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第1部 学校~始まり
その後……新たな序章【第1部 了】
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「ソルー!シェリーから手紙!やっと来たよー!!」
「やっとー?あいつ、向こうに行ってから、今まで何の連絡も寄越さないの、何なんだよ。ティファールの方は、着いてすぐ手紙くれたのに」
「まあまあ、何か郵便の事情で遅れたのかもしれないよ?或いは、慣れないところで落ち着くまで時間がかかったとかさ」
ソルが文句を言うのは、心配していた気持ちの裏返し。
季節が春から秋に代わり、元々予定されていた留学が早まったというシェリーは、どうにか準備を間に合わせて、慌ただしく出発して行った。
しかし、それきり何の連絡もなく、ようやく最初の手紙が届いたのがその2ヶ月後だというのだから、これはもう心配にならない方がおかしい。ちなみに、その間、実家であるマグワルトの家にも一報の連絡もなしだ。
いち早くソルに手紙を寄越したティファールの『一緒に来たシェリー君も元気です』という一文で、村中がかろうじて落ち着いていられたが、それでも本人から連絡がないことは村をあげての懸案事項だった。
「シェリー、あいつ、何だって?」
「待ってね。えーっと……
『モーネ、ソル兄。お元気ですか?
すぐ手紙を出せなくてごめんなさい。1週間前、留学先の学校の寮に着きました。
こちらはまだ暑くて、まるで夏みたいです』
……ん?」
思わず顔を見合わせた2人が、揃って外を見ると、そこには木枯らしで葉が全て飛ばされた立ち枯れの木々たち。
「待って。これ、もしかして2ヶ月前に書かれてる?」
「うっそ、ヴィルデ村の郵便事情って、そんなに悪かったの!?」
「いや、ティファール先輩の手紙はもっと早く届いてる訳だし……取り敢えず、先を読もう」
『寮は学校のすぐ側にあって、終業後から門限までは外出自由です。
なので、寄り道禁止だったクレイドルよりは規則が緩いかもしれない。
今は、同じクレイドルから来たティファール先輩が一緒に行動してくれて、心強いです。
あと、国境が近いせいか、変わった風習とか食べ物とか色々あるみたい。
また分かったら、知らせます!』
「うわあー、放課後、自由なんだー!!羨ましい~」
「……ソルは今、結構自由にやってるじゃん。明日もユザーン先輩とお茶飲みに行くんでしょ?」
「あ……うん。だって、先輩が学校にいるうちに、色々聞いておきたいことあるし……」
「分かってる。別に責めてないよ。ちゃんと、いつものお茶飲み場で待ってるから」
最近、ソルは放課後にユザーンから誘われることが増えた。
行先はいつも豪奢なサロンで、誘われる側のソルの立場を気遣ってか、大抵個室や貸し切りだ。
ソルもモーネとルートに気を遣って、3回に2回は断っているようだが、その残りの1回がこの頻度かと思う程に、ユザーンからのお誘いは多い。
――でも、大丈夫。こっちにも強力な味方ができたから。
それは、ルートが懇意にしているお茶飲み場の主人。
シェリーが不在の今、ソルとモーネだけのためにマグワルト氏の馬車を出してもらうのは悪いのではないか……とフォードは心配したが、マグワルト氏は「村の収穫物を売りに行く場所をもっと広げるので問題ない」と、送り迎えを続けてくれることになった。
ただ、それでルートの仕事は増えたため、2人はお茶飲み場で彼を待つことが増えたのだ。
ソルがいない時は、モーネ1人で。
ある時、モーネが1人でテーブルに着き宿題をしていると、主人がちょっと楽しそうな顔で話しかけてきた。
『モーネ君、もしかしてソル君のこと好きでしょ?』
今まで誰にも、シェリーにさえも指摘されたことはなかったので、モーネは焦ったが。
『安心して。僕の恋人も男だから……何となく君の気持ち分かるよ?』
以来、お茶飲み場の主人――ロッタさんとモーネは、他のお客さんがいない時にはお互い恋バナを繰り広げる仲となった。
現在28歳だというロッタさんは、大人の観点からモーネに色々アドバイスをくれて。
『あの、ユザーンさん?よくソル君を誘ってくる、あの人のことは焦っちゃ駄目だよ。今はまだ動く時じゃないからね』
――今は、まだ動く時じゃない。でも絶対に動く時がくるから、その時は躊躇しちゃいけない。全力でいく……。
「モーネ?手紙……シェリーの手紙、続きは何て?」
「あ、ごめん。……読むね?」
その時、階下からフォードのソルを呼ぶ声が聞こえた。
「ソルー、薬の相談だよ。産婆のヨロイさんで、腰が痛いのでソルに薬を作ってもらいたいそうだ」
「分かったー。今、行く!……ごめん、モーネ。続きはまた、後で」
「うん。頑張ってね」
急いで部屋を出て行くソルの後ろで、パタンとドアが閉まる。
最近フォードは、気のおけない人たちが何か不調を感じた時には、まずソルに相談を回すようになった。勿論、後で話は聞いているようだが、基本的にはソルの考えた通り薬草を調合しているらしい。
ソルがユザーンの話を聞きたがるのも、そういったことが影響しているのだろう。
――ソルは頑張ってるんだから……もっと、自分を信じて欲しいのに……。
気を取り直して、手紙の続きを読む。
シェリーとティファールは相性が良いようで、寮の部屋も同室になったが仲良くやっているという内容が、軽く綴られている。
それを良かったと思いながら読んでいると。
『町のはずれには、サスイル皇国との国境があります。
森になってるんだけど、そのサスイル皇国側の方にだけ魔獣がいるんだって。
魔獣って覚えてる?
幼年学校の時、マリフォルドではもう絶滅したって言われてたよね?
でもこっちの学校では、魔獣はまだちゃんといて、サスイル皇国の人たちが外に出さないように柵で囲っている
って。
自分たちのところだけで、こっちに来ないようにしてくれてるの、不思議だけど優しいところもあるんだなっ
て思いました。』
「魔獣……って、何だっけ?」
モーネが首を傾げた時。
「大変でさあ、フォードさん!今、町で聞いてきたんですが、国境の魔獣の柵が破られたって!近くの住民は避難しなきゃならねえようになっていて、それで郵便も遅れてるって話でさあ。それに、近く、この近辺の医師や薬師たちが、避難所の手伝いに駆り出されるお触れが出るって。旦那様が、すぐフォードさんに知らせて来いって……」
【第1部 了】
→第2部 魔獣 避難所編へ続く
「やっとー?あいつ、向こうに行ってから、今まで何の連絡も寄越さないの、何なんだよ。ティファールの方は、着いてすぐ手紙くれたのに」
「まあまあ、何か郵便の事情で遅れたのかもしれないよ?或いは、慣れないところで落ち着くまで時間がかかったとかさ」
ソルが文句を言うのは、心配していた気持ちの裏返し。
季節が春から秋に代わり、元々予定されていた留学が早まったというシェリーは、どうにか準備を間に合わせて、慌ただしく出発して行った。
しかし、それきり何の連絡もなく、ようやく最初の手紙が届いたのがその2ヶ月後だというのだから、これはもう心配にならない方がおかしい。ちなみに、その間、実家であるマグワルトの家にも一報の連絡もなしだ。
いち早くソルに手紙を寄越したティファールの『一緒に来たシェリー君も元気です』という一文で、村中がかろうじて落ち着いていられたが、それでも本人から連絡がないことは村をあげての懸案事項だった。
「シェリー、あいつ、何だって?」
「待ってね。えーっと……
『モーネ、ソル兄。お元気ですか?
すぐ手紙を出せなくてごめんなさい。1週間前、留学先の学校の寮に着きました。
こちらはまだ暑くて、まるで夏みたいです』
……ん?」
思わず顔を見合わせた2人が、揃って外を見ると、そこには木枯らしで葉が全て飛ばされた立ち枯れの木々たち。
「待って。これ、もしかして2ヶ月前に書かれてる?」
「うっそ、ヴィルデ村の郵便事情って、そんなに悪かったの!?」
「いや、ティファール先輩の手紙はもっと早く届いてる訳だし……取り敢えず、先を読もう」
『寮は学校のすぐ側にあって、終業後から門限までは外出自由です。
なので、寄り道禁止だったクレイドルよりは規則が緩いかもしれない。
今は、同じクレイドルから来たティファール先輩が一緒に行動してくれて、心強いです。
あと、国境が近いせいか、変わった風習とか食べ物とか色々あるみたい。
また分かったら、知らせます!』
「うわあー、放課後、自由なんだー!!羨ましい~」
「……ソルは今、結構自由にやってるじゃん。明日もユザーン先輩とお茶飲みに行くんでしょ?」
「あ……うん。だって、先輩が学校にいるうちに、色々聞いておきたいことあるし……」
「分かってる。別に責めてないよ。ちゃんと、いつものお茶飲み場で待ってるから」
最近、ソルは放課後にユザーンから誘われることが増えた。
行先はいつも豪奢なサロンで、誘われる側のソルの立場を気遣ってか、大抵個室や貸し切りだ。
ソルもモーネとルートに気を遣って、3回に2回は断っているようだが、その残りの1回がこの頻度かと思う程に、ユザーンからのお誘いは多い。
――でも、大丈夫。こっちにも強力な味方ができたから。
それは、ルートが懇意にしているお茶飲み場の主人。
シェリーが不在の今、ソルとモーネだけのためにマグワルト氏の馬車を出してもらうのは悪いのではないか……とフォードは心配したが、マグワルト氏は「村の収穫物を売りに行く場所をもっと広げるので問題ない」と、送り迎えを続けてくれることになった。
ただ、それでルートの仕事は増えたため、2人はお茶飲み場で彼を待つことが増えたのだ。
ソルがいない時は、モーネ1人で。
ある時、モーネが1人でテーブルに着き宿題をしていると、主人がちょっと楽しそうな顔で話しかけてきた。
『モーネ君、もしかしてソル君のこと好きでしょ?』
今まで誰にも、シェリーにさえも指摘されたことはなかったので、モーネは焦ったが。
『安心して。僕の恋人も男だから……何となく君の気持ち分かるよ?』
以来、お茶飲み場の主人――ロッタさんとモーネは、他のお客さんがいない時にはお互い恋バナを繰り広げる仲となった。
現在28歳だというロッタさんは、大人の観点からモーネに色々アドバイスをくれて。
『あの、ユザーンさん?よくソル君を誘ってくる、あの人のことは焦っちゃ駄目だよ。今はまだ動く時じゃないからね』
――今は、まだ動く時じゃない。でも絶対に動く時がくるから、その時は躊躇しちゃいけない。全力でいく……。
「モーネ?手紙……シェリーの手紙、続きは何て?」
「あ、ごめん。……読むね?」
その時、階下からフォードのソルを呼ぶ声が聞こえた。
「ソルー、薬の相談だよ。産婆のヨロイさんで、腰が痛いのでソルに薬を作ってもらいたいそうだ」
「分かったー。今、行く!……ごめん、モーネ。続きはまた、後で」
「うん。頑張ってね」
急いで部屋を出て行くソルの後ろで、パタンとドアが閉まる。
最近フォードは、気のおけない人たちが何か不調を感じた時には、まずソルに相談を回すようになった。勿論、後で話は聞いているようだが、基本的にはソルの考えた通り薬草を調合しているらしい。
ソルがユザーンの話を聞きたがるのも、そういったことが影響しているのだろう。
――ソルは頑張ってるんだから……もっと、自分を信じて欲しいのに……。
気を取り直して、手紙の続きを読む。
シェリーとティファールは相性が良いようで、寮の部屋も同室になったが仲良くやっているという内容が、軽く綴られている。
それを良かったと思いながら読んでいると。
『町のはずれには、サスイル皇国との国境があります。
森になってるんだけど、そのサスイル皇国側の方にだけ魔獣がいるんだって。
魔獣って覚えてる?
幼年学校の時、マリフォルドではもう絶滅したって言われてたよね?
でもこっちの学校では、魔獣はまだちゃんといて、サスイル皇国の人たちが外に出さないように柵で囲っている
って。
自分たちのところだけで、こっちに来ないようにしてくれてるの、不思議だけど優しいところもあるんだなっ
て思いました。』
「魔獣……って、何だっけ?」
モーネが首を傾げた時。
「大変でさあ、フォードさん!今、町で聞いてきたんですが、国境の魔獣の柵が破られたって!近くの住民は避難しなきゃならねえようになっていて、それで郵便も遅れてるって話でさあ。それに、近く、この近辺の医師や薬師たちが、避難所の手伝いに駆り出されるお触れが出るって。旦那様が、すぐフォードさんに知らせて来いって……」
【第1部 了】
→第2部 魔獣 避難所編へ続く
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