フェアリー・フェロウ~追い出されたフーテン野郎だが、拾い物でまぁなんとか上手くいく~

マッサン

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2章

23 皇女の帰還 8

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 ミオンが洗い物を終えて振り向くと、ガイはテーブルでこしらえ物に集中していた。
 消費型の魔法道具マジックアイテム……安い低レベル品から高価で高レベルな品まで。それを村の商店に収めるため、また自分で使うため、ガイは毎日内職していた。
 素材を集め、両手で道具を使いこなし、細かい作業をこなしてゆく。とても器用だが、休憩もせずに作業に熱中する所は不器用でもある。

 そんなガイの背中にこっそり近づき、そっと体を押し付けた。

 え、え、え? ななな、なんだよ?

 露骨に動揺するガイを見ると可笑おかしくなってしまう。
 思わず微笑ほほえみながらも彼に言ってあげた。

 根を詰めるとバテちゃうわよ。そろそろ休憩しないと。

 するとガイは道具をテーブルに置くのだ。

 わかってるよ……言われなくてもさ。

 まるで邪魔みたいな口ぶり。
 けれど、離れろ、とは言わない。
 きっと、ちょっとドキドキしているのだ。実は嬉しいくせに。
 そんな事はお見通し。

(チョロイって、こういう事かな)

 そう考えると思わずにんまりと顔が緩む。
 不器用で真っすぐなのにちょっと素直じゃない彼を、手玉にとるイケナイ感覚。
 でも……そんな彼だから安心して頼りにできるのも本当なのだ。

 ちょっと外の空気でも吸ってこようかしら?

 そう言うと、ガイは思い通りに応えてくれた。

 わかったよ。月でも眺めるか。

 そう言って立ち上がる。
 一緒に行こう、とはあえて言ってやらなかったけれど。ガイはそれが当然だと思っているのだ。
 でもそれは指摘しない。おかしくて、くすぐったくて、思わずくすくすと笑ってしまうけど。
 不思議で謎めいた力を秘めているくせに、面白いぐらい期待通りなガイを……よろしくないと頭ではわかっているけれど、やっぱりもうちょっとドギマギさせてみたい。

 ガイからすっと離れて、自分が先に夜の庭先に出る。
 夜空に月が輝いていた。
 遅れて出てくるガイに、ちょっぴり媚びた、内心すこし自信のある笑顔を向ける。

 綺麗よね。

 そう言うとガイは頷いた。
 その目は月ではなく、こちらを見つめていた。


――朝。第一皇女の寝室――


 朝日が眩しくてシャンリーは目を覚ました。
 昔から己の寝室で、寝床から身を起こす。
(夢……か。なんだか遠い昔の事みたいね)
 まださほど経っていないのに。短い時間だったのに。

 自分が深い溜息をついている事に、彼女自身気づいていなかった。


――執務室――


 何枚もの地図を前に、妹や数人の家臣達とともにシャンリーはあれこれと議論を重ねていた。
 その途中で扉が開く。
「まだ会議中なのか? 俺達、呼ばれて来たんだけど……」
 ガイ達一行であった。
「ああ、もうそんな時間なのね」
 シャンリーの言葉は言い訳や演技ではない。本当に時間が経つのを忘れていたのだ。

 地図は旧ケイト帝国領の現状……今でも従う領、独立を選んだ領、敵対までする領、中立で様子見をしている領を現す物だ。この状況でこれからどこへ対しどう動くか。案も懸念も不明点も無数にあり、いくら考えてもまとまる物ではなかった。時間などいくらあっても足りない。
 だがまとめねばならないのだ。決めて動きを指示せねばならないのだ。
 今のケイト帝国が抱える問題の、これは一つでしかないのだから。

「では一旦休憩にしましょう」
 シャンリーは家臣達にそう言い、間髪いれずガイ達へ振り返る。
「ガイ。率直に言うわ。ケイト帝国の要職に就いて頂戴」

「要職って……?」
 首を傾げるレレンにシャンリーは説明する。
「具体的には将軍ね。軍事力を外部に頼っている情けない現状も、ガイがいてくれたら一変させる事ができるわ」

「カサカ村はどうすんだ?」
 ガイというを求める言い分に、今度はタリンが訊く。
 それにもシャンリーは用意していた答えを返す。
「カーチナガ領主には再び帝国に恭順するよう求めるわ。ガイがこちらに着けば断らない筈よ」

 だがそれを聞いた家臣の一人が、後ろから耳打ちするかのように意見する。
「シャンリー様? あの辺境とこの都の間に、離反した領がいくつかあります。地続きにはなりませんぞ?」
「地続きにするわ。ガイ達がいれば難しくないもの」
 振り向きもせずに答えるシャンリー。
 その声の大きさも顔の向きも、明らかにガイ達へ聞かせる意思があった。

 ぶすっとした顔で聞いていたスティーナが「ふん」と鼻を鳴らす。
「皇女に戻ったら師匠を部下扱いですか? そこまで頼るなら、いっそ皇帝になってもらえばどうです。夫婦だったんだから」
「おいィ!? 何をのぼせとるんじゃ! それはお芝居でやってた事じゃろ!」
 目を吊り上げて第二皇女のヨウファが怒鳴った。
 それを片手をあげて制するシャンリー。
 妹が不満ながらも黙ってから、シャンリーははっきりと告げる。
「ガイを皇帝にはできないわ……既に人間ではないもの。ケイト帝国の皇帝になれるのは人間族だけよ」

 そう言うシャンリーの目は、真っすぐガイを見つめていた。
 ガイもまたシャンリーを見つめていた。だが……何も言わない。じっと、探るように窺うだけだ。

 少しの間、部屋は重い沈黙の底に沈んだ。

 そこへ入室してくる兵士が一人。
「ユーガン殿。よろしいですか?」
 呼ばれたユーガンは部屋の中を一瞥してから、自ら兵士に近づき、小声で何かの報告を受ける。
 それを聞いてから部屋の中の皆へ呼びかけた。
「話は後にしてはどうかな。影針えいしんの居場所がいくつかの候補に絞れた」

「わかった。そうしよう」
 頷くガイ。
 その瞳は、まだシャンリーを見つめていたが。
「任せるわ」
 同意するシャンリー。
 その瞳は、ガイから逸れる事は無いままだったが。
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