薬師の薬も、さじ加減

ミリ

文字の大きさ
16 / 68
第1部 学校~始まり

正解の分からない選択

しおりを挟む
「じいちゃん!じいちゃん、いるっ?」

 シェリーとルートと3人がかりでモーネを部屋に運び入れながら、ソルは大声を上げた。

「じいちゃん!いるなら、来て!モーネが熱を出した!!」

 フォードが普段、書き置きを残していくのは食堂のテーブルだ。
 丸太を組み合わせて作った、少々不格好なそれに近寄ってみると。

『産婆のヨロイさんに呼ばれて、お産の手伝いに行ってきます』

「今、赤ん坊が生まれるとしたら、村はずれのコルフォさんとこですよ。ソルさん」

「コルフォさん……コルフォさん、って、確か……」

「1人目の時に産後の肥立ちが悪くて、もう2人目は授かりそうもねえって……奥さん、泣いてらしたが、何とか授かったんですな。その2人目がもうすぐ生まれそうって、この前、旦那さんが嬉しそうに話してました」

「……」

(もしかしたら難産かもしれない。じいちゃん、また朝まで帰ってこないかも……)

 きっと険しい顔をしていたのだろう。
 ルートは、手に持っていた帽子をかぶりながら「どうします。呼んできますかい?」

「待って……多分、コルフォさんも、じいちゃんがついていてあげた方がいい状態だと思うから……」

 どうする?どうする?どうしよう?
 
(モーネが、何で熱を出してるのか分からない。シェリーは、昼間は何ともなかったって言ってたし、こんなに急に熱が上がってくることなんてある?)

「ソル兄!取り敢えず、モーネをベッドに寝かした。今は、ちょっとだるそうだけど、さっきよりは落ち着いてると思う」

 モーネの部屋から出て来たシェリーが、階段の手すり越しに身を乗り出す。

「他には、何かできることある?ソル兄」

「何でも言って下せえ、ソルさん」

「えっと、まず熱を下げる?……いや、でも熱の原因が分からないと……」

 熱を下げる薬草にはたくさんの種類がある。単純に汗をかかせるものから、熱の原因となっている部分に個別にアプローチするものまで、本当にたくさん。
 使い分けについては、フォードから一通り聞いているはずで、今は思い出せなくても、ノートを見れば書いてあるはずだ。

(ただ、今はじいちゃんがいない。何を使うか、自分1人で判断しなきゃならない……)

 大丈夫。できるはず。
 だって、フォードが側にいる時、「この症状には、何を使えばいいと思う?」と聞かれた時には、大抵正解していたんだから。
 違うのは、「正解だよ」と言ってくれる人がいないということだけ。

(でも、絶対に助ける。モーネは俺を1人にしないって言ってくれたんだから)

「……まずは、熱を下げよう。調合部屋に、マイルの葉を乾燥させたのがあるから取ってくる。シェリーはモーネについててやって。ルートさんはお湯を沸かしてもらえますか?薬草を、煎じて飲ませてみます」

「分かった」
「分かりやした」

 マイルの葉は、比較的、広範囲の熱に効く薬草だ。
 特に身体を温める作用に優れていて、汗をかかせてくれる上に、味も悪くない。

 調合部屋の扉を開けて、何本も並んでいるガラス瓶の中から『マイル』と書かれたものを取って……ふと、少し離れた棚にある瓶が目に留まった。薬草園で採れる『コク』という木の根皮。こちらも熱を下げる作用があるが、熱の原因によってはあまり効果が期待できない。でも……。

(でも、もしかしたらモーネには合ってるかも……?)

 まるで目が合ってしまったようで、無視できなくて。
 ソルは両方の瓶を掴んで、食堂へと戻った。

「ソルさん!お湯が沸きましたよ!」

「ルートさん、ありがとうございます。シェリー、モーネの様子は?」

「手足が熱い。顔も赤くて、ぐったりしてる感じ」

 ベッドの横に座り込んだシェリーは小さく震えていた。

「ねえ、モーネ、大丈夫だよね?ソル兄が、何とかしてくれるんでしょ?」

「大丈夫、大丈夫だから、落ち着いて」

 手と足の先に交互に触れてみると、シェリーの言う通り、熱い。頬も赤くて、だいぶ火照っているようだ。
 おでこに手を当ててみると、汗はかいていなくて、どちらかというとさらりと乾燥している。

「やっぱり、マイルを使おう。とにかく熱を下げた方がいいと思うから……」

 ガラス瓶に薬さじを突っ込んで、中身を出そうとした時。

(汗をかかせて、大丈夫?)

 ふと、手が止まった。

「……ごめん。やっぱり、別のを使う。こっちのコクでいこうと思う」

「え……マイルなら、俺も飲んだことあるけど。こっちのは知らない。強い薬なの?」

「いや、強いって訳じゃないんだけど。でも、モーネは元々のエネルギーが少ないから。汗をかくのも体力を使うし、だったら無理に汗をかかせないコクの方がいいんじゃないかと思って……」

 それに、シェリーは『昼間は何ともなかった』と言っていた。
 ならば、これは何か原因がある発熱ではなくて、通常、身体の熱を冷ましてくれている体液が、疲れなどで急激に少なくなったから、かもしれない。モーネのように精気の少ない人間は、体液も慢性的に不足していることが多いから。

「コクは、体液を補ってくれたりもするから、そういう意味でも、モーネには合ってるんじゃないかと思う。ただ、そういう時の熱って、こんなに高くは上がらなかったりもするんだけど……」

 知識は色々、教わっている。
 ただ、実際に人を前にした経験が足りない。
 
(でも、モーネのことは、多分1番、見てきたはず。話だって聞いてきた)

 最後に1度、モーネの口を開けて、その赤い舌をチェックして。

「……うん、やっぱりこれでいく。モーネ、待たせてごめん。苦しかったよな。でも、大丈夫だから。薬を飲んで、ゆっくり眠ろう」

 ルートの持ってきてくれた木製のカップに、薬草を入れて、お湯を注ぐ。

「マイルよりちょっと飲みにくいかもしれないけど。でも……頑張って」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...