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第1部 学校~始まり
変わる予感
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「僕、薬を増やして欲しい、それか、もう少し強い薬を飲みたいって、フォードおじいちゃんにお願いしてみた」
「えっ、本当に!?」
モーネの言葉に、ソルは危うく椅子から転げ落ちそうになった。
ソルの覚えている限り、モーネが自分の薬について意見を述べるのは初めてだ。
「それで……じいちゃん、何て?」
「強い薬は、身体の他の部分にも影響することがあるって。副作用って言うんだよね。そういうのが起こることもあるし、或いはもっと単純に、自分の身体が弱ってると、薬の効果を受け止めきれなくて、具合が悪くなることもあるって」
「そう、だよな。そうなんだ……」
フォードはそれを心配して、モーネに強い薬を使うことを避けている。確かに、最終的に健康になるとしても、そこまでの道のりが辛いものなら、それは最上とは言えない訳で、ソルにもフォードの考えはよく分かる。
ただ、ほんの少しだけ、落胆してしまったのも事実で……。
「……フォードおじいちゃん、言ってた。焦っちゃ駄目なんだって……」
「そう、じいちゃんが言うなら……」
「……でもね、フォードおじいちゃんはそう言ってくれたけど、僕はそれでも良いから飲みたいって言ったんだ」
「えっ!!」
ソルは今度こそ本当に驚いて、思わず椅子から立ち上がった。
だって、まさかフォードの決めたことに、更に意見を言うなんて……。
「それで……じいちゃん、何て……」
「分かったって言ってくれた。もう少し、強い薬に変えてみるって。ちょっとお腹痛くなったり、下しちゃったりすることがあるかもしれないけど、あんまり酷いようなら、またすぐ元に戻せばいいからって」
「……うそ……」
「ソルも、同じこと考えてくれてたんでしょ?フォードおじいちゃんが言ってた。僕のこと、考えてくれてたんだって。勿論、分かってたけど、改めて聞いて嬉しかったよ」
ソルは一瞬、呆然として……その後に、足元からゆっくり立ち上ってきたのは喜びと感動。
「モーネ、やった!やった!!」
何が、『やった』なのか。モーネが自分の治療に積極的になってくれたことが嬉しいのか、ここから状況が変わるかもしれないという期待なのか、祖父が自分の意見を真摯に考えていてくれたことに感動しているのか、或いはその全部なのか。
ソルにもはっきりとは分からなかったが、ただ、ここから何かが変わるのではないかという予感はした。1番は、モーネの身体が良くなることへの期待。それが本当に嬉しくて、その衝動のまま、モーネの首に手を回す。
「モーネ、やった!俺も協力するから、頑張ろうな!!」
「……うん」
一瞬、固まって、それから頷いたモーネの手が、そっと背中に回る。その手つきが、ただのハグとは思えないほど優しくて……。
(え、何かちょっと、これ、抱きしめられてるみたい……)
実際には、モーネの身長はソルの肩くらいまでしかないので、傍目にはそうは見えないだろうが。でも、1度考えてしまうと何となく気になってきてしまう。
ソルは恥ずかしさのあまり、モーネを突き放そうと肩を押したのだが……。
「ソル……もう少しだけ……このまま、聞いて」
「え、何……」
「僕がね、強い薬を飲みたいと思ったのって、ソルのことを考えたから。ソルに、これ以上、心配をかけたくなくて、それで本気で身体が強くなればいいなって。あの、すごく強くなれなくても、人並みくらいには……」
言葉を選びながら話すうちに、よく分からなくなってきたのだろう。
困ったように小さくなっていく声に、助け船を出してやろうと顔を上げると。
「駄目、今、顔見ちゃダメ。めちゃくちゃ、ドキドキしてるから」
背中に回った手に、更に力が込められる。
(いや、ドキドキって何だ?緊張してるって意味?)
珍しく、治療に対する意見など口にしているからだろうか。ソルは、最初そう思ったのだが……。
「……ヒーセントのこと。ソルがこだわるのは、僕がいつか急に死んじゃうかもしれないって、心配してるからなんだよね」
「……!」
今度は、ソルが緊張する番だ。思わず、身体に力が入る。
そんなソルの背中をモーネは優しく擦って。
「僕は、ヒーセントが嫌い。多分、これからも受け入れられないと思う。でも、ソルが僕のことをそこまで思ってくれてるって……それは、正直、すごく、嬉しい。って言ったら、ソルは怒るかもしれないけど……」
「……」
「だから、僕がちゃんと健康になることで、ソルが安心できたら、その時はソルもヒーセントにこだわらなくなるかな、って。どう?」
(それは、どう…………?)
分からない。
色んな思いが、願いが、怖さが、胸の中で混じり合って、答えが出せない。
そんなソルの気持ちを読んだように、モーネが「なんてね」と笑った。背中の手は、離さないまま。
「今は、まだ分からないよね。だって、僕、まだ元気じゃないし」
「そんな……そんなこと……」
「でも、僕は絶対、元気になるから。そうしたら、それを見たら、ソルもきっと考えが変わる。……変わんなくてもいいよ。それでも、僕はソルが好きだから。でも、変わってくれたら嬉しい。そのために、頑張るから」
最後に1度、ぎゅっと強く絞められて、背中から手が離れた。
「さて、宿題の邪魔しちゃって、ごめんね。話はそれだけ。……明日から、また一緒に学校に行こうね」
「……うん」
頷いて、部屋に戻る。
モーネの目は、見られなかった。
***
(言っちゃった……言っちゃった……!!)
部屋へ戻るソルの背を見送り、自分も部屋に戻ってきたモーネは思わずベッドにダイブすると、枕を抱きしめて右に左にゴロゴロ。
(大丈夫?変じゃなかった?大丈夫だよね?)
抱きしめた――傍目には、そうは見えなくても、モーネにとって、あれは立派な抱擁だった――ソルの身体は、温かくて、清潔で、少しだけ薬草の匂いがした。抱きしめて、好きだと伝える……まさか、自分にこんなチャンスが回ってくるなんて!!
「あー、もう、今日は眠れないかもー!!」
小さく呟いた声が、干し草の枕に吸い込まれていく。
ソルが自室で喜びと戸惑いの狭間にいる時間。
モーネは、それまで生きてきた中で1番幸せな夕方を満喫していた。
「えっ、本当に!?」
モーネの言葉に、ソルは危うく椅子から転げ落ちそうになった。
ソルの覚えている限り、モーネが自分の薬について意見を述べるのは初めてだ。
「それで……じいちゃん、何て?」
「強い薬は、身体の他の部分にも影響することがあるって。副作用って言うんだよね。そういうのが起こることもあるし、或いはもっと単純に、自分の身体が弱ってると、薬の効果を受け止めきれなくて、具合が悪くなることもあるって」
「そう、だよな。そうなんだ……」
フォードはそれを心配して、モーネに強い薬を使うことを避けている。確かに、最終的に健康になるとしても、そこまでの道のりが辛いものなら、それは最上とは言えない訳で、ソルにもフォードの考えはよく分かる。
ただ、ほんの少しだけ、落胆してしまったのも事実で……。
「……フォードおじいちゃん、言ってた。焦っちゃ駄目なんだって……」
「そう、じいちゃんが言うなら……」
「……でもね、フォードおじいちゃんはそう言ってくれたけど、僕はそれでも良いから飲みたいって言ったんだ」
「えっ!!」
ソルは今度こそ本当に驚いて、思わず椅子から立ち上がった。
だって、まさかフォードの決めたことに、更に意見を言うなんて……。
「それで……じいちゃん、何て……」
「分かったって言ってくれた。もう少し、強い薬に変えてみるって。ちょっとお腹痛くなったり、下しちゃったりすることがあるかもしれないけど、あんまり酷いようなら、またすぐ元に戻せばいいからって」
「……うそ……」
「ソルも、同じこと考えてくれてたんでしょ?フォードおじいちゃんが言ってた。僕のこと、考えてくれてたんだって。勿論、分かってたけど、改めて聞いて嬉しかったよ」
ソルは一瞬、呆然として……その後に、足元からゆっくり立ち上ってきたのは喜びと感動。
「モーネ、やった!やった!!」
何が、『やった』なのか。モーネが自分の治療に積極的になってくれたことが嬉しいのか、ここから状況が変わるかもしれないという期待なのか、祖父が自分の意見を真摯に考えていてくれたことに感動しているのか、或いはその全部なのか。
ソルにもはっきりとは分からなかったが、ただ、ここから何かが変わるのではないかという予感はした。1番は、モーネの身体が良くなることへの期待。それが本当に嬉しくて、その衝動のまま、モーネの首に手を回す。
「モーネ、やった!俺も協力するから、頑張ろうな!!」
「……うん」
一瞬、固まって、それから頷いたモーネの手が、そっと背中に回る。その手つきが、ただのハグとは思えないほど優しくて……。
(え、何かちょっと、これ、抱きしめられてるみたい……)
実際には、モーネの身長はソルの肩くらいまでしかないので、傍目にはそうは見えないだろうが。でも、1度考えてしまうと何となく気になってきてしまう。
ソルは恥ずかしさのあまり、モーネを突き放そうと肩を押したのだが……。
「ソル……もう少しだけ……このまま、聞いて」
「え、何……」
「僕がね、強い薬を飲みたいと思ったのって、ソルのことを考えたから。ソルに、これ以上、心配をかけたくなくて、それで本気で身体が強くなればいいなって。あの、すごく強くなれなくても、人並みくらいには……」
言葉を選びながら話すうちに、よく分からなくなってきたのだろう。
困ったように小さくなっていく声に、助け船を出してやろうと顔を上げると。
「駄目、今、顔見ちゃダメ。めちゃくちゃ、ドキドキしてるから」
背中に回った手に、更に力が込められる。
(いや、ドキドキって何だ?緊張してるって意味?)
珍しく、治療に対する意見など口にしているからだろうか。ソルは、最初そう思ったのだが……。
「……ヒーセントのこと。ソルがこだわるのは、僕がいつか急に死んじゃうかもしれないって、心配してるからなんだよね」
「……!」
今度は、ソルが緊張する番だ。思わず、身体に力が入る。
そんなソルの背中をモーネは優しく擦って。
「僕は、ヒーセントが嫌い。多分、これからも受け入れられないと思う。でも、ソルが僕のことをそこまで思ってくれてるって……それは、正直、すごく、嬉しい。って言ったら、ソルは怒るかもしれないけど……」
「……」
「だから、僕がちゃんと健康になることで、ソルが安心できたら、その時はソルもヒーセントにこだわらなくなるかな、って。どう?」
(それは、どう…………?)
分からない。
色んな思いが、願いが、怖さが、胸の中で混じり合って、答えが出せない。
そんなソルの気持ちを読んだように、モーネが「なんてね」と笑った。背中の手は、離さないまま。
「今は、まだ分からないよね。だって、僕、まだ元気じゃないし」
「そんな……そんなこと……」
「でも、僕は絶対、元気になるから。そうしたら、それを見たら、ソルもきっと考えが変わる。……変わんなくてもいいよ。それでも、僕はソルが好きだから。でも、変わってくれたら嬉しい。そのために、頑張るから」
最後に1度、ぎゅっと強く絞められて、背中から手が離れた。
「さて、宿題の邪魔しちゃって、ごめんね。話はそれだけ。……明日から、また一緒に学校に行こうね」
「……うん」
頷いて、部屋に戻る。
モーネの目は、見られなかった。
***
(言っちゃった……言っちゃった……!!)
部屋へ戻るソルの背を見送り、自分も部屋に戻ってきたモーネは思わずベッドにダイブすると、枕を抱きしめて右に左にゴロゴロ。
(大丈夫?変じゃなかった?大丈夫だよね?)
抱きしめた――傍目には、そうは見えなくても、モーネにとって、あれは立派な抱擁だった――ソルの身体は、温かくて、清潔で、少しだけ薬草の匂いがした。抱きしめて、好きだと伝える……まさか、自分にこんなチャンスが回ってくるなんて!!
「あー、もう、今日は眠れないかもー!!」
小さく呟いた声が、干し草の枕に吸い込まれていく。
ソルが自室で喜びと戸惑いの狭間にいる時間。
モーネは、それまで生きてきた中で1番幸せな夕方を満喫していた。
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