薬師の薬も、さじ加減

ミリ

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第2部 魔獣 救護所編

セイコー先生の愛弟子達

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 テーブルにかじりついて必死に手紙を書く少年2人。
 その姿を横目に見ながら、大人2人はまた別の話をしていた。タローがここに来た本来の理由、救護所の話だ。
 魔獣の侵攻は柵が修理されるまでは収まる様子がないこと、怪我人は増える一方で、どうにも人手が足りないこと。

「……国も応援を募ってくれてはいるんだが、いかんせん来てくれる人がいなくてな……」

「そりゃあ医師や薬師達もそうだが、普通にここまで来る足もねえんじゃねえか?こう魔獣が暴れ回ってちゃあ、個人馬車も乗合馬車も怖くて車を出せねえだろう」

「そうだろうな。理屈としては俺も分かるし、皆も分かってる。それでも、町を守ろうとして傷を負った人達を捨て置くことはできないだろう。その人だって同じ事情の中、怖いのを我慢して来てくれたんだ」

「まあ、そうだな」

 レッディが顎に手をやって頷いた。
 そうして、そのまま目線を床に落とすと、しばらく無言で何かを考え始める。タローは黙って、彼が再び口を開くのを待った。
 長いような、それでも実際にはほんの少しなのかもしれない、沈黙の時間が終わった時。

「……30年てのは、長えな」

 レッディが笑いながら、タローの肩を叩いた。

「俺は、もう1度お前に会ったら言ってやろうと思っていた文句が山ほどあったんだよ。でも、あんまりにも長い間とって置きすぎて、何だかどうでも良くなっちまった」

「……お前がそういう奴だってことは分かってたよ」

 肩を叩いてくる手を取って握りしめながら、タローも空いた方の手で負けずに相手の肩を叩く。
 今度はレッディが空いた方の手で、軽く相手を殴る真似をして。

「ただ、出かける前に、お前に見せたいもんがあるんだよ。青光石って、隣のサスイル皇国でよく採れる石なんだけど……」

 途端に、手紙を書いていた少年達が弾かれたように顔を上げた。

「レッディさん、今、青光石って言いました!?」

「それって、あの皇国で癒やしの力を使う人達の、青光石のことですか!?」

「おうよ。お前ら、よく知ってるな」

 2人は同時に顔を見合わせて。

「見たい!それ、僕たちも見たいです!!」

「僕も!あっ、でも、僕、足が……」

「いいよ、俺がおぶってく。……レッディさん、僕たちの学校に青光石の研究をしている先生がいます。すごく良い先生で、僕たちは2人ともその先生のことが大好きなんです。その先生が、まだ本物の青光石を見たことがないって。僕達も見たいし、その先生にも見せてあげたい。もし可能なら、1つだけ分けてもらうことってできませんか?」

 ティファールの言葉に、横に座ったシェリーもブンブンと首を縦に振っている。
 レッディはそりゃあ構わねえが……と頷いたが。

「でも、よく言われているような光ってるやつを持ち帰ることはできないぜ?」

「どうして?皇国に怒られるからですか?」

「まあ見つかれば、やいやい言われるかもしれねえけど、今んところ奴らに見つかるような場所じゃあないから、そこは良いとして。光を失っちまうんだよ。人が触ると」

 レッディは立ち上がると、窓際に置かれた小さな石ころを持って戻ってきた。

「少年ども、それからタローも、これが青光石だ。見つけた時には、遠くからでも分かるくらい青くキラキラ光ってた。でも、俺が拾った途端に、こんなただの石ころみたいになっちまう。何回やっても、こうなんだ」

 テーブルに置かれた石は、形も大きさも、どこからどう見ても道端に落ちている“石ころ”だ。それが写真だけでセイコー先生を虜にするほどの魅力を持つ貴石とは、到底思えない。

「俺も、これを使えるようになれば、もしかしたらヒーセントとはいかなくても、皇国の癒やし手達と同じことができるようになるんじゃないか、なんて考えたりしたんだけどなあ」

「……レッディさん、これ、いつ頃、見つけたんですか?」

 ティファールが、石に鼻先が触れそうな程に顔を近づけながら尋ねた。

「僕、さっきの先生から、青光石は種で増えると教わりました。この石が落ちていた近くに、種らしきものはありましたか?」

「いやあ、種って言われても……これ、石だろ?俺も、青光石がどういう経緯でできるかは知らんが、石は種じゃあ増えねえだろう」

「レッディさん、僕も知りたい。これ、見つけたのは?大体、いつ頃のことですか?」

「ええ?見つけたのはつい最近だけど、はっきりいつだったかってのは……まあ大体2週間前くらいかなあ。本当にそれまで何もなかった場所が急に青く光り出して、それで何だろうと思って近寄ってみたら、この青光石がたくさん落ちてたんだよ。ほんと、それまで何度も行ったことある場所だったんだけどな。突然、何が起こったんだか」

「2週間前……魔獣が入ってきたのよりは後?」

「うん。魔獣が直接持って来たって訳ではなさそう……」

 真面目な顔をして考え込む少年2人に、レッディは「分かった、分かった」と両手を広げた。

「お前ら、今からその場所に連れてってやるよ。タローも一緒に来い。で、タローはそのまま、救護所の方に帰っててくれ。俺も準備を整えたら、後を追いかける。これでも医師のはしくれだからな。お前の救護所、手伝ってやるよ」
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