紅月に産まれる獣達~Vendetta ed espiazione~

ィアーリス

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異変

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 外はだいぶ夜が明け始め、紅月も段々とその姿を隠そうとしていた。
「っと!」
 空知の作り出した異空間で、一瞬にして支部署から外に移動した4人のうち、逢莉と由の2人は、地下鉄の駅が近くにある東新宿に辿り着く。
「馬場 圭子が犯行に及ぶのは、大半がこの辺りや。お前らはこの辺を重点に張り込んどってくれ」
 異空間から東新宿駅前のバスプールに降り立った逢莉と由に、空知は異空間の中から言った。
「俺たちは念の為、新宿駅に張り込んどるから、なんやあったらすぐに連絡しろ」
 そう言い空知と夏美は、再び異空間の入り口を閉じてその空間から消えていった。

「此処から出るバスの始発は、……6時10分。今、5時半だから、あと3、40分ね」
 時刻表を見た逢莉が、自分の腕時計と照らし合わせる。
「ちなみに最終は?」
「夜23時10分」
「はちゃ~~っ、その16時間、張り込んでなきゃならないなんて、骨が折れるわねぇ~~」
 ため息を吐いた由が脱力したようにベンチへ腰掛け、そんな彼に苦笑しつつ、逢莉も隣に座り宥めた。
「仕方ないでしょ。それが私たちの仕事なんだから」
「真面目ねぇ~、逢莉ちゃんは」
「由さんが不真面目なんでしょ」
 アッサリと言い返す逢莉に、由は痛い事を言うわねぇと呟き天を仰ぐ。
 背もたれに体を預け、夜明けの空を見上げながら、由はおどけながら言う。
「ま、確かに、あたしは昔から良い子ちゃんじゃなかったからねぇ~」
 悪い子し過ぎたかしらと笑う彼に、逢莉が意地悪な微笑みで彼の過去を暴露した。
「かなりやり過ぎだったんじゃない? 元・暴走族『2nd・Season』のお兄さん」
「あー……ははは。逢莉ちゃんってば、辛口なんだから~」
 乾いた声で笑う由だが、逢莉の言う通り、彼は関東で威力を膨大にした暴走族・『2nd・Season』の元・総長。今は、オネェ言葉のお馬鹿な変態オカマ野郎(知華&弥・談)だが、10年くらい前までは、多くの悪童の頂点に立つ存在だったのだ。そして、知華とも『2nd・Season』時代の仲間だったりするが、彼女の彼に対する態度はかなり雑である。

「……それにしても、馬場さんの娘さんは何が目的なのかしらね」
 ふと真面目な表情に戻った逢莉が、頬杖をつきながら呟いた為、由も真面目に答えた。
「そうね。能力に溺れているのか、それとも何か理由があるのか……」
「馬場さんも思い詰めた事しなきゃいいけど」
 支部を飛び出して行ったきりの馬場を按じた逢莉が呟く。
 自分に厳しく当たりながらも、彼は娘に犯罪を犯させてしまったことに苦しんでるんじゃないだろうか。
「馬場ちゃんは突っ走り型だからねぇ。弥たちが見張ってるけど、馬場ちゃん、あれで結構能力では実力者だから、大丈夫かしら……」
 馬場の能力は、黒狼使い。
 自分の体内に黒狼を住まわせ操る能力だ。
「いくら馬場さんでも、仲間に安易に能力を使わないと思うわよ」
「そのセリフ、逢莉ちゃんが言っても説得力ないわよ。さっき、ブチ切れた彼に、黒狼放たれたのは誰よ?」
 自分がすでに体験してるっていうのにと、由は呆れてしまうが、逢莉は複雑そうに笑う。
「……あたしに関しては仲間として認めてないからよ。馬場さん、とても正義感の強い人だろうから」
 自分にとって守るべき存在だと認めたら、きっと力の限り護り通す人だと、逢莉は馬場の事を見ている。
 そんな逢莉の言葉に、由が厳しい表情で告げる。
「だからって逢莉ちゃんに当たることはないんじゃない」
 彼の逢莉への態度は、どう見ても八つ当たりである。
 しかし逢莉は静かに首を振ると、ベンチから立ち上がり、遠くを見つめながら言葉を綴る。
「そうゆう問題じゃないのよ。馬場さんにとってあたしは、あの日からずっと仲間を傷つけた『敵』でしかない」
「逢莉ちゃん……」
 彼女の言わんとしていることに気づいた由が、制するように呼ぶが、逢莉は続けた。
「でもそれは、彼が悪い訳じゃないから、彼を責める事は出来ない。それに、どんなに時が過ぎても、過去は消せない」
 馬場が逢莉を目の敵にする理由。
 それは6年前の、ある事件が原因。
 逢莉にとっても、それは重い十字架だった。

「けど、言って良い事と悪い事だってあるし、貴女だって傷ついたんだから、馬場ちゃんだって良い加減、認めるべきだわ」
 そう諭した由が、彼女の細い身体を背中から抱きしめる。力を込めれば簡単に折れてしまいそうな、華奢な彼女。
 彼も6年前の事件を知り、当時、現場に居合わせた一人だった。今も当時の彼女の姿が瞼の裏に焼き付いている。
 絶望に打ちひしがれ、苦しんでいた逢莉を知る彼だからこそ、馬場の態度は気に入らないのだ。
「……優しいのね、由さんは」
 平静を装い、静かに微笑む逢莉だったが、その心の中は深い悲しみが支配していた。彼女の心の中にずっとある、深く暗い思いは彼女を苦しめ続ける。

 その時だった。
 朝露の中、一台のバスが現れる。
 時刻を見ると6時ちょうど。
 始発のバスが早めにやって来たのだろうと二人は思ったが、すぐにバスの異変に気付いた。
「由さん、あのバスっ!!」
 バスは何故かフラフラと蛇行運転を繰り返し、今にも事故を起こしそうな勢いだ。
「冗談じゃないわよ、ちょっと」
 顔を引き攣らせた由が逢莉の腕を取り、背中に庇う。その間にも、バスは蛇行運転をしながらスピードを上げて、二人の元に向かってくる。逃げなければ轢かれてしまうと解っていたが、バスの運転席を見た二人は、一瞬、身体が動かなかった。
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