紅月に産まれる獣達~Vendetta ed espiazione~

ィアーリス

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『朔夜』

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 都内にある20階建てのビルに、『朔夜』支部はあった。
 1階から15階までは、空き室や資料室になっており、16階から19階までは医療施設になっている。
 その最上階にある支部の事務所に戻ってくるなり、逢莉は怒鳴り声を喰らう。

「河内!! 貴様、また偽火で相手を精神崩壊まで追い詰めたそうだな!!」
 事務所中に響き渡る怒声に、その場にいた者たちがざわめく。
「大袈裟な事言わないで下さい。馬場さん」
 若干、ため息混じりに呟いた逢莉が、眦を上げて怒鳴る年配の男性・馬場を見遣る。
「大袈裟だと!? 連行班が言っていたぞっ、意識を取り戻した男たちは半狂乱だったとな!!」
 怒り任せに近くにあったスチール机を叩いた馬場が、逢莉を激しく睨みつける。

 馬場ばば 京一郎きょういちろう
『朔夜』支部では年齢的に最年長で、所属年数も逢莉より長い。

「いくら能力に溺れ犯罪を起こしたからと言って、そこまでする必要はあるのか!?」
 厳しく諫める馬場の言葉を、逢莉は反論せず黙って聞いていたが、次に彼が言った言葉に、彼女は思わず目付きを変える。
 眦を上げた馬場が、感情任せに言い募った言葉。
「河内、貴様の能力は危険過ぎだ!! 貴様も本当は能力に溺れているだけじゃないのか!!」
「……っつ」

 彼のその言葉が、深く逢莉の心に突き刺さり、彼女の眼に狼狽の色が浮かぶ。
 だが、そんな彼らのやり取りを傍らで聞いていた由が、険のある声色で口を開く。
「たかが2、3年早く能力に目覚めたからって、えらぶってんじゃないわよ?」
「……由さん」
「櫻護!! 貴様は関係ないだろっ!!」
 逢莉を庇った由が、怒りに震える馬場との間に割って入ると、見下すような口調で言った。
「女の子を頭ごなしに怒鳴りなんて、最低よねぇ」
 そんな彼のオネェ系の口調に、馬場の怒りは更にヒートアップしてしまう。
「俺は本当の事を言っているだけだ!!」
「だからって、感情任せになら何でも言っていいわけ?」
 ムキになる馬場とは反対に、皮肉気な笑みを彼に向けた由が、身長差で馬場を圧倒する。

「っ、櫻護、貴様っ!!」
 人を嘗めた態度の由に激昂し、完全に頭に血を登らせた馬場が、次の瞬間、能力を解放した。
 彼の腕から、狼に似た黒い獣が現われ、地鳴りのような唸り声を上げる。
「ちょっと、馬場さん!! こんな所で何考えてるのよ!!」
 逢莉を始め、周りにいた『朔夜』のメンバーたちが騒然となるが、由だけは好戦的に笑う。
「おっと。何よ、やる気?」
 彼の周りの空気が一瞬にして冷たくなったため、逢莉が慌てて制す。
「由さんっ!」
 臨戦体制に入った二人の間に、咄嗟に逢莉が割って入る。
「二人ともやめて!!」
「元はと言えば、河内、貴様のせいだろっ!!」
 止めに入った逢莉に、馬場は感情任せに己の能力である、黒狼を仕向けた。

『グルルルッ……!!」

 馬場が出現させた黒狼が、牙を剥き出しにしながら、逢莉に向かって襲い掛かる。
 襲い掛かって来る黒狼に、咄嗟に由が彼女を庇うが、同時に逢莉たちの前に立った銀髪の男性が、右手を宙に掲げた。
「そこまでや、阿呆……」
 掲げた右手の周りの空間が突如歪み始め、逢莉に襲い掛かっていた黒狼は、その歪みに出来た次元の間に吸い込まれていく。

空知くうちさん」

 乱雑に伸ばした銀色の髪、鋭く光る白銀の瞳の彼を空知と呼んだ逢莉が、安堵の息を漏らす。
「あら、グッドタイミングな登場♪ さすがボスね」
 一方、おどけた由が空知にVサインをするが、呆れた表情の彼は怪訝げに眉間に皺を寄せた。
「……阿呆な事言っとらんで、この状況説明しろ」
「あだっ!!」

 そう言い由の頭に拳骨を落としたのは、志村しむら 空知くうち
 空間使いの能力者であり、若干27歳にして『朔夜』支部の所長でもある。

 一方、空知の登場に、馬場は尚の事言い募る。
「志村さん、今すぐこの二人を『朔夜』から追い出してくれ!! こんな能力に自惚れる奴などに、この世界を救えるものか!!」
「馬場ちゃん、あんたねぇ~」
 弱い犬ほどよく吠えると、由は呆れてしまうが、空知も疲れたようにため息を吐くと、厳しい声と表情で言い返した。
「勘違いすな、阿呆が。俺たちが世界を救えると思っているなら、貴様こそその奢りを改めたらどうや」
 ド迫力の鋭い眼光、20cmばかり背の低い馬場を見下ろした空知。
 ちなみに彼も188cmと言う、192cmの由に負けず劣らずの長身だ。
「『朔夜』に必要な人間かそうでないかも、貴様の独断で決めて良いものやない」
「つっ……!!」
 所長である空知に一蹴され、馬場は二の句が出ない。
 気付けば周りからも、怪訝げな視線が刺さっており、その空気にいたたまれず、馬場は肩を震わせながら、荒々しく部屋を出て行ってしまう。
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