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2章
25 この結末は間違っているけれど 1
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――旧ケイト帝国領・現カーチナガ公国 カサカ村――
ガイ達が村に帰還し、早くも半月が経った。
村はますます発展している。世界樹の若木がある山の隣の山。そこが切り開かれ、新たな段々畑が造られ始めていた。
魔法道具……特に珠紋石の販売が軌道に乗っており、販売量の拡大が決められたので、素材の作成量を増やそう……という事になったのである。
人の口に戸は立てられぬ。また立てようともしておらぬ。
ガイ達が旧ケイト領を荒らしまわっていた魔竜を根こそぎ退治した事は急速に知れ渡った。その村で他には無い量と質の珠紋石が販売……というより輸出されている。ガイがそれらを用いて戦う事も当然知られた。
さてはそれによる戦力が大きいのかと、そう判断した近隣の領は次々と輸入を決めた。
旧ケイト領各地が独立し、中央によって抑えられていた地域対立も膨れつつある昨今。こんな時こそ戦力の確保は怠る事ができないのだ。
と、周囲の情勢もあってカサカ村は潤っていた。
しかし……
――ガイの家――
ガイは庭で素振りしていた。
鋭い太刀筋ではある。だがガイの表情は浮かない。
(なんだろうな……力が乗りきらない、気がする)
九割九部、思い通りに剣は振るえる。だが残り一部、何かが籠らない。
そんな所へ、マーダードーベルマンどもの間をぬってレレンが入って来た。
彼女はしばらくガイの素振りを見つめる。
ガイは何も話しかけない。
やがてレレンの方が意を決して声をかけた。
「ガイ……まだ、本調子じゃないようだな」
「そうかな」
ガイはそう言って素振りをやめた。
(村に戻ってからずっとこうだな。何かが僅かに、抜けて落ちたような感じ……)
ガイを見てそう思いながら、レレンは一度ぎゅっと目をつぶり、再び見開くと背負い袋から箱を取り出した。
弁当箱を。
「さ、最近、元気がないようだな。精のつきそうな物を、その、弁当を作ってみたんだ」
生まれて初めて完成させた手料理を、レレンは渾身の度胸を振り絞って差し出す。
初めてガイが反応した。
振り返って目を丸くする。
「え? どういう事だ?」
「どゆこと?」
ぱたぱたと降下してきてイムも目を丸くした。
「どどど、どうと言われても……ガイは村の地主なわけで、私は村に受け入れてもらっているわけで、だからだな……」
ガイに目を合わせられずに必死なレレン。
嗚呼……しかしなんという事か。
また別の人影が庭に入って来たではないか。
マーダードーベルマンどもに唸られても、それを意にも介さない。
「ようガイ。今日の見回りは終わったぜ。異常なしってヤツだ……ん? レレンも来てんのか」
上機嫌のタリンだった。今ではカサカ村の防衛隊長をレレンと二人でやっている。
だがタリン自身は朝遅くから昼までの3時間ほど、村周辺の巡回警備に加わるだけ。一日の21時間を寝たり食ったり風俗で騒いだりして暮らしている、結構なご身分である。
さらにどやどやと入ってくる者達が数名。
村長コエトール、農夫タゴサック、鍛冶屋のイアン、その孫のスティーナ……村の主だった面々。さらにララ・リリ・ウスラと、元パーティのメンバーがいた。
ララがレレンの弁当箱を見て目を見開いた。
「料理を教えてって……それを作るためだったの……」
「あ、いや、ここここれはだな、な……!」
焦りまくるレレン。真っ赤な顔で慌てて弁当箱を引っ込める。
ララの視線がガイへ向いた。「殺したい」と血走った目が語っている。
(なんで俺が恨まれるんだ?)
ガイは力が抜けて溜息を、深く深くついた。
その息を吐くだけで、なんだか疲れたように思える。
(なんだろうな……自分に違和感を覚えるのは。何か、中で噛み合っていない気がする)
そんなガイを見て何か勘違いする村長。
村の今後を相談に来たのだが、それを後回しにしておずおずと切り出す。
「あの、ガイ殿。あまり気落ちなさるな。女は世の中に一人じゃありません。それに考えてみれば、ガイ殿は世界樹の守護者。神々の領域におられるとさえ言える……人世の皇女ごときよりは上ですぞ」
ガイがムッと眉を寄せた。
触れられたくない話題なのだ。
しかしリリが媚びた笑顔で体をくねらせる。
「女なら他にもいっぱいいるじゃない。そうだ、おめかけさんを何人も作っちゃえ。ハーレムってやつ? 第一号に立候補しちゃおっかナーなんて|(はぁと)……あんなオンナなんか忘れて、ね?」
ガイがムッと眉を寄せた。
抑えてはいるが、苛立ってもいる。
なのにタリンが笑いやがった。
「ギャハハハハ! 都会の実家に女房が帰ってしょげてんのか。あんな上玉、お前からワビ入れなきゃこんな田舎に帰るかよ。戻って欲しけりゃ正直にそう言ってきな」
ガイがムムッと眉を寄せた。
タリンを忌々しそうに睨み……
……ハッと気づいた。
「正直に言え……か」
聖剣を収め、しばし考えるガイ。
(正直に……俺は何をどうしたかった?)
それを改めて明確な言葉にしようとすると……自分の中にあった違和感の正体が見えてきた。
ガイはイムを見上げる。
「シャンリーの事……好きか?」
「うん! 大好き」
ガイと同じ世界樹の分身である妖精イムは。屈託ない笑顔で。はっきりと言いきった。
ガイ達が村に帰還し、早くも半月が経った。
村はますます発展している。世界樹の若木がある山の隣の山。そこが切り開かれ、新たな段々畑が造られ始めていた。
魔法道具……特に珠紋石の販売が軌道に乗っており、販売量の拡大が決められたので、素材の作成量を増やそう……という事になったのである。
人の口に戸は立てられぬ。また立てようともしておらぬ。
ガイ達が旧ケイト領を荒らしまわっていた魔竜を根こそぎ退治した事は急速に知れ渡った。その村で他には無い量と質の珠紋石が販売……というより輸出されている。ガイがそれらを用いて戦う事も当然知られた。
さてはそれによる戦力が大きいのかと、そう判断した近隣の領は次々と輸入を決めた。
旧ケイト領各地が独立し、中央によって抑えられていた地域対立も膨れつつある昨今。こんな時こそ戦力の確保は怠る事ができないのだ。
と、周囲の情勢もあってカサカ村は潤っていた。
しかし……
――ガイの家――
ガイは庭で素振りしていた。
鋭い太刀筋ではある。だがガイの表情は浮かない。
(なんだろうな……力が乗りきらない、気がする)
九割九部、思い通りに剣は振るえる。だが残り一部、何かが籠らない。
そんな所へ、マーダードーベルマンどもの間をぬってレレンが入って来た。
彼女はしばらくガイの素振りを見つめる。
ガイは何も話しかけない。
やがてレレンの方が意を決して声をかけた。
「ガイ……まだ、本調子じゃないようだな」
「そうかな」
ガイはそう言って素振りをやめた。
(村に戻ってからずっとこうだな。何かが僅かに、抜けて落ちたような感じ……)
ガイを見てそう思いながら、レレンは一度ぎゅっと目をつぶり、再び見開くと背負い袋から箱を取り出した。
弁当箱を。
「さ、最近、元気がないようだな。精のつきそうな物を、その、弁当を作ってみたんだ」
生まれて初めて完成させた手料理を、レレンは渾身の度胸を振り絞って差し出す。
初めてガイが反応した。
振り返って目を丸くする。
「え? どういう事だ?」
「どゆこと?」
ぱたぱたと降下してきてイムも目を丸くした。
「どどど、どうと言われても……ガイは村の地主なわけで、私は村に受け入れてもらっているわけで、だからだな……」
ガイに目を合わせられずに必死なレレン。
嗚呼……しかしなんという事か。
また別の人影が庭に入って来たではないか。
マーダードーベルマンどもに唸られても、それを意にも介さない。
「ようガイ。今日の見回りは終わったぜ。異常なしってヤツだ……ん? レレンも来てんのか」
上機嫌のタリンだった。今ではカサカ村の防衛隊長をレレンと二人でやっている。
だがタリン自身は朝遅くから昼までの3時間ほど、村周辺の巡回警備に加わるだけ。一日の21時間を寝たり食ったり風俗で騒いだりして暮らしている、結構なご身分である。
さらにどやどやと入ってくる者達が数名。
村長コエトール、農夫タゴサック、鍛冶屋のイアン、その孫のスティーナ……村の主だった面々。さらにララ・リリ・ウスラと、元パーティのメンバーがいた。
ララがレレンの弁当箱を見て目を見開いた。
「料理を教えてって……それを作るためだったの……」
「あ、いや、ここここれはだな、な……!」
焦りまくるレレン。真っ赤な顔で慌てて弁当箱を引っ込める。
ララの視線がガイへ向いた。「殺したい」と血走った目が語っている。
(なんで俺が恨まれるんだ?)
ガイは力が抜けて溜息を、深く深くついた。
その息を吐くだけで、なんだか疲れたように思える。
(なんだろうな……自分に違和感を覚えるのは。何か、中で噛み合っていない気がする)
そんなガイを見て何か勘違いする村長。
村の今後を相談に来たのだが、それを後回しにしておずおずと切り出す。
「あの、ガイ殿。あまり気落ちなさるな。女は世の中に一人じゃありません。それに考えてみれば、ガイ殿は世界樹の守護者。神々の領域におられるとさえ言える……人世の皇女ごときよりは上ですぞ」
ガイがムッと眉を寄せた。
触れられたくない話題なのだ。
しかしリリが媚びた笑顔で体をくねらせる。
「女なら他にもいっぱいいるじゃない。そうだ、おめかけさんを何人も作っちゃえ。ハーレムってやつ? 第一号に立候補しちゃおっかナーなんて|(はぁと)……あんなオンナなんか忘れて、ね?」
ガイがムッと眉を寄せた。
抑えてはいるが、苛立ってもいる。
なのにタリンが笑いやがった。
「ギャハハハハ! 都会の実家に女房が帰ってしょげてんのか。あんな上玉、お前からワビ入れなきゃこんな田舎に帰るかよ。戻って欲しけりゃ正直にそう言ってきな」
ガイがムムッと眉を寄せた。
タリンを忌々しそうに睨み……
……ハッと気づいた。
「正直に言え……か」
聖剣を収め、しばし考えるガイ。
(正直に……俺は何をどうしたかった?)
それを改めて明確な言葉にしようとすると……自分の中にあった違和感の正体が見えてきた。
ガイはイムを見上げる。
「シャンリーの事……好きか?」
「うん! 大好き」
ガイと同じ世界樹の分身である妖精イムは。屈託ない笑顔で。はっきりと言いきった。
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