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第2部 魔獣 救護所編
男子3日会わざれば
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「ソル!!お帰り!」
「え、誰?」
冗談ではない。ソルは真顔で呟いてしまった。
だって、こんな長身で足が長くて、笑うとキラキラって効果音がつきそうな爽やか好青年なんて知らない。顔だって顎とか頬の辺りがシュッとしてまるでタイムリープしたみたいに大人びているし、声や髪はモーネに似てる気がするけど、絶対違う。別人だ。
「えっ、今のソルがそれ言う?別人はお互い様なんだけど!」
「別人の自覚あるんだ。なら話は早い。さっさと本人に戻れ」
「理不尽!ソルの薬を飲んでたら、こうなったんだよ!?」
少し離れた場所では、木箱に座ったままのシェリーが腹を抱えて笑っている。恐らく、同じような会話が一通りあったのだろう。来るぞと思って見ていたら、やっぱり来たという感じだ。
――ていうか、これをすんなり受け入れたって、シェリーもすご過ぎでしょ……。
自分はこの一瞬の間に異世界へ転生したんじゃないかと思っている。割と本気で。
「あの……えっと、ソル君の知り合いの方かな?」
ソルの隣りで一緒に立ち止まっていたアリドネが、遠慮がちに尋ねてきた。
「私、アリドネといいます。この救護所で医師をしているのですが……」
「あっ、挨拶が遅れてすみません。ソルの弟でモーネと申します。兄がお世話になっております」
「こちらこそ……って、えっ、ソル君“の”弟さん?逆じゃなくて?」
「そうなりますよねー。でも、村にいた時はちゃんとソル兄がお兄さんに見えてたんですよー」
シェリーの茶々に、アリドネが「へえ、そうなんだー」と相槌を打つ。モーネは人好きのする笑顔でただニコニコ笑っていて、アリドネの「今、何歳?」という質問に「15歳です」「えー、見えなーい」「僕と同じ年ですよ?」「えー、私もしかしてかつがれてる?」なんて。
いつか、手紙に感じた違和感の正体が分かった。ほんの1ヶ月会わない間に、モーネは外見、そして物腰や対応も大人になっていたのだ。それは1ヶ月でこうも変わるか?というくらいに。
「……ソル、大丈夫?」
ふっと顔を覗き込まれた。
「診察に行ってきたんでしょ?疲れた?」
「別に……大丈夫」
ただ、予想もしていなかった状況に頭も心も追いついてくれない。皆は普通に喋っているだけなのに、置いてかれている感がすさまじい。
「ていうか、何しに来たの?」
――違う、こんなぶっきらぼうな聞き方するつもりじゃなかったのに。
今、目の前にいる“モーネ”が悪いなんて、少しも思っていない。自分の作った薬で本来の“モーネ”を取り戻しつつあるなら、すごく良かったと思う。
ただ、突然過ぎて。戸惑っているだけで。
「……突然だもんね。すごい久しぶりだし、2人で話したらいいよ。……モーネもそうしたそうだし」
シェリーが杖を使って、木箱から立ち上がった。アリドネも「暗くなると魔獣が出たりするから気を付けてね」と言い残してテントへと戻っていく。
そしてモーネは。
「座ろ、ソル」
それまでシェリーの座っていた木箱へと、ソルを誘った。
***
「ソルが、薬草が欲しいって手紙くれたじゃない?それでルートさんが運んでくるのに、荷物持ちで僕がついてきたの」
「ルートさんは?」
「中にいるよ。本当はもっと早く着いて今日中に帰る予定だったけど、今日は魔獣の侵攻が2回もあったんだってね。それで道が止まってて、回り道したら遅くなっちゃった。そしたら救護所の人達が、夜は危ないから一晩泊まってけって。皆さん、親切だね」
「そう、本当にいい人たちばっかり。すごく、よくしてもらってる」
良かった、とモーネが笑った。ソルも優しいから、皆もソルに優しくしたくなるんだね、なんて。そんな言葉、いつから言えるようになったの?急に大人になって、しかもそんな整った顔で甘いこと言われたら、女の子なら絶対に落ちちゃう……。
「……あとね、シェリーが『今のソル兄に会わずに帰るのは勿体ないよ』って。……こういうことだったんだね」
もっとよく見せて……モーネの声にわずかに照れが混じる。
そうして、じーっと見つめてきて。そのくせ目が合うと、ドギマギした様子で下を向いて。よく耳を澄ましてみるとその口からは「すごい……ほんもの……くろかみびしょうじょ、くろかみびしょうじょ、くろかみびしょうじょ、……」何かの呪文か?
首を傾げていると、それに気付いたのかモーネの顔がバッと起こされて。
「ソルっ!か、か……かわ……」
――えっ、なになに。もしかして可愛いとか言うつもり?
そう思った瞬間、心臓がギュッとした。それはもう、1秒だって耐えられないくらいに。
――違う、これは違う!男なのに女装した姿を『可愛い』とか言われるのが、しかも弟に言われるのが恥ずかしくて耐えられないだけ!!
もう、こんな情緒になった自分が恥ずかし過ぎる。せめて目を見られないよう、顔をプイと横に向けて。
「な、何だよ。そんな見下ろしてくんなよ」
「……!!!!」
モーネが固まった。その口から微かに「こ……そ……なか……たら、わ……おと……つ……ぞ」
「え?何?モーネ、聞こえない……」
「全部、ソルが悪い!ソルが、そんな可愛いかっこしてるから悪いんだよ!」
頬にふわりと手が添えられた。
何事かと思いモーネの方へと向き直ると、そのまま頬を支えられた状態で顔が近付いてきて。
――え、なに……。
唇が重なった。ただ自然に、そこに落ちてくるみたいに。
「ソルが悪いの。全部、ソルのせい」
小さく囁く声は甘くて、でもどこか許しを乞うているようにも聞こえる。――そうだ、綺麗な服と化粧で“女の子”になっていても、自分は男なんだから。
――こんなの、おかしいんだ。
「……ごめん」
唇が離れて、代わりにぎゅっと抱きしめられる。でも、それはもう魔法が解けてしまったみたいに、何の気持ちも感じなくて……。
「離せよ」
腕をほどこうと身体をよじると、より一層力を込めて抱きしめられた。
それに苛立って。
「モーネ!止め……」
「黙って!……動かないで」
何か来てる。
耳元でそうささやかれた瞬間、モーネの後ろでカサリと落ち葉の鳴る音がした。
「え、誰?」
冗談ではない。ソルは真顔で呟いてしまった。
だって、こんな長身で足が長くて、笑うとキラキラって効果音がつきそうな爽やか好青年なんて知らない。顔だって顎とか頬の辺りがシュッとしてまるでタイムリープしたみたいに大人びているし、声や髪はモーネに似てる気がするけど、絶対違う。別人だ。
「えっ、今のソルがそれ言う?別人はお互い様なんだけど!」
「別人の自覚あるんだ。なら話は早い。さっさと本人に戻れ」
「理不尽!ソルの薬を飲んでたら、こうなったんだよ!?」
少し離れた場所では、木箱に座ったままのシェリーが腹を抱えて笑っている。恐らく、同じような会話が一通りあったのだろう。来るぞと思って見ていたら、やっぱり来たという感じだ。
――ていうか、これをすんなり受け入れたって、シェリーもすご過ぎでしょ……。
自分はこの一瞬の間に異世界へ転生したんじゃないかと思っている。割と本気で。
「あの……えっと、ソル君の知り合いの方かな?」
ソルの隣りで一緒に立ち止まっていたアリドネが、遠慮がちに尋ねてきた。
「私、アリドネといいます。この救護所で医師をしているのですが……」
「あっ、挨拶が遅れてすみません。ソルの弟でモーネと申します。兄がお世話になっております」
「こちらこそ……って、えっ、ソル君“の”弟さん?逆じゃなくて?」
「そうなりますよねー。でも、村にいた時はちゃんとソル兄がお兄さんに見えてたんですよー」
シェリーの茶々に、アリドネが「へえ、そうなんだー」と相槌を打つ。モーネは人好きのする笑顔でただニコニコ笑っていて、アリドネの「今、何歳?」という質問に「15歳です」「えー、見えなーい」「僕と同じ年ですよ?」「えー、私もしかしてかつがれてる?」なんて。
いつか、手紙に感じた違和感の正体が分かった。ほんの1ヶ月会わない間に、モーネは外見、そして物腰や対応も大人になっていたのだ。それは1ヶ月でこうも変わるか?というくらいに。
「……ソル、大丈夫?」
ふっと顔を覗き込まれた。
「診察に行ってきたんでしょ?疲れた?」
「別に……大丈夫」
ただ、予想もしていなかった状況に頭も心も追いついてくれない。皆は普通に喋っているだけなのに、置いてかれている感がすさまじい。
「ていうか、何しに来たの?」
――違う、こんなぶっきらぼうな聞き方するつもりじゃなかったのに。
今、目の前にいる“モーネ”が悪いなんて、少しも思っていない。自分の作った薬で本来の“モーネ”を取り戻しつつあるなら、すごく良かったと思う。
ただ、突然過ぎて。戸惑っているだけで。
「……突然だもんね。すごい久しぶりだし、2人で話したらいいよ。……モーネもそうしたそうだし」
シェリーが杖を使って、木箱から立ち上がった。アリドネも「暗くなると魔獣が出たりするから気を付けてね」と言い残してテントへと戻っていく。
そしてモーネは。
「座ろ、ソル」
それまでシェリーの座っていた木箱へと、ソルを誘った。
***
「ソルが、薬草が欲しいって手紙くれたじゃない?それでルートさんが運んでくるのに、荷物持ちで僕がついてきたの」
「ルートさんは?」
「中にいるよ。本当はもっと早く着いて今日中に帰る予定だったけど、今日は魔獣の侵攻が2回もあったんだってね。それで道が止まってて、回り道したら遅くなっちゃった。そしたら救護所の人達が、夜は危ないから一晩泊まってけって。皆さん、親切だね」
「そう、本当にいい人たちばっかり。すごく、よくしてもらってる」
良かった、とモーネが笑った。ソルも優しいから、皆もソルに優しくしたくなるんだね、なんて。そんな言葉、いつから言えるようになったの?急に大人になって、しかもそんな整った顔で甘いこと言われたら、女の子なら絶対に落ちちゃう……。
「……あとね、シェリーが『今のソル兄に会わずに帰るのは勿体ないよ』って。……こういうことだったんだね」
もっとよく見せて……モーネの声にわずかに照れが混じる。
そうして、じーっと見つめてきて。そのくせ目が合うと、ドギマギした様子で下を向いて。よく耳を澄ましてみるとその口からは「すごい……ほんもの……くろかみびしょうじょ、くろかみびしょうじょ、くろかみびしょうじょ、……」何かの呪文か?
首を傾げていると、それに気付いたのかモーネの顔がバッと起こされて。
「ソルっ!か、か……かわ……」
――えっ、なになに。もしかして可愛いとか言うつもり?
そう思った瞬間、心臓がギュッとした。それはもう、1秒だって耐えられないくらいに。
――違う、これは違う!男なのに女装した姿を『可愛い』とか言われるのが、しかも弟に言われるのが恥ずかしくて耐えられないだけ!!
もう、こんな情緒になった自分が恥ずかし過ぎる。せめて目を見られないよう、顔をプイと横に向けて。
「な、何だよ。そんな見下ろしてくんなよ」
「……!!!!」
モーネが固まった。その口から微かに「こ……そ……なか……たら、わ……おと……つ……ぞ」
「え?何?モーネ、聞こえない……」
「全部、ソルが悪い!ソルが、そんな可愛いかっこしてるから悪いんだよ!」
頬にふわりと手が添えられた。
何事かと思いモーネの方へと向き直ると、そのまま頬を支えられた状態で顔が近付いてきて。
――え、なに……。
唇が重なった。ただ自然に、そこに落ちてくるみたいに。
「ソルが悪いの。全部、ソルのせい」
小さく囁く声は甘くて、でもどこか許しを乞うているようにも聞こえる。――そうだ、綺麗な服と化粧で“女の子”になっていても、自分は男なんだから。
――こんなの、おかしいんだ。
「……ごめん」
唇が離れて、代わりにぎゅっと抱きしめられる。でも、それはもう魔法が解けてしまったみたいに、何の気持ちも感じなくて……。
「離せよ」
腕をほどこうと身体をよじると、より一層力を込めて抱きしめられた。
それに苛立って。
「モーネ!止め……」
「黙って!……動かないで」
何か来てる。
耳元でそうささやかれた瞬間、モーネの後ろでカサリと落ち葉の鳴る音がした。
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