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第1部 学校~始まり
嘘は言ってない
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その日は、ソルよりも中等部2人の方が先に馬車に着いた。
同じように生徒を乗せた馬車達が次々と走り去っていくのを籠の中から眺めていると。
「あれっ?あれ、ソル兄……だけど……」
「何か……誰か一緒?」
こちらに向かって歩いてくるソルの隣りには、同じように高等部の制服を着た男子生徒がいる。友達だろうか。
「もしかしたら、途中まで一緒に乗せていって欲しいとか言うのかも。モーネ、そっち詰められる?」
「待って。この空き箱を積み上げれば、大丈夫だと思う」
ルートは子供達を学校へ送ると、そのまま周辺の町へ行って、村で採れた作物を売ったり、村では手に入らない品物を買ってきたりしている。作物は麻袋で持っていくこともあれば、今日みたいに木箱の日もあり、そういう日は籠の中が手狭だ。
「うーん、あと1個、積めない。しょうがないからシェリーが中に入るとか、どう?」
「何で俺!?サイズ的にはモーネでしょ!!」
2人が場所を作ろうと四苦八苦している間に、ソルと友人は馬車のところまで来てルートと何やら話を始めたようだ。
会話の中身は聞こえないが、友人の方がルートに頭を下げて、ソルも慌ててそれに倣っている。やはり、途中まで乗せていって欲しいという話か……。
「この箱、こっち向きにしてみたらどう?」
「いいね。これでシェリーが、入りやすくなった」
「だから、何で俺!?」
外を見ると、ルートが何かを考えるような顔で顎に指を当てている。恐らく、馬車が手狭なことが気になっているのだろう。
だが、2人の健闘により、籠にはもう1人座れるくらいのスペースができた。誰か2人は積み上がった箱を押さえ、あとの2人は箱の中に足を下ろすことになりそうだが、そのくらいは仕方がない。
「俺、あと1人乗れるよって、ルートさんに言ってくる!」
シェリーがポンと外に飛び降りた時。
「よっしゃ、分かりました。そういうことなら、あっしにお任せくだせえ」
風に乗って、ルートの声が聞こえてきた。
その後は籠の扉が閉まったので分からないが、小窓からはルートが「任せておけ」というように自分の胸を叩く姿と、更に近付いて行ったシェリーにソルが話しかけているのが見える。どうやら、友人を紹介しているようだ。
(しまった……僕が知らせに行ってれば、僕が先に紹介してもらえたのに……)
しかし、ソルの友人に挨拶をされた瞬間、シェリーの顔が曇った。彼にしては珍しいことだ。
二言、三言、言葉を交わすシェリーの顔はどんどん俯きがちになる。それを見ていたルートが、気遣うようにその場を離れてこちらへやって来た。
「モーネさ……っと、こりゃあまた、芸術的な箱の積み方で!」
「あの人も途中まで乗ってくんでしょ?頑張って、場所を空けたんだけど」
「いや、あの方は多分、馬車にはお乗りにならねえかと……しかし、それで場所を空けておあげになる、モーネさんはお優しい方でさあ」
思わぬ褒め言葉に、俄然、モーネのテンションが上がる。
「ありがとう!あの、僕だけじゃなくて。シェリーも頑張ってたよ!」
そのシェリーを、場所に困って箱に詰めようとしたことはナイショだ。
「坊ちゃんも……本当に優しく賢く育って下さって……。ルートは嬉しゅうごぜえやす」
ルートは大袈裟にも一瞬、声を詰まらせて、小さく鼻を啜った。
「モーネさん、これからも坊ちゃんのことをよろしくお願いします。どうか末永く、お友達でいてあげてくだせえ」
「え?あ、はい。こちらこそ……?」
「それで、明日なんですがね、モーネさん。どうもソルさんが、ご用事があるらしくて、帰りが遅くなるんだそうです」
「え?ソルが?」
「へえ。それで、ソルさんはお1人で乗合馬車で帰られると仰られたんですが、それは、あっしが心配でして……それでですね。実は、あっしは旦那様のお言いつけもありまして、皆さんをお送りがてら、その時、町で流行っているもんについても調べておるんですが、中で幾つか懇意にしてもらってるお茶飲み場があるんでごぜえやすよ」
「お茶飲み場?」
「そう。サロンという程、気取っちゃいねえ。平民でもちょっと腰掛けてお茶を飲んだり、あとは軽く食事もできる場所でさあね。村では食べられねえような珍しいもんもありますし、主人も気の良い男でさあ。モーネさん、明日は坊ちゃんと一緒に、そこでお茶でも飲みながら、ソルさんを待ちませんかい?勿論、ルートもどこかに馬車を停めて、近くにおりますんで」
「それは……勿論、いいけど……」
(ソルの用事って何だろう……)
外に目をやると、シェリーが下を向いたまま、こちらに向かって歩いてくるところだった。その後ろで、ソルが友人に手を振って別れを告げている。
籠の近くまで歩いて来たシェリーに、ルートは優しく場所を譲りながら。
「坊ちゃん、今、モーネさんにもお話してたんでごぜえやす。明日は、ソルさんが放課後、用事がおありとのことで、モーネさんと坊ちゃんを前にお話したことのあるお茶飲み場にお連れしまさあ。そこでソルさんを待って、またいつもの時刻頃に村に帰ることにいたしやしょう。いかがですかい?」
「いいね。何か、美味しくて、珍しい物が食べられるんでしょう」
「へえ。旦那様とフォードさんにはルートから話します。お金のことも心配なさらねえで下せえ」
「分かった。ありがとう、ルートさん」
腰をかがめながら籠に乗り込んでくるシェリーは、どこか心ここにあらずだ。一体、何があったのだろう。
その後から入ってきたソルは、中を一目見るなり。
「すご!木箱がブロックゲーム……」
「……ねえ、ソル。明日、何か用事があるって……何なの?」
ソルはチラリと後ろを振り返って、ルートが御者台に向かっているのを確認すると。
「デート」
「えっ!」
「……だと、ルートさんは思ってる」
「え、何それ。どういうこと?」
思わず眉をひそめながら、聞いてしまう。ルートが思ってる、ということは、思ってるだけで、実際は違うの?
「デートではない。女の子も来るけど、1対1じゃないし、男もたくさん来る」
「何なの?何の話?」
「お茶会」
ソルは話に加わらず、ぼんやりと座っているシェリーに心配の目を向けながら答えた。
「お茶会。クラスの人達と、お茶を飲みに行ってくる」
同じように生徒を乗せた馬車達が次々と走り去っていくのを籠の中から眺めていると。
「あれっ?あれ、ソル兄……だけど……」
「何か……誰か一緒?」
こちらに向かって歩いてくるソルの隣りには、同じように高等部の制服を着た男子生徒がいる。友達だろうか。
「もしかしたら、途中まで一緒に乗せていって欲しいとか言うのかも。モーネ、そっち詰められる?」
「待って。この空き箱を積み上げれば、大丈夫だと思う」
ルートは子供達を学校へ送ると、そのまま周辺の町へ行って、村で採れた作物を売ったり、村では手に入らない品物を買ってきたりしている。作物は麻袋で持っていくこともあれば、今日みたいに木箱の日もあり、そういう日は籠の中が手狭だ。
「うーん、あと1個、積めない。しょうがないからシェリーが中に入るとか、どう?」
「何で俺!?サイズ的にはモーネでしょ!!」
2人が場所を作ろうと四苦八苦している間に、ソルと友人は馬車のところまで来てルートと何やら話を始めたようだ。
会話の中身は聞こえないが、友人の方がルートに頭を下げて、ソルも慌ててそれに倣っている。やはり、途中まで乗せていって欲しいという話か……。
「この箱、こっち向きにしてみたらどう?」
「いいね。これでシェリーが、入りやすくなった」
「だから、何で俺!?」
外を見ると、ルートが何かを考えるような顔で顎に指を当てている。恐らく、馬車が手狭なことが気になっているのだろう。
だが、2人の健闘により、籠にはもう1人座れるくらいのスペースができた。誰か2人は積み上がった箱を押さえ、あとの2人は箱の中に足を下ろすことになりそうだが、そのくらいは仕方がない。
「俺、あと1人乗れるよって、ルートさんに言ってくる!」
シェリーがポンと外に飛び降りた時。
「よっしゃ、分かりました。そういうことなら、あっしにお任せくだせえ」
風に乗って、ルートの声が聞こえてきた。
その後は籠の扉が閉まったので分からないが、小窓からはルートが「任せておけ」というように自分の胸を叩く姿と、更に近付いて行ったシェリーにソルが話しかけているのが見える。どうやら、友人を紹介しているようだ。
(しまった……僕が知らせに行ってれば、僕が先に紹介してもらえたのに……)
しかし、ソルの友人に挨拶をされた瞬間、シェリーの顔が曇った。彼にしては珍しいことだ。
二言、三言、言葉を交わすシェリーの顔はどんどん俯きがちになる。それを見ていたルートが、気遣うようにその場を離れてこちらへやって来た。
「モーネさ……っと、こりゃあまた、芸術的な箱の積み方で!」
「あの人も途中まで乗ってくんでしょ?頑張って、場所を空けたんだけど」
「いや、あの方は多分、馬車にはお乗りにならねえかと……しかし、それで場所を空けておあげになる、モーネさんはお優しい方でさあ」
思わぬ褒め言葉に、俄然、モーネのテンションが上がる。
「ありがとう!あの、僕だけじゃなくて。シェリーも頑張ってたよ!」
そのシェリーを、場所に困って箱に詰めようとしたことはナイショだ。
「坊ちゃんも……本当に優しく賢く育って下さって……。ルートは嬉しゅうごぜえやす」
ルートは大袈裟にも一瞬、声を詰まらせて、小さく鼻を啜った。
「モーネさん、これからも坊ちゃんのことをよろしくお願いします。どうか末永く、お友達でいてあげてくだせえ」
「え?あ、はい。こちらこそ……?」
「それで、明日なんですがね、モーネさん。どうもソルさんが、ご用事があるらしくて、帰りが遅くなるんだそうです」
「え?ソルが?」
「へえ。それで、ソルさんはお1人で乗合馬車で帰られると仰られたんですが、それは、あっしが心配でして……それでですね。実は、あっしは旦那様のお言いつけもありまして、皆さんをお送りがてら、その時、町で流行っているもんについても調べておるんですが、中で幾つか懇意にしてもらってるお茶飲み場があるんでごぜえやすよ」
「お茶飲み場?」
「そう。サロンという程、気取っちゃいねえ。平民でもちょっと腰掛けてお茶を飲んだり、あとは軽く食事もできる場所でさあね。村では食べられねえような珍しいもんもありますし、主人も気の良い男でさあ。モーネさん、明日は坊ちゃんと一緒に、そこでお茶でも飲みながら、ソルさんを待ちませんかい?勿論、ルートもどこかに馬車を停めて、近くにおりますんで」
「それは……勿論、いいけど……」
(ソルの用事って何だろう……)
外に目をやると、シェリーが下を向いたまま、こちらに向かって歩いてくるところだった。その後ろで、ソルが友人に手を振って別れを告げている。
籠の近くまで歩いて来たシェリーに、ルートは優しく場所を譲りながら。
「坊ちゃん、今、モーネさんにもお話してたんでごぜえやす。明日は、ソルさんが放課後、用事がおありとのことで、モーネさんと坊ちゃんを前にお話したことのあるお茶飲み場にお連れしまさあ。そこでソルさんを待って、またいつもの時刻頃に村に帰ることにいたしやしょう。いかがですかい?」
「いいね。何か、美味しくて、珍しい物が食べられるんでしょう」
「へえ。旦那様とフォードさんにはルートから話します。お金のことも心配なさらねえで下せえ」
「分かった。ありがとう、ルートさん」
腰をかがめながら籠に乗り込んでくるシェリーは、どこか心ここにあらずだ。一体、何があったのだろう。
その後から入ってきたソルは、中を一目見るなり。
「すご!木箱がブロックゲーム……」
「……ねえ、ソル。明日、何か用事があるって……何なの?」
ソルはチラリと後ろを振り返って、ルートが御者台に向かっているのを確認すると。
「デート」
「えっ!」
「……だと、ルートさんは思ってる」
「え、何それ。どういうこと?」
思わず眉をひそめながら、聞いてしまう。ルートが思ってる、ということは、思ってるだけで、実際は違うの?
「デートではない。女の子も来るけど、1対1じゃないし、男もたくさん来る」
「何なの?何の話?」
「お茶会」
ソルは話に加わらず、ぼんやりと座っているシェリーに心配の目を向けながら答えた。
「お茶会。クラスの人達と、お茶を飲みに行ってくる」
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