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前編
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「お久しぶりでございます。ルフィス様」
令嬢特有の恭しい美しいお辞儀には、毎回感心する。
「メリア、堅苦しい挨拶はいい。オレと君は近いうちに家族になるのだから」
「はい。ルフィスさん」
にっこりと日向のように笑うメリア。メリアの姉であり、オレの婚約者であるマリアとは似ても似つかない。
「それで、マリアは?」
「お姉様は来ませんわ」
マリアが来ない?
大事な話があると、マリアから手紙をもらったのに?
「オレたちの将来について語りたい。そんな手紙をもらったのだが?」
初めての手紙が嬉しすぎて、額縁に飾ってしまった。執事からは不憫がられ、メイドからはキモいと言われた。
な、泣いてない。
万が一泣いたとしても、嬉し泣き。
「ですから、こうして貴方と将来の話をしたく、訪問しました。
お姉様は意地悪ね。本当のことを書かないなんて、未練でもあるのかしら?」
「どういうことだ?」
「お姉様は貴方との婚約を解消しました。代わりにわたくしが貴方の婚約者になりましたの」
「……はい?」
聞き返してしまった。
えっ、なに、どういうことなの?
「君は、アドランの婚約者になるはずでは?」
「お姉様に直談判したのです」
「具体的には?」
「冷酷と称される隣国の王子と結婚したくないので、婚約を入れ替えてください。と」
「バカか!?」
おっといけない。つい本音が出てしまった。
「素直だと言ってください。それに、わたくしはずっと貴方を」
「止めろ。聞きたくない」
メリアにアプローチのようなことは、たしかにされてはいた。
マリアから、メリアは甘え上手だと聞いていたし、このアプローチじみたスキンシップもその一環だと。
「悪いが、帰ってくれ」
「そうはまいりません。将来のお話をしましょう」
「する気が失せた。帰れ」
「酷いですわよ。そんなとこも素敵なのですけどね」
誰だ、メリアを純真無垢ないい子だと言った輩。
割と腹黒で強かな女じゃないか。
世の男たち騙されすぎでは?
「それで、マリアは?」
「国境付近の宿でアドラン様と顔合わせするために出発しましたわ」
「今?」
「今」
ここから国境付近、更に王族と貴族の顔合わせに使う宿は一つぐらいしかない。
「用事ができた、国境付近のバラーラの宿屋に向かう」
「わたくしを置いて?」
「帰れ。帰りの馬車は用意する」
「いやです」
いやじゃないだろう。
「メリア嬢が帰られる。見送りを」
「連れない方」
「メリア様、帰りましょう。このような男、放っておけばいいでしょう」
メリアの執事らしき男が、吐き捨てるように言った。
「この成金庶民め」
悪かったな。成金庶民で。
オレの家は貴族の位を金で買った、成金一家なのだ。
当然、由緒ある貴族たちからはこのように見下されることが多い。
今回の婚約も、オレの父が自身の地位を確立するために画策したもので、姉が妹に変わったぐらいで大した変化はない。
父なりに言うなら、得した。と言ったところだろう。
なんせ、メリアは高嶺の花で有名な女なんだから。
美貌もあるが、誰にでも穏やかに接するし、人望もある。
一方のマリアは、周りから距離を置かれていた。
とっつきにくいが第一印象だったが、花を前に微笑む顔や番犬に向ける優しい声に惹かれた。
「オレの婚約者はマリアだけだ」
馬小屋に行き、愛馬にまたがる。
アドランに話をしに行こう。
本来、メリアに来た婚約の話。ならば、姉しかも既に他人と婚約をしている女が現れれば場が混乱する。
下手を打てば、国際問題だ。
「間に合ってくれ!」
全速力で宿に向かった。
令嬢特有の恭しい美しいお辞儀には、毎回感心する。
「メリア、堅苦しい挨拶はいい。オレと君は近いうちに家族になるのだから」
「はい。ルフィスさん」
にっこりと日向のように笑うメリア。メリアの姉であり、オレの婚約者であるマリアとは似ても似つかない。
「それで、マリアは?」
「お姉様は来ませんわ」
マリアが来ない?
大事な話があると、マリアから手紙をもらったのに?
「オレたちの将来について語りたい。そんな手紙をもらったのだが?」
初めての手紙が嬉しすぎて、額縁に飾ってしまった。執事からは不憫がられ、メイドからはキモいと言われた。
な、泣いてない。
万が一泣いたとしても、嬉し泣き。
「ですから、こうして貴方と将来の話をしたく、訪問しました。
お姉様は意地悪ね。本当のことを書かないなんて、未練でもあるのかしら?」
「どういうことだ?」
「お姉様は貴方との婚約を解消しました。代わりにわたくしが貴方の婚約者になりましたの」
「……はい?」
聞き返してしまった。
えっ、なに、どういうことなの?
「君は、アドランの婚約者になるはずでは?」
「お姉様に直談判したのです」
「具体的には?」
「冷酷と称される隣国の王子と結婚したくないので、婚約を入れ替えてください。と」
「バカか!?」
おっといけない。つい本音が出てしまった。
「素直だと言ってください。それに、わたくしはずっと貴方を」
「止めろ。聞きたくない」
メリアにアプローチのようなことは、たしかにされてはいた。
マリアから、メリアは甘え上手だと聞いていたし、このアプローチじみたスキンシップもその一環だと。
「悪いが、帰ってくれ」
「そうはまいりません。将来のお話をしましょう」
「する気が失せた。帰れ」
「酷いですわよ。そんなとこも素敵なのですけどね」
誰だ、メリアを純真無垢ないい子だと言った輩。
割と腹黒で強かな女じゃないか。
世の男たち騙されすぎでは?
「それで、マリアは?」
「国境付近の宿でアドラン様と顔合わせするために出発しましたわ」
「今?」
「今」
ここから国境付近、更に王族と貴族の顔合わせに使う宿は一つぐらいしかない。
「用事ができた、国境付近のバラーラの宿屋に向かう」
「わたくしを置いて?」
「帰れ。帰りの馬車は用意する」
「いやです」
いやじゃないだろう。
「メリア嬢が帰られる。見送りを」
「連れない方」
「メリア様、帰りましょう。このような男、放っておけばいいでしょう」
メリアの執事らしき男が、吐き捨てるように言った。
「この成金庶民め」
悪かったな。成金庶民で。
オレの家は貴族の位を金で買った、成金一家なのだ。
当然、由緒ある貴族たちからはこのように見下されることが多い。
今回の婚約も、オレの父が自身の地位を確立するために画策したもので、姉が妹に変わったぐらいで大した変化はない。
父なりに言うなら、得した。と言ったところだろう。
なんせ、メリアは高嶺の花で有名な女なんだから。
美貌もあるが、誰にでも穏やかに接するし、人望もある。
一方のマリアは、周りから距離を置かれていた。
とっつきにくいが第一印象だったが、花を前に微笑む顔や番犬に向ける優しい声に惹かれた。
「オレの婚約者はマリアだけだ」
馬小屋に行き、愛馬にまたがる。
アドランに話をしに行こう。
本来、メリアに来た婚約の話。ならば、姉しかも既に他人と婚約をしている女が現れれば場が混乱する。
下手を打てば、国際問題だ。
「間に合ってくれ!」
全速力で宿に向かった。
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