婚約者が変更され、落ちぶれ決定になった

キリシヲ

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後編

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「弁護士ぃ?」

 マリアはなにを言っているか分からないって顔している。

「えぇ、実際問題として、最近婚約破棄や離婚が多くなっているのはご存知よね?」
「そうね。最近、聞いたわ」
「それだけなら当人同士の問題だし、浮気や心変わりがあるのなら、それ相応の罰や保証があってしかるべきだと思いませんこと?」

 そして、問題はその罰や保証だ。
 不正をしているならば、それを憲兵だのに言えば動くだろう。
 けれど、不正をしていない場合や異性遊びが派手だけでは大した罰や保証はない。
 この世界では、それが当たり前だったのだ。

「しかも、最悪な場合、こちらが不正をした。していなくても、黙認や加担したなどどいわれてしまえば、非がないのに罰を受けることになる」
「その非がないことを証明するのが、俺たち弁護士ってわけ」

 理解はしたらしいが、マリアは表情を変えない。

「たとえ、本当にそうだったとして、何の問題があるんです?」
「なに?」

 やれやれと、ため息を吐くマリア。

「いい? この婚約破棄の原因はそもそもルフィス、あなたなのよ?
あなたが、メリアを可愛いと言わなければ!」
「あのさ、お前『私の妹可愛い?』って言われて、『不細工』とかいう男と結婚したいわけ? そんなこと言ったら、速攻お前らの両親に睨まれるに決まってる。
仲良くやっていくための政略結婚で、そんなヘマするバカいないよ」

 俺としては、メリアよりマリアの方が可愛らしく見えた。
 政略結婚ではあるけども、仲良くしていきたかったし、俺にはもったいないぐらい素敵な人だったのだ。
 そう、思っていたのに。

「お前は心変わりをした。そして、妹を身代わりにした」
「私は喜んで嫁ぎますので、身代わりではありませんわ」
「話の腰を折らないでくれ
それだけじゃない。俺の家族を馬鹿にした。その落とし前はきっちりつけるからな」
「この話が隣国にバレれば大変ね。婚約の話なくなるかもね」
「は、はぁ!?」

 先ほどまで余裕だったマリアの表情が変わる。
 その可能性を考えてなかったのか。

「なんでそうなるのよ!?」
「あちらにいるの、護衛の兵士さんでしょう? 彼は先ほどから私たちの醜い争いを間近で見て、ルフィス様から私たちの非常識な行動も聞いた」
「非常識って自覚はあったのか」

 あったなら止めてほしかった。

「たとえ、そうだったとしても、婚約はあちらから言い出したこと! 今更撤回なんて」
「だとしても、前の婚約者といざこざ。しかも、自分の勘違いでそんなことを起こしたって事実は変わらない」
「勘違いなんかじゃない!」
「どちらにせよ、徹底的にやらせていただくからそのつもりでな」

 俺はそのまま従者に、屋敷や今回のことについて話を聞くかもしれない。と、伝え、変えることにした。
 なんでかって?
 証拠集めに決まっている。ここでのやり取りだけでは弱い。
 マリアの本性から察するに、誰かほかにこのことを知っている人物がいるはずだ。日記なんかに書いている可能性も否定できない。
 そのことを察してか、メリアはニコリと俺にほほ笑んできた。

「そのことについては、私に任せてください」
「仲が悪いとはいえ、姉妹だろう?」
「家族とは言え、罪は償うべきです。人を欺いて、しかも好きな人を傷つけたなら余計に。ね」

 その言葉通り、屋敷についてからのメリアは協力してくれた。
 メリアたちの両親は見合いのために既に出発していた。入れ違いになったらしい。
 予想通り、日記やメイド、果ては友達との手紙にわんさか俺の愚痴が。本当のこともあったが、事実無根なものや諫められても聞かなかった話もあった。
 これだけ証拠が揃ったのだから、負けはしない。

「なんだか、助けられたかもな」
「お役に立ててなによりです」
「まあ、婚約は解消するが」
「えぇー」
「いや、当たり前だろ!!」

 メリアはしばらく抗議したが、俺が折れないと分かるとしょんぼりした。
 少し、可哀想だったかな。

「メリア……」

 頬に何かしらが当たった。柔らかい、何か。
 それと同時に、ほのかに香る甘い匂い。腕辺りにこれまた柔らかい何か。
 キスだ。
 腕を引っ張ってメリアにキスされている。

「な、なぁ!?」
「諦めませんからね!!」

 そう捨て台詞を吐いて、メリアは去っていった。

「う、嘘だろ」

 なんて自分は単純なんだろう。さっきまで、マリアに振られて落ち込んでいたのに。これじゃあ、何も言えないじゃないか。
 心臓がうるさい。
 あぁ、たった一回、しかも頬のキス! 笑いたければ、笑うがいい。

「メリア!! 待ってくれ!!」

 俺はメリアを追いかけた。
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