僕はコーヒーを二つ注文して、
一番奥のテーブル席に座っていた。
昨夜大烏から連絡があり、
この後、十七時三十分に
ここで落ち合うことになっていた。
普段なら大烏が強引に時間を指定してくるのに、
今日に限っては
僕の都合に合わせると言っていたのが
多少気になった。

前回、大烏に会ってから二週間が過ぎていた。
もしかして犯人を見つけたのだろうか。
そんな希望が一瞬、頭を掠めた。

もし大烏が犯人を見つけていたら。
問題はその後だった。
犯人をどうするのか。
この犯人を警察に引き渡すことはできない。
なぜなら犯人の口から暴行犯として
僕の名前が出るからだ。
犯人が存在している限り
僕の平穏な日常は戻ってこない。
結局答えは一つしかないのか。

殺す。

犯人さえいなくなれば。
しかしどうやって。

自殺に見せかけるというのはどうだろう。
これまでの二件の殺人事件についての
告白文と共に自殺に偽装する。
それが上手くいけば、
僕の秘密を知っている犯人の口を
永久に塞ぐことができるうえに、
僕の罪を犯人に被せることもできる。
まさに一石二鳥だった。
しかし仮に首尾よく自殺を偽装できたとしても、
それを怪しむ人物が一人いる。
大烏だ。
大烏がすべてを知っている以上、
下手な行動はできない。

ここにきて大烏の存在が邪魔になる。
大烏に気付かれないように
殺すことはできるだろうか。
たとえ目を盗んで殺したとしても、
死体が発見されれば大烏は僕を怪しむだろう。
大烏が僕を怪しんでも
その証拠さえ残さなければ・・。
疑わしきは罰せず。

ならば偶然の不運を装うというのはどうだろう。
つまり事故に見せかけて殺す。

まず思いつくのは交通事故だ。
轢き殺すか
もしくは歩いている犯人を
車が通るタイミングで車道へ押すか。
どちらにせよこれはハードルが高い。

次に考えられるのは
交通事故に近いが鉄道事故だ。
駅のホームから突き落とす。
これは相手が電車を利用していなければ使えない。
たとえ利用しているとしても
立ち位置の問題が出てくる。
おまけに周りに多くの目がある中で
実行するのは困難だ。
監視カメラがあれば尚更だ。

他に思いつくのは水難事故か。
これは使えるのではないか。
事故に拘らずに海に沈めてしまえばいいのだ。
つまり死体がなければ事故でも事件でもない。
単なる失踪か行方不明者として扱われる。
犯人が消えたことで
大烏に怪しまれるかもしれないが、
死体がない以上
大烏にしてもどうすることもできないだろう。
それに死体を沈める場所もすぐに頭に浮かんだ。

その時、
外で聞き慣れた車のエンジン音が聞こえてきた。
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