喫茶・憩い場

深郷由希菜

文字の大きさ
3 / 5

2杯目 1口目

しおりを挟む
とある町の、とある道の奥まった場所に存在する1軒の喫茶店。

1杯目の街とは違うそこで、制服だろう赤と茶色のチェックのシャツの上に袖なしベスト、黒いズボンの1人の少し濃い顔の男が店の前で頭を掻いていた。

その人物の目の前にいるのは、うつぶせで倒れている少女。

「店の前で倒れられてっと、困るんだよな。営業妨害なんだよなー」

困ったのが表れた声にも反応はないし、反応があったらとっとと追い払いたいと思っているが、呟かずにはいられなかった。

そのまましばらくどうしようかと思っていると、肩より少し長い髪を持った、ワンピースのような白い衣服に身を包んだだけの生物はぴくり、と反応した。

「お。おい、起きたか行き倒れ。とっととこの場所から去ってもらおうか?」

面倒だと、渋い音に乗せて言えば、それに答えたのはお腹の音。

「お腹・・・・空いた」

そしてまたぱたりと倒れられてはさすがの彼も苛立ちつつもどうしようもないと思い、目の前の喫茶店へと戻るのだった。

もちろん、行には無かったお荷物付きで。








もぐもぐ、むしゃむしゃと食べ進める音が静かな店内を埋める。

決してお上品ではないそれを見る男性の表情は、呆れで彩られている。

一心不乱に食べ続ける姿は、およそどの女性もかけ離れたものではあるが、顔立ちとわずかな女体としてのふくらみが性別を表していた。

最低限、手づかみで食べるもの以外は箸やスプーンなども使っているのが救いだろうか。

「おい・・・食いすぎだろ」

目の前の酷い有様の人間がお金を持っているわけもなく、ただ食いされてしまっている事実をどこか遠いところで起こっているのだと錯覚したくなるほどには皿の数が増えていった。

それには表情も険しくなるのも当然だろう。

とはいえ、ここまでの量を律義に作れたのは、彼がただの従業員でマスコットだった、というわけではないことを表していると言えるだろう。

そろそろ食料が尽きそうだと思ったその時。

「ふぅ~、お腹いっぱい!ありがとう、お兄さん!」

にっこりと笑顔でお礼を言う姿は、本当に助かったという気持ちの表れだった。

「あ、でも私お金持ってないや。無銭飲食はもちろんだめだよね?何すればいいかな?」

一見すれば、きょとんとしているようにも見える表情だけれど、お店を出ることなく尋ねてくる様子にため息が漏れつつも料理人は答えた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

没落貴族か修道女、どちらか選べというのなら

藤田菜
キャラ文芸
愛する息子のテオが連れてきた婚約者は、私の苛立つことばかりする。あの娘の何から何まで気に入らない。けれど夫もテオもあの娘に騙されて、まるで私が悪者扱い──何もかも全て、あの娘が悪いのに。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった

海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····? 友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

処理中です...