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1章

5 特産品 4

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 見た目は美しい町娘。髪をヘアバンドで纏め、ディアンドルと呼ばれるタイプの服を着ている。武具の類も荷物も持っていない。
 しかし剣呑な微笑みを浮かべるその女は――魔王軍の親衛隊、マスターキメラ。

「馬鹿な! いつの間に村へ入ったんだ!?」
 驚くガイ。
 しかし村長コエトールが首を傾げる。
「この女性はお知り合いですか?」
 それでガイは察した。

 獣人形態に変身しなければ人里に普通に入れるわな、と。
 それも変身型獣人の長所なのだ。

「フッ‥‥前回で村の位置はわかっていたからな。そして既に貴様は包囲されている」
 村長を無視し、胸を張るマスターキメラ(人形態)。
 すると難民達からわらわらと何人もが飛び出し、ガイを囲んだ。
「なっ‥‥いつの間に村へ入ったんだ!?」
 驚くガイ。
 しかし村長コエトールが首を傾げる。
「この連中もお知り合いですか?」
 それでガイは察した。

 なにせ現れた連中、全員人間なのである。
 痛んだ武具で武装した敗残兵みたいな連中だが、だからこそ難民に紛れていても目立たなかったのだ。

 マスターキメラは勝ち誇って笑った。
「我らに敗れた捕虜どもだ。お前を倒せば自由にしてやると約束すれば、こうして手下に成り下がったわ」
「お前らの犠牲者をぶつけてくる戦法か。汚い連中だぜ」
 唇を噛むガイ。
 事態が把握できずおろおろする村長。
 揉め事の気配を察して気まずく距離を取る村人と難民。
 ふわふわとガイの肩へ戻って「がんばったよー」と一息つくイム。

 そこへ巨体がのっそりと出て来た。
「俺もいるぞ‥‥」
「なっ‥‥お前はウスラ!」
 驚くガイ。
 捕虜になった者の中にかつてのパーティメンバーがいたのだ。

「そうか、お前も捕虜になったのか。そして自由を得るために俺を倒すと‥‥」
 ガイはギリッ、と一度強く奥歯を噛みしめる。
 そして叫んだ。
「事情はわかるが正直悲しいぜ! 何年もパーティを組んでいたお前達に狙われるなんてな!」
 だがウスラは言った――

「違うッス」
「え? 何が?」
 戸惑うガイ。
「パーティじゃねース。俺一人だから」
 ウスラに言われて周囲を見渡すガイ。
 確かに他のメンバーはいない。
「捕虜は沢山いた。そこへあの女が『捕虜ども、ここからここまでついてこい』と命令した。俺はその中にいたけど他の三人は外れてたから、俺だけ来たっス」
 そう言ってウスラはマスターキメラを指さした。
「え? 私?」
 驚くマスターキメラ。
 まぁ捕虜の過去なんて知らないから仕方はないのだが。


 気まずい沈黙がおりる‥‥が、その時。
 突如、捕虜どもから悲鳴があがった!
 見ればそこには殴り倒された数人の捕虜。
 そして肩をいからせた二人の村人‥‥鍛冶屋のイアンと農夫のタゴサック!

「話はよく聞いてないのでよくわからんが、要するにこいつらは食い詰めた野盗だな?」
 でかい金槌を手に上半身裸で筋肉を震わせ「技術点12」と書かれた鉢巻を締めたイアン。
「勇者様、手を貸すぞ。今日は祭りじゃ、血祭じゃあ!」
 両手のナタを振り上げて叫ぶタゴサック。

 捕虜共は悲鳴をあげて背を向けた。
 逃げようとする彼らにマスターキメラが焦って叫ぶ。
「待てまて、お前ら、自由はいらんのか!」
 ガイも焦って村人(二名)に叫ぶ。
「待て待て、お前ら、無暗に血を流すなよ!」
 そしてガイは腰の鞄に手を突っ込み、マスターキメラに叫んだ。
「しゃあない、手っ取り早く終わらせるぜ! 覚悟!」
 マスターキメラも叫んだ。
「よし、いけ、捕虜ども!」
「ウス」
 返事一つでいよいよウスラが大きな鈍器と穴だらけの盾を構えた。
 イアンとゴーサックから逃げ回っていた捕虜からも、何人かが欠けた得物を構えてガイへ向かって来る。


 ガイは赤く輝く珠紋石じゅもんせきを取り出した。
 その結晶から煌めきが零れ、ガイの周りへ――そして煌めきは無数の熱線となって周囲へ放たれた!
 ガイの周囲にいた敵は全て、何発もの熱線を叩き込まれて一たまりもなく吹き飛ぶ。
 熱線の輝きが収まった時‥‥煙をブスブスとあげながら敵は全て倒れていた。

「こ、この威力は‥‥?」
 煙をあげて倒れたまま呻くウスラ。
 ガイはそれを見下ろす。
「炎領域の高レベル呪文【スーパーノヴァ】だ」

【スーパーノヴァ】‥‥炎領域6レベルの攻撃呪文。術者を中心に全方位へ数千発の焦熱光線を放ち、範囲内の全てを焼き貫く。近距離の敵が対象のため、接近戦を避けるほとんどの魔術師は好まないが、その威力は同レベルの攻撃魔法の中でも群を抜く。

 以前は4レベル呪文の石までしか造る事ができなかったガイ。
 しかしパーティを離れてから本来のレベルを超えた幾多の戦いを制し、自身のレベルも大きく上昇していた。それにより珠紋石じゅもんせきの作成に関する技能スキルレベルも上昇したのである。
 加えて、強力な素材があれば制作できる物も強力になる。ガイは前回の怪獣・ナパームヘッピートルからレア素材【燃焼液袋】も入手していた。
 これらによって制作できる可能な限り強力な石を、ガイは前回のパート終了後からせっせと作っていたのである。


「つぎはお前だぜ!」
 叫んでマスターキメラへ向き直るガイ。
 動かないマスターキメラ。

「!?」
 目を見開くガイ。
 煙をあげて倒れて動かないマスターキメラ。

 前話の最後でガイのほんの数メートル先に入り込んでいた彼女は、呪文の範囲内に踏み込んでいたのだ‥‥!

「む? しかし野盗の女、まだ生きておるぞ」
 ぴくぴく動くマスターキメラを見て、勘違いしたまま声をあげる鍛冶屋のイアン。
 だがそれに応えるがごとく、村を挟んだ向こう――大河の水中から巨大な怪獣が姿を現した!

「制御する奴がいなくなったから暴れ出したのかよ」
 額を抑えて呻くガイ。
 戦いはまだ終わっていなかった‥‥。
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