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【ヒナタSide】変われたら
#1 変われたら
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小学五年生のとき、クラスメイトの男子に告白された。俺も男だ。
でもふざけているようにも、罰ゲームにも見えなかった。
たぶん、それがかえって気色悪く思ったのだろう。
「なんで」と聞くよりも早く、俺の口からは「気持ち悪い」「冗談でしょ?」と相手を嘲るような言葉が出てきた。
その時の相手の顔は今でも覚えてる。
傷ついて、こみ上げる涙を必死に堪えてるような、ひどくみじめな顔を。
♧
高校二年生。あの出来事から六年。
奇しくもあいつ──レンとは同じ高校になってしまった。
でも、レンは来なかった。
あんなやつ、いないほうが──。
(………………いや)
いないほうがいいのは、俺の方だ。
俺がいるからあいつは傷ついた。
俺がいるからあいつは来ない。
俺がいるからあいつは立ち直れない。
俺がいるからあいつは──。
あの時のレンの顔よりも、ずっと、ずっと みじめなのは、俺だ。
あの時のことを謝りもせず、日常を過ごしている。
足は、動き出していた。
♧
レンの家は知っていた。
玄関の前に立つ。
インターホンに手を伸ばし────その手を下げる。
その手は汗がにじみ、震えている。
(俺が、会っていいのか……?)
ふと、そんな疑問が浮かんだ。
六年間、自分だけ楽しく過ごしておいて、今さら「ごめん」だなんて──許してくれるのか?
この六年間、俺のせいでずっと苦しんでるはずなのに。
(だめだ……俺にあいつに会う資格はない)
「だって」と言い訳のような文言ばかりが溢れる。
たとえ、それが言い訳とわかっていようが、この場から離れずにはいられなかった。
♧
レンの家の近くにある森。
別に自然に興味があるわけではないし、いつもなら森なんて見向きもしない。
なぜかは分からない。
でも今日は、今日だけは。
風に導かれるようにして、森に入っていった。
少し進んだ先に、ひらけた空間があることに気づく。
何となく、そちらへ歩みを進める。
少しずつ近づいていくと、そこに人影があることに気づいた。
(あ…………)
その見覚えのある顔立ちは────
「レン!」
そう叫んだのは、俺じゃない。
レンへ向かって走ってくる少年がいる。
しばらく様子を見ていたが、帰ることにした。
あの少年と話すときのレンの顔。
楽しそうで、嬉しそうで────俺がさせたような顔とは似ても似つかなかった。
(…………………………)
俺は、なんて勇気がなくて、みじめな男だろう。
♧
それから、一年が経った。
俺は、何回もレンの家の前に立ったけれど、そのインターホンを押すことはできなかった。
教室で気怠げに頬杖をついていると、扉が開く音がした。
目だけを扉のほうへやると、男子が入ってくるのが見えた。
その見覚えのある顔立ちに「嘘だろ……」と思わず声が漏れそうになる。
レン。
何かを決意したような顔つきで、でも唇は震えていて。
レンはその唇をぎゅっと噛み締めると俺の前に立つ。
「おはよう……!」
(え……)
悪口を言われると思って思わず身構えていたが、彼の口から発せられたのは、朝の挨拶。
たぶん、俺は何とも説明し難い顔をしていたと思う。
歪んでいて、今にも怒りだしそうで、でも今にも泣きそうな、そんな顔をしていたと思う。
顔をしかめている、そう認識されても文句はない顔。
なんで、お前はそんなにたくましいんだ。
俺がもっとみじめになるじゃないか。
いっそのこと、責めてくれたほうが楽だったのに。
俺が何も言えないでいると、レンは走って教室から出ていってしまった。
「待てよ…………ちゃんと……」
ちゃんと謝らせて。
喉から出かけたその言葉を飲み込む。
今さら「謝らせて」って、なんだよ。
六年間、意地を張って謝れなかったくせに。
「はぁ………………」
額に手を置き、机に突っ伏す。
(そういえば、あいつ……何か持ってたな)
お守りのように、ずっと握りしめていた。
本のしおりのようなものだった。
確か、何かの花が入っていた。
無数の白い花弁──マーガレット、だろうか。
「あの花が、あいつを変えたのかなあ」
俺も変われるといいな、そう小さく呟く。
いつか、いつか、この弱い俺から変われたら──
変われたら、お前は俺と仲良くしてくれるか?
でもふざけているようにも、罰ゲームにも見えなかった。
たぶん、それがかえって気色悪く思ったのだろう。
「なんで」と聞くよりも早く、俺の口からは「気持ち悪い」「冗談でしょ?」と相手を嘲るような言葉が出てきた。
その時の相手の顔は今でも覚えてる。
傷ついて、こみ上げる涙を必死に堪えてるような、ひどくみじめな顔を。
♧
高校二年生。あの出来事から六年。
奇しくもあいつ──レンとは同じ高校になってしまった。
でも、レンは来なかった。
あんなやつ、いないほうが──。
(………………いや)
いないほうがいいのは、俺の方だ。
俺がいるからあいつは傷ついた。
俺がいるからあいつは来ない。
俺がいるからあいつは立ち直れない。
俺がいるからあいつは──。
あの時のレンの顔よりも、ずっと、ずっと みじめなのは、俺だ。
あの時のことを謝りもせず、日常を過ごしている。
足は、動き出していた。
♧
レンの家は知っていた。
玄関の前に立つ。
インターホンに手を伸ばし────その手を下げる。
その手は汗がにじみ、震えている。
(俺が、会っていいのか……?)
ふと、そんな疑問が浮かんだ。
六年間、自分だけ楽しく過ごしておいて、今さら「ごめん」だなんて──許してくれるのか?
この六年間、俺のせいでずっと苦しんでるはずなのに。
(だめだ……俺にあいつに会う資格はない)
「だって」と言い訳のような文言ばかりが溢れる。
たとえ、それが言い訳とわかっていようが、この場から離れずにはいられなかった。
♧
レンの家の近くにある森。
別に自然に興味があるわけではないし、いつもなら森なんて見向きもしない。
なぜかは分からない。
でも今日は、今日だけは。
風に導かれるようにして、森に入っていった。
少し進んだ先に、ひらけた空間があることに気づく。
何となく、そちらへ歩みを進める。
少しずつ近づいていくと、そこに人影があることに気づいた。
(あ…………)
その見覚えのある顔立ちは────
「レン!」
そう叫んだのは、俺じゃない。
レンへ向かって走ってくる少年がいる。
しばらく様子を見ていたが、帰ることにした。
あの少年と話すときのレンの顔。
楽しそうで、嬉しそうで────俺がさせたような顔とは似ても似つかなかった。
(…………………………)
俺は、なんて勇気がなくて、みじめな男だろう。
♧
それから、一年が経った。
俺は、何回もレンの家の前に立ったけれど、そのインターホンを押すことはできなかった。
教室で気怠げに頬杖をついていると、扉が開く音がした。
目だけを扉のほうへやると、男子が入ってくるのが見えた。
その見覚えのある顔立ちに「嘘だろ……」と思わず声が漏れそうになる。
レン。
何かを決意したような顔つきで、でも唇は震えていて。
レンはその唇をぎゅっと噛み締めると俺の前に立つ。
「おはよう……!」
(え……)
悪口を言われると思って思わず身構えていたが、彼の口から発せられたのは、朝の挨拶。
たぶん、俺は何とも説明し難い顔をしていたと思う。
歪んでいて、今にも怒りだしそうで、でも今にも泣きそうな、そんな顔をしていたと思う。
顔をしかめている、そう認識されても文句はない顔。
なんで、お前はそんなにたくましいんだ。
俺がもっとみじめになるじゃないか。
いっそのこと、責めてくれたほうが楽だったのに。
俺が何も言えないでいると、レンは走って教室から出ていってしまった。
「待てよ…………ちゃんと……」
ちゃんと謝らせて。
喉から出かけたその言葉を飲み込む。
今さら「謝らせて」って、なんだよ。
六年間、意地を張って謝れなかったくせに。
「はぁ………………」
額に手を置き、机に突っ伏す。
(そういえば、あいつ……何か持ってたな)
お守りのように、ずっと握りしめていた。
本のしおりのようなものだった。
確か、何かの花が入っていた。
無数の白い花弁──マーガレット、だろうか。
「あの花が、あいつを変えたのかなあ」
俺も変われるといいな、そう小さく呟く。
いつか、いつか、この弱い俺から変われたら──
変われたら、お前は俺と仲良くしてくれるか?
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