ざまあされた元王子に未練なんてありません~幸せだから放っておいてくれません?~

キリシヲ

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三話 転居が早い

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 父と暮らし始めてから数日が経過していた。
 父は、全くダメではないが大雑把な人であることがわかった。
 その証拠に、初日のシチューを作るときは大変だった。野菜を切らずに入れようとするから、慌てて止めたし。じゃがいもの皮むきすら満足にできない。
 結局、途中から立場が逆転してしまった。

「お昼の魚は切らなくてよかったから」
「そう」

 その割に食べているときは、綺麗に食べる。
 その辺りも村の男たちとはちがった。彼らは音を立て、時には器を抱えて直接口をつける。
 ろくに味わって食べもしない。その後は働きに出る。
 その点、父はゆっくりとまるで堪能するかのように食べるのだ。

「おいしい。ありがとう、ミラ」

 こんなこと、お母さん以外から言われたことはなかった。
 村やシスターたちは皆そろって、まずいまずいとお母さんや私のご飯をけなして、お礼の一つすら言わない。
 そういいつつも完食するのだから、困ったものだったけどね。
 そんなわけで、父からの礼の言葉は、なんというか、くすぐったい。

「おいしいなら、よかった」

 それだけしか言えないのも、なんだか気まずかった。
 
 父との暮らしは穏やかなものだ。今までの価値観が全て、というには大げさな気がするけど、ある程度ひっくり返ってしまった。
 食事を作れば礼を言われ、洗濯を協力し、隙間風に凍えることなく眠る。
 こんな暮らしがあっていいのか? いや、本当はあの憎んでいるあの村人たちが送っている当たり前の生活。
 それを送っている自分がいることに驚いていた。
 こうして、母にのんびり挨拶して日々を過ごせるなんて。
 同時に、どうして母がこんなに小さくなっているのも疑問だったけど。

「えっ?」

 穏やかな日々は終わりを告げた。
 乱暴に扉をあけ放たれて、見知らぬ鎧の男たちが入ってきた。

「誰?」
「やめろ! この子は」
「うるさい! 貴様に用はない!!」
「お父さん!?」

 鎧の男たちは父を突き飛ばした。
 そして、私は華やかな場所に連れていかれることになってしまった。

「お父さん!!」
「ミラ!!」
「連れていけ!!」

 私が伸ばした手は届かずに、空を切った。
 私を取り戻そうと、お父さんが向かってくる。
 しかし、そんなお父さんを鎧の男たちは蹴とばした。

「無残だな」
「殺されなかっただけでも、感謝してほしいぐらいだ」
「さて、行くか」
「あんな女の娘でも、利用価値があるんだ。感謝しろよ」
「お父さーん!!」

 私は馬車に荷物のように運ばれ、動き出した。
 鎧の男たちも乗り込んでくる。
 どうして、私が? そんなことを思っていると、男たちの舐めるような視線が刺さる。

「ガキにしては可愛いな」
「やめとけやめとけ」
「傷物なんかにしたらどやされちまう」

 私はこれから娼館なんかに売られるのだろうか?
 シスターたちも前言っていたな。お前らみたいな母娘は娼館暮らしが似合いだと。
 けれど、ついたのは娼館でもなんでもなかった。

 そこは、浅学な私でも知っている場所だった。

「ようこそ、オリエント城へ」

 鎧の男たちの誰かが、皮肉気にそういった。
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