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第2部 魔獣 救護所編
変化
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「ソル!!!」
必死の形相でこちらへ向かって駆けてくる。
――あいつは一体、誰なんだ……?
***
「ソル兄、ソル兄!俺の声、聞こえる?」
「え……」
「良かった!ソル兄、目、覚ました!」
うっすらと目を開けた先には、泣き顔のシェリー。
何度かまばたきして辺りを見ると、ソルは救護所の患者フロアに寝かされていた。
「ごめんね!俺のために怪我させちゃって。ソル兄が庇ってくれなかったら、俺、死んでた……」
ポロポロと涙が降ってくる。小さい頃から一緒の、弟分の泣き顔を見るのは久しぶりだ。
「その分、ソル兄の傷ひどくて、そのうち毒も回り出しちゃって……もう1週間も眠ってたんだよ。俺、本当にソル兄死んじゃうんじゃないかって……」
「1週間!?大変!仕事は!!」
がバリと起き上がろうとした瞬間、背中に激痛が走る。それにシェリーが慌てて覆い被さりながら。
「駄目だよ!まだ傷、治りきってないし。毒もようやく抜けてきたところなんだから」
「でも、仕事が……」
「大丈夫。奥の、別の救護所から手伝いの人達が来てくれてるから」
言われてみれば、遠くにちらほら知らない顔が見える。
ただ、ソルの寝かされている場所は長い間目を覚ましていない人達のためのエリアで、近くにいるスタッフはシェリーだけだ。
「あれからね、この辺りもオオカミ型魔獣の狩り場としてインプットされちゃってるって、ルードヴィル辺境伯の早馬が王都に知らせに行ってくれたみたい。すぐに対策が取られて……今、この辺、皇国の人達が来てるんだよ」
「皇国の人が?何で?」
「向こうには、魔獣に言うことを聞かせる魔力を持った人達がいるらしくて……このまま柵が直っても、もう入って来ちゃった魔獣をどうにかしなきゃいけないじゃない?それで、羊飼いみたいに魔獣を操って皇国に返すために、そういう人達が来てくれたんだって」
――皇国の人達が入ってきた……。
マリフォルド王国での皇国に対する信頼は決して高くない。こちらのためにと差し出されるものにも、常に自分達の利益になる裏側が潜んでいるのではないか、と疑ってしまうくらいには。
「……一応、皇国の人達は普段からこの辺りに待機してて、夜は徹夜で番をしてくれてるみたい。おかげで、魔獣を見かけることもなくなったし、あと運ばれてくる人も少なくなった。サル型魔獣の侵攻も、その人達の声1つで止められるようになったから」
おかげで救護所の仕事も少し楽になったようだ。魔獣の出る危険性が減ったことで、元々こちらから移っていったスタッフ達も、手伝いに来てくれるようになったらしい。
手伝いに来たのに、こうして足を引っ張ることになってしまった。自分を責めるソルにとっては、せめてもの救いだ。
それで、少しだけ全身の力を抜いて、寝かされているマットに身を沈めて。
「……モーネは?帰ったの?」
「うん。最初は、ソルが目を覚ますまでついてるって頑張ってたんだけど……フォードさんが帰ってこいって……それで諦めて……」
「そう……」
側にいるような気がしていた。
それが思い過ごしだったことにがっかりしたような、逆にホッとしたような複雑な気持ちだ。
「……モーネ、すごかったね」
意識を失っているとはいえ、周りの人達の迷惑にならないように、シェリーの声はいつもより小さい。
「魔獣と互角に戦って、倒してた……ソル兄は、最初から見てたの?」
「うん……俺が魔獣の来てる気配に気付かなかったから、こんな大事になっちゃって……」
「誰もそんな風には思ってないよ。魔獣達は前からこの救護所をチェックしてた……その証拠に、目撃情報だって増えてたし。タロー先生なんかは、自分がもっと早く辺境伯に知らせるべきだったって悔やんでる。今回、ソル兄達が外にいなかったら、魔獣は突然テントを襲ってきて、俺達全員やられてただろうって」
「俺は何もしてない。全部、モーネのおかげ……」
ソルの複雑な口調に気付いたのだろう。シェリーも、どこか悲しそうな顔で座り込んだ足元に目を落とした。
「……ソル兄がやられてからのモーネ、益々すごかったよ。こっちに向かって走りながら、すごい大声で『動くなーーーーー!!!!!』って。その声に驚いた魔獣が、本当に動きを止めたの。そこに、目を狙ってナイフを一突き。一瞬だった……」
「そう……なんだ……」
「倒された魔獣はね、すぐに砂みたいにザーッて崩れちゃって、死体も残らなくて。モーネは、大事にしたくないから、自分が倒したって言わないでって。それもあって、救護所の人達もモーネに帰るように勧めたの。訓練された騎士でも苦戦するような魔獣を倒したって知られたら、絶対、国や辺境伯に戦闘要員として駆り出されちゃうからって」
「モーネが……戦闘要員……」
信じられないような話だ。
1ヶ月前までは、全然そんな風じゃなかったのに。
「……俺も、それを聞いて、帰れって言った。だって、モーネは全然そんなんじゃないから。今回はたまたま無事だったけど、戦闘要員になんてなったら、いつか怪我したり……やられちゃったりするかもしれない。そんなの嫌でしょ?」
シェリーの言いたいことは分かる。自分だって同じ気持ちだ。
――でも、モーネが今回、魔獣を倒したのは偶々じゃない。多分モーネは、“戦い方”を知ってる……。
どこで?どうやって知った?
自分と出会う前だって、モーネは8年しか生きていない。それであんな動きを教えられるなんて、よっぽどの環境でなきゃあり得ない。
しかも、自分と出会ってからのモーネは、その片鱗を1度だって見せたことはなかったのだ。
「……それにね、俺、前にモーネに将来はどうしたいのって聞いたことがあるの。そしたらモーネ、村に残りたいって言ってた。なのに本人の意向を無視して、無理矢理、他の場所に行かされるなんて可哀想過ぎる……」
「……おかしいと思わない?」
「え?」
シェリーが、不思議そうな顔でソルを見る。
その顔を見つめ返しながら。
「モーネが魔獣と戦えたの、何でなのかなって不思議じゃない?」
シェリーは「それは、そう思うけど……」と一瞬、言葉に詰まって。
「でも、それもソル兄の薬の効果なのかな、って……」
ソルは、モーネが本来の状態まで回復するための薬を作った。
その結果がこうなら……身長が伸びて、整った大人の顔立ちになり、性格や立ち居振る舞いも落ち着いて、それでいて、魔獣と戦えるくらい強くなったのなら……。
「俺は、そういうモーネと、これからも友達でいられたら良いと思うんだ」
シェリーはうん、と1度、頷いて。
「ソル兄は……どう思う?」
シェリーの瞳が、イタズラっぽくキラリと光った。
「俺さ、モーネが将来村に残りたい理由って、ソル兄がいるからなんじゃないかなって思ってるんだけど……」
必死の形相でこちらへ向かって駆けてくる。
――あいつは一体、誰なんだ……?
***
「ソル兄、ソル兄!俺の声、聞こえる?」
「え……」
「良かった!ソル兄、目、覚ました!」
うっすらと目を開けた先には、泣き顔のシェリー。
何度かまばたきして辺りを見ると、ソルは救護所の患者フロアに寝かされていた。
「ごめんね!俺のために怪我させちゃって。ソル兄が庇ってくれなかったら、俺、死んでた……」
ポロポロと涙が降ってくる。小さい頃から一緒の、弟分の泣き顔を見るのは久しぶりだ。
「その分、ソル兄の傷ひどくて、そのうち毒も回り出しちゃって……もう1週間も眠ってたんだよ。俺、本当にソル兄死んじゃうんじゃないかって……」
「1週間!?大変!仕事は!!」
がバリと起き上がろうとした瞬間、背中に激痛が走る。それにシェリーが慌てて覆い被さりながら。
「駄目だよ!まだ傷、治りきってないし。毒もようやく抜けてきたところなんだから」
「でも、仕事が……」
「大丈夫。奥の、別の救護所から手伝いの人達が来てくれてるから」
言われてみれば、遠くにちらほら知らない顔が見える。
ただ、ソルの寝かされている場所は長い間目を覚ましていない人達のためのエリアで、近くにいるスタッフはシェリーだけだ。
「あれからね、この辺りもオオカミ型魔獣の狩り場としてインプットされちゃってるって、ルードヴィル辺境伯の早馬が王都に知らせに行ってくれたみたい。すぐに対策が取られて……今、この辺、皇国の人達が来てるんだよ」
「皇国の人が?何で?」
「向こうには、魔獣に言うことを聞かせる魔力を持った人達がいるらしくて……このまま柵が直っても、もう入って来ちゃった魔獣をどうにかしなきゃいけないじゃない?それで、羊飼いみたいに魔獣を操って皇国に返すために、そういう人達が来てくれたんだって」
――皇国の人達が入ってきた……。
マリフォルド王国での皇国に対する信頼は決して高くない。こちらのためにと差し出されるものにも、常に自分達の利益になる裏側が潜んでいるのではないか、と疑ってしまうくらいには。
「……一応、皇国の人達は普段からこの辺りに待機してて、夜は徹夜で番をしてくれてるみたい。おかげで、魔獣を見かけることもなくなったし、あと運ばれてくる人も少なくなった。サル型魔獣の侵攻も、その人達の声1つで止められるようになったから」
おかげで救護所の仕事も少し楽になったようだ。魔獣の出る危険性が減ったことで、元々こちらから移っていったスタッフ達も、手伝いに来てくれるようになったらしい。
手伝いに来たのに、こうして足を引っ張ることになってしまった。自分を責めるソルにとっては、せめてもの救いだ。
それで、少しだけ全身の力を抜いて、寝かされているマットに身を沈めて。
「……モーネは?帰ったの?」
「うん。最初は、ソルが目を覚ますまでついてるって頑張ってたんだけど……フォードさんが帰ってこいって……それで諦めて……」
「そう……」
側にいるような気がしていた。
それが思い過ごしだったことにがっかりしたような、逆にホッとしたような複雑な気持ちだ。
「……モーネ、すごかったね」
意識を失っているとはいえ、周りの人達の迷惑にならないように、シェリーの声はいつもより小さい。
「魔獣と互角に戦って、倒してた……ソル兄は、最初から見てたの?」
「うん……俺が魔獣の来てる気配に気付かなかったから、こんな大事になっちゃって……」
「誰もそんな風には思ってないよ。魔獣達は前からこの救護所をチェックしてた……その証拠に、目撃情報だって増えてたし。タロー先生なんかは、自分がもっと早く辺境伯に知らせるべきだったって悔やんでる。今回、ソル兄達が外にいなかったら、魔獣は突然テントを襲ってきて、俺達全員やられてただろうって」
「俺は何もしてない。全部、モーネのおかげ……」
ソルの複雑な口調に気付いたのだろう。シェリーも、どこか悲しそうな顔で座り込んだ足元に目を落とした。
「……ソル兄がやられてからのモーネ、益々すごかったよ。こっちに向かって走りながら、すごい大声で『動くなーーーーー!!!!!』って。その声に驚いた魔獣が、本当に動きを止めたの。そこに、目を狙ってナイフを一突き。一瞬だった……」
「そう……なんだ……」
「倒された魔獣はね、すぐに砂みたいにザーッて崩れちゃって、死体も残らなくて。モーネは、大事にしたくないから、自分が倒したって言わないでって。それもあって、救護所の人達もモーネに帰るように勧めたの。訓練された騎士でも苦戦するような魔獣を倒したって知られたら、絶対、国や辺境伯に戦闘要員として駆り出されちゃうからって」
「モーネが……戦闘要員……」
信じられないような話だ。
1ヶ月前までは、全然そんな風じゃなかったのに。
「……俺も、それを聞いて、帰れって言った。だって、モーネは全然そんなんじゃないから。今回はたまたま無事だったけど、戦闘要員になんてなったら、いつか怪我したり……やられちゃったりするかもしれない。そんなの嫌でしょ?」
シェリーの言いたいことは分かる。自分だって同じ気持ちだ。
――でも、モーネが今回、魔獣を倒したのは偶々じゃない。多分モーネは、“戦い方”を知ってる……。
どこで?どうやって知った?
自分と出会う前だって、モーネは8年しか生きていない。それであんな動きを教えられるなんて、よっぽどの環境でなきゃあり得ない。
しかも、自分と出会ってからのモーネは、その片鱗を1度だって見せたことはなかったのだ。
「……それにね、俺、前にモーネに将来はどうしたいのって聞いたことがあるの。そしたらモーネ、村に残りたいって言ってた。なのに本人の意向を無視して、無理矢理、他の場所に行かされるなんて可哀想過ぎる……」
「……おかしいと思わない?」
「え?」
シェリーが、不思議そうな顔でソルを見る。
その顔を見つめ返しながら。
「モーネが魔獣と戦えたの、何でなのかなって不思議じゃない?」
シェリーは「それは、そう思うけど……」と一瞬、言葉に詰まって。
「でも、それもソル兄の薬の効果なのかな、って……」
ソルは、モーネが本来の状態まで回復するための薬を作った。
その結果がこうなら……身長が伸びて、整った大人の顔立ちになり、性格や立ち居振る舞いも落ち着いて、それでいて、魔獣と戦えるくらい強くなったのなら……。
「俺は、そういうモーネと、これからも友達でいられたら良いと思うんだ」
シェリーはうん、と1度、頷いて。
「ソル兄は……どう思う?」
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