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第1部 学校~始まり
気付いてしまった
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ソルの作った薬は、結果的にソアラの身体に合っていたらしい。
その後、薬を飲み始めてからすぐ。ソアラは嬉しそうに「身体がポカポカして、よく眠れるようになったの!」
「良かったね。身体が温まってくるのは、精気が増えてきた証拠だよ」
ソルはフォードにも報告して、更に1週間、2回目も同じ内容の薬を作ることに決めた。
朝、校門でモーネたちと別れ、取り敢えずソアラの馬車を待つ。特別親しげにして、変な噂を立てられたくなかったので、今日は薬を渡したらすぐに側を離れるつもりだった。
ソアラを乗せた馬車が現われたのは、それから10分ほど経ってからのこと。
「では、行ってらっしゃいませ、ソアラ様」
「行ってきます!また放課後、お願いね!」
馬車を降りたソアラが、ソルを見つけて駆け寄ってくる。
「おはよう、ソルく……あッ!」
ソルに気を取られて、横から近付いてくる生徒に気が付かなかったらしい。
ソルが止めようとした時には既に遅く、白いブレザーを着た男子生徒がソアラにぶつかる直前まで迫っていた。
お互い咄嗟に足を止めたので、実際にぶつかることはなかったが……。
「あの、ごめんなさい。私、よく見ていなくて……」
申し訳なさそうに謝ったソアラに、相手は無表情のまま「ん」とだけ。後は、特に謝るでもなく、とっとと歩いて行ってしまった。
(え……ちょっと、もうちょっと何か言ってあげてもいいんじゃないの?)
唖然としながら、その後ろ姿を見送るソル。
一方、ソアラも同じように、しばらくその後ろ姿を見送っていたが。
「見た?ソル君!今の人、特別クラスの人だよね!ブレザー、白だったもの!」
「え?ああ、うん、そうだったね……」
「私、あんなに近くで見たの、初めて!今日はいいことありそう!!」
「へ?何で?」
「だって、特別クラスの人とぶつかりそうになるなんて、滅多にないことだもの!!」
確かにソルも、彼らを近くで見たのは初めてだ。でも、ソアラのように「ラッキー!」とは思えない。頭の中では、モーネがいつか言っていた「ヒーセントなんて……」という言葉。
「何て言うか、その、もうちょっと親切でも良いかなとか、思わない?ぶつかりそうになったのは、お互い様なんだし……」
「そこは仕方ないわ。あの人たち、特別クラスなんですもの。私たちと気軽に話したりしちゃ、いけないのよ」
「えっ、何、そんな規則があるの?」
薬を渡したらすぐに別行動をする予定が、思わぬ話の展開に、つい並んで歩き出してしまう。
というより、むしろ本当ならソアラの方が周りを気にするべき立場なのだが、どうも本人はそういうところには無頓着。それよりも朝から特別クラスの生徒を間近で見られた興奮が冷めない様子で、足元は軽やかに弾んでいる。
「ねえ、ソル君。『ヒーセントの5つの誓い』って知ってる?」
「多分、分かる。確か『自分はこれからヒーセントとして、私利私欲に振り回されることなく、人を差別することなく国家と民のために尽くします』って意味のやつだよね」
「そう。その『人を差別することなく』っていうのは、『特別な人間を作らない』っていうことなんだって」
「特別、を作らない……」
「だから特別クラスの人達って、クラスの中でも馴れ合ったりしないし、私達、普通の人間とは敢えて距離を置いてる。学校で話してるところを先生に見つかると、怒られるとまではいかないけれど、チェックされるらしいって聞いたことがあるわ」
「先生が!?何で?」
「知らないところで恋仲にでもなられたら困るからでしょ?ヒーセントは差別なく国と民のために尽くすものなの。恋人もそうだけど、親友なんてものも作っちゃダメなのよ」
「親友も?厳しすぎない?」
高額な治療代と、選ばれた人間としての輝かしい側面ばかりが強調されるヒーセントだが、今の話が本当なら、実はものすごく孤独な一面があるのではないか。もし自分なら、そんな人生に耐えられるだろうか。
そもそも、友達にもなっちゃいけないだなんて、だったら何のために自分達と同じ学校にクラスが併設されているのか。ヒーセンスを持った生徒達だけの学校を、どこか別に作れば良かったじゃないか。
「そこは、ほら。うちの校長はやり手だから……」
「…………」
週に1度、朝礼で挨拶をする小太りの校長を頭に思い浮かべる。なるほど、確かにやり手そうだ。
「それに、親友も恋人も作れないけど、結婚はできるのよ?しかも、大半の人は5大治療院のある土地の領主様、つまり貴族のご子息やご令嬢と結ばれるんですって。お父様の話では、治療院には病気でない人達もたくさん来ていて、それは領主様に雇われてヒーセントの品定めをする方々らしいわ」
恐らく、そのような役目を依頼されるのは、貴族の家に出入りしている商人達。いずれ、ソアラが紹介されるという『どこかの男爵家に出入りしているお方』も、きっとそういうことを請け負っているのだろう。
また、そうして調べた時に万が一、恋人の存在などが見つかろうものなら、きっとその相手は酷い目に遭う。領主様から散々脅かされた上で、良ければお金を渡され、悪い時にはほとんど罪人同然の状態で領地を追われることになるに違いない。
ヒーセントの孤独、力を求めて、そこに群がる人間達。全てが重くのしかかってきて、ソルはその場にしゃがみ込みそうになる。
こんな自分は、例え力が宿っていたとしてもヒーセントにはなれない。そんな強い人間ではない。力がなかったのは正解だった。
(正解、の、はずなのに……)
どうして、心が痛むのだろう。
テストには落ちて、17歳にもなって、果てしのない孤独には耐えられそうもなくて。
現実はこれでもかというほど、ダメを出してくるのに……。
(これ以上、考えては駄目。モーネが悲しむから)
それでも、ソルは気付いてしまった。
自分が本当になりたかったもの。
自分は自分が思っていたよりもずっと、ヒーセントに憧れていた、ということに。
その後、薬を飲み始めてからすぐ。ソアラは嬉しそうに「身体がポカポカして、よく眠れるようになったの!」
「良かったね。身体が温まってくるのは、精気が増えてきた証拠だよ」
ソルはフォードにも報告して、更に1週間、2回目も同じ内容の薬を作ることに決めた。
朝、校門でモーネたちと別れ、取り敢えずソアラの馬車を待つ。特別親しげにして、変な噂を立てられたくなかったので、今日は薬を渡したらすぐに側を離れるつもりだった。
ソアラを乗せた馬車が現われたのは、それから10分ほど経ってからのこと。
「では、行ってらっしゃいませ、ソアラ様」
「行ってきます!また放課後、お願いね!」
馬車を降りたソアラが、ソルを見つけて駆け寄ってくる。
「おはよう、ソルく……あッ!」
ソルに気を取られて、横から近付いてくる生徒に気が付かなかったらしい。
ソルが止めようとした時には既に遅く、白いブレザーを着た男子生徒がソアラにぶつかる直前まで迫っていた。
お互い咄嗟に足を止めたので、実際にぶつかることはなかったが……。
「あの、ごめんなさい。私、よく見ていなくて……」
申し訳なさそうに謝ったソアラに、相手は無表情のまま「ん」とだけ。後は、特に謝るでもなく、とっとと歩いて行ってしまった。
(え……ちょっと、もうちょっと何か言ってあげてもいいんじゃないの?)
唖然としながら、その後ろ姿を見送るソル。
一方、ソアラも同じように、しばらくその後ろ姿を見送っていたが。
「見た?ソル君!今の人、特別クラスの人だよね!ブレザー、白だったもの!」
「え?ああ、うん、そうだったね……」
「私、あんなに近くで見たの、初めて!今日はいいことありそう!!」
「へ?何で?」
「だって、特別クラスの人とぶつかりそうになるなんて、滅多にないことだもの!!」
確かにソルも、彼らを近くで見たのは初めてだ。でも、ソアラのように「ラッキー!」とは思えない。頭の中では、モーネがいつか言っていた「ヒーセントなんて……」という言葉。
「何て言うか、その、もうちょっと親切でも良いかなとか、思わない?ぶつかりそうになったのは、お互い様なんだし……」
「そこは仕方ないわ。あの人たち、特別クラスなんですもの。私たちと気軽に話したりしちゃ、いけないのよ」
「えっ、何、そんな規則があるの?」
薬を渡したらすぐに別行動をする予定が、思わぬ話の展開に、つい並んで歩き出してしまう。
というより、むしろ本当ならソアラの方が周りを気にするべき立場なのだが、どうも本人はそういうところには無頓着。それよりも朝から特別クラスの生徒を間近で見られた興奮が冷めない様子で、足元は軽やかに弾んでいる。
「ねえ、ソル君。『ヒーセントの5つの誓い』って知ってる?」
「多分、分かる。確か『自分はこれからヒーセントとして、私利私欲に振り回されることなく、人を差別することなく国家と民のために尽くします』って意味のやつだよね」
「そう。その『人を差別することなく』っていうのは、『特別な人間を作らない』っていうことなんだって」
「特別、を作らない……」
「だから特別クラスの人達って、クラスの中でも馴れ合ったりしないし、私達、普通の人間とは敢えて距離を置いてる。学校で話してるところを先生に見つかると、怒られるとまではいかないけれど、チェックされるらしいって聞いたことがあるわ」
「先生が!?何で?」
「知らないところで恋仲にでもなられたら困るからでしょ?ヒーセントは差別なく国と民のために尽くすものなの。恋人もそうだけど、親友なんてものも作っちゃダメなのよ」
「親友も?厳しすぎない?」
高額な治療代と、選ばれた人間としての輝かしい側面ばかりが強調されるヒーセントだが、今の話が本当なら、実はものすごく孤独な一面があるのではないか。もし自分なら、そんな人生に耐えられるだろうか。
そもそも、友達にもなっちゃいけないだなんて、だったら何のために自分達と同じ学校にクラスが併設されているのか。ヒーセンスを持った生徒達だけの学校を、どこか別に作れば良かったじゃないか。
「そこは、ほら。うちの校長はやり手だから……」
「…………」
週に1度、朝礼で挨拶をする小太りの校長を頭に思い浮かべる。なるほど、確かにやり手そうだ。
「それに、親友も恋人も作れないけど、結婚はできるのよ?しかも、大半の人は5大治療院のある土地の領主様、つまり貴族のご子息やご令嬢と結ばれるんですって。お父様の話では、治療院には病気でない人達もたくさん来ていて、それは領主様に雇われてヒーセントの品定めをする方々らしいわ」
恐らく、そのような役目を依頼されるのは、貴族の家に出入りしている商人達。いずれ、ソアラが紹介されるという『どこかの男爵家に出入りしているお方』も、きっとそういうことを請け負っているのだろう。
また、そうして調べた時に万が一、恋人の存在などが見つかろうものなら、きっとその相手は酷い目に遭う。領主様から散々脅かされた上で、良ければお金を渡され、悪い時にはほとんど罪人同然の状態で領地を追われることになるに違いない。
ヒーセントの孤独、力を求めて、そこに群がる人間達。全てが重くのしかかってきて、ソルはその場にしゃがみ込みそうになる。
こんな自分は、例え力が宿っていたとしてもヒーセントにはなれない。そんな強い人間ではない。力がなかったのは正解だった。
(正解、の、はずなのに……)
どうして、心が痛むのだろう。
テストには落ちて、17歳にもなって、果てしのない孤独には耐えられそうもなくて。
現実はこれでもかというほど、ダメを出してくるのに……。
(これ以上、考えては駄目。モーネが悲しむから)
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