52 / 235
第04章 禁じられた恋
第052話 隠し事
しおりを挟む
朝方でも夏の暑さは感じられる。マーサはじわりと滲み出る汗をハンカチで抑え、ポケットにしまった。持っている鍵で扉を開け、いつものようにエリー王女を起こしに行く。部屋中のカーテンを開けてから寝室へと向かい、そこのカーテンもゆっくりと開けた。
顔に明るい日差しがかかり、エリー王女は眩しそうに掛け布を頭にかぶる。
「おはようございます。朝になりましたのでお支度のご準備を」
マーサは優しく声をかけながらエリー王女に近づくと足元に何か落ちていることに気が付いた。
それを拾い上げると僅かに顔をしかめる。昨夜着ていたはずのガウンとベビードール……。
「エリー様。リアム陛下をお待たせするわけにはいきませんので、お早めに起きていただきませんと」
いつもと変わらぬ声色で声をかけながらも、マーサは辺りを見回し他に違和感がないかを探した。ベッドの周りやサイドテーブル。そしてエリー王女。
少し体が重いのか、エリー王女はいつもより気だるい雰囲気で目をこすり、ゆったりと体を起こしていた。
「おはようございます、マーサ……」
ふわりと微笑む姿はとても幸せそうで、マーサは少しほっとした。しかし、疑問は払拭されていない。
「一つお伺いいたしますが……何故そのような格好をしていらっしゃるのですか?」
ベッドの上にいるエリー王女はふくよかな胸を隠すことなくこちらに向けている。何を言っているのだろうとエリー王女は首をかしげていたが、何かに気が付いたように柔らかく笑みを浮かべた。
「……昨夜、すごく暑かったので脱いでしまいました」
今までどんなに暑くてもこのようなことは一度もなかった。それに部屋は魔法薬で快適な温度なのだ。マーサは不信感を募らせる。
「エリー様、いくら暑くても服を着たままでいてもらわないと困ります。もし何かあったら裸でお逃げになるおつもりですか?」
「そうですよね、次からはいたしません」
エリー王女は肩をすくんで見せ、ベッドからゆっくりと降りた。内心冷や冷やしながらもエリー王女はいつも通り鏡の前へと歩みを進める。
体が痛い。
普段全く使わない筋肉を使ったためか、様々な箇所が痛んだ。目覚めた時、すぐ傍にレイがいなかったことは残念ではあったが、幸せな気持ちはそのまま残っていた。その気持ちと体の痛みは、昨夜のことが鮮明に蘇えらせる。
レイの熱い瞳。触れ合う肌と肌。
ぬくもりを思い出し、一気に体が熱くなった。
レイは身を挺しエリー王女の気持ちに応えてくれたのだ。それは、何よりも偽りの愛ではないことを証明するものだった。レイに愛されていると思うだけで、胸が弾み世界が変わって見える。
「そういえば、レイ様と……」
「え?」
鏡の前に立つと、マーサが笑顔で話しかける。レイの名前を聞くだけで心臓が飛び出しそうだった。何か知っているのだろうか。
「昨夜、お話されて随分すっきりされたのですね。とても晴れやかなお顔に戻られました」
思い起こせば昨夜はアランやマーサに酷い態度を取っていた。きっとずっと心配していたに違いない。
「心配かけてごめんなさい。もう大丈夫で――――」
「あら大変。少し赤くなっているところが!……ほら、あのような格好で眠られたので、ここを虫に刺されたようですよ。今お薬を」
マーサが指差す胸元を見ると僅かに赤くなっている箇所があった。決して痒くはないその場所から、エリー王女は思わず視線を逸らした。
気がつかれてしまった?
知られてしまえば、レイの身に危険が振りかかってしまう。そう思ったら今度は背筋がぞくっと冷えた。
レイを守らなければならない。
たとえマーサにだって知られてはいけないのだ。
顔に明るい日差しがかかり、エリー王女は眩しそうに掛け布を頭にかぶる。
「おはようございます。朝になりましたのでお支度のご準備を」
マーサは優しく声をかけながらエリー王女に近づくと足元に何か落ちていることに気が付いた。
それを拾い上げると僅かに顔をしかめる。昨夜着ていたはずのガウンとベビードール……。
「エリー様。リアム陛下をお待たせするわけにはいきませんので、お早めに起きていただきませんと」
いつもと変わらぬ声色で声をかけながらも、マーサは辺りを見回し他に違和感がないかを探した。ベッドの周りやサイドテーブル。そしてエリー王女。
少し体が重いのか、エリー王女はいつもより気だるい雰囲気で目をこすり、ゆったりと体を起こしていた。
「おはようございます、マーサ……」
ふわりと微笑む姿はとても幸せそうで、マーサは少しほっとした。しかし、疑問は払拭されていない。
「一つお伺いいたしますが……何故そのような格好をしていらっしゃるのですか?」
ベッドの上にいるエリー王女はふくよかな胸を隠すことなくこちらに向けている。何を言っているのだろうとエリー王女は首をかしげていたが、何かに気が付いたように柔らかく笑みを浮かべた。
「……昨夜、すごく暑かったので脱いでしまいました」
今までどんなに暑くてもこのようなことは一度もなかった。それに部屋は魔法薬で快適な温度なのだ。マーサは不信感を募らせる。
「エリー様、いくら暑くても服を着たままでいてもらわないと困ります。もし何かあったら裸でお逃げになるおつもりですか?」
「そうですよね、次からはいたしません」
エリー王女は肩をすくんで見せ、ベッドからゆっくりと降りた。内心冷や冷やしながらもエリー王女はいつも通り鏡の前へと歩みを進める。
体が痛い。
普段全く使わない筋肉を使ったためか、様々な箇所が痛んだ。目覚めた時、すぐ傍にレイがいなかったことは残念ではあったが、幸せな気持ちはそのまま残っていた。その気持ちと体の痛みは、昨夜のことが鮮明に蘇えらせる。
レイの熱い瞳。触れ合う肌と肌。
ぬくもりを思い出し、一気に体が熱くなった。
レイは身を挺しエリー王女の気持ちに応えてくれたのだ。それは、何よりも偽りの愛ではないことを証明するものだった。レイに愛されていると思うだけで、胸が弾み世界が変わって見える。
「そういえば、レイ様と……」
「え?」
鏡の前に立つと、マーサが笑顔で話しかける。レイの名前を聞くだけで心臓が飛び出しそうだった。何か知っているのだろうか。
「昨夜、お話されて随分すっきりされたのですね。とても晴れやかなお顔に戻られました」
思い起こせば昨夜はアランやマーサに酷い態度を取っていた。きっとずっと心配していたに違いない。
「心配かけてごめんなさい。もう大丈夫で――――」
「あら大変。少し赤くなっているところが!……ほら、あのような格好で眠られたので、ここを虫に刺されたようですよ。今お薬を」
マーサが指差す胸元を見ると僅かに赤くなっている箇所があった。決して痒くはないその場所から、エリー王女は思わず視線を逸らした。
気がつかれてしまった?
知られてしまえば、レイの身に危険が振りかかってしまう。そう思ったら今度は背筋がぞくっと冷えた。
レイを守らなければならない。
たとえマーサにだって知られてはいけないのだ。
0
あなたにおすすめの小説
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。
雪桜
恋愛
✨ 第6回comicoお題チャレンジ『空』受賞作
阿須加家のお嬢様である結月は、親に虐げられていた。裕福でありながら自由はなく、まるで人形のように生きる日々…
だが、そんな結月の元に、新しく執事がやってくる。背が高く整った顔立ちをした彼は、まさに非の打ち所のない完璧な執事。
だが、その執事の正体は、なんと結月の『恋人』だった。レオが執事になって戻ってきたのは、結月を救うため。だけど、そんなレオの記憶を、結月は全て失っていた。
これは、記憶をなくしたお嬢様と、恋人に忘れられてしまった執事が、二度目の恋を始める話。
「お嬢様、私を愛してください」
「……え?」
好きだとバレたら即刻解雇の屋敷の中、レオの愛は、再び、結月に届くのか?
一度結ばれたはずの二人が、今度は立場を変えて恋をする。溺愛執事×箱入りお嬢様の甘く切ない純愛ストーリー。
✣✣✣
カクヨムにて完結済みです。
この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
※第6回comicoお題チャレンジ『空』の受賞作ですが、著作などの権利は全て戻ってきております。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結】初恋の人に嫁ぐお姫様は毎日が幸せです。
くまい
恋愛
王国の姫であるヴェロニカには忘れられない初恋の人がいた。その人は王族に使える騎士の団長で、幼少期に兄たちに剣術を教えていたのを目撃したヴェロニカはその姿に一目惚れをしてしまった。
だが一国の姫の結婚は、国の政治の道具として見知らぬ国の王子に嫁がされるのが当たり前だった。だからヴェロニカは好きな人の元に嫁ぐことは夢物語だと諦めていた。
そしてヴェロニカが成人を迎えた年、王妃である母にこの中から結婚相手を探しなさいと釣書を渡された。あぁ、ついにこの日が来たのだと覚悟を決めて相手を見定めていると、最後の釣書には初恋の人の名前が。
これは最後のチャンスかもしれない。ヴェロニカは息を大きく吸い込んで叫ぶ。
「私、ヴェロニカ・エッフェンベルガーはアーデルヘルム・シュタインベックに婚約を申し込みます!」
(小説家になろう、カクヨミでも掲載中)
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
恋。となり、となり、隣。
雉虎 悠雨
恋愛
友人の部屋にルームシェアすることになった篠崎ゆきは、引っ越してから三ヶ月、家が変わった以外は今まで通りの日常を送っていた。隣は赤ちゃんがいる家族と一人暮らしの背の高いあまり表情のない男。
ある日、マンションに帰ってくると、隣の部屋の前でその部屋の男、目雲周弥が倒れていた。
そして泥酔していたのを介抱する。
その一ヶ月後、またも帰宅すると隣の部屋の前でうずくまっている。また泥酔したのかとゆきが近づくと、前回と様子が違い酷いめまいを起こしているようだった。
ゆきは部屋になんとか運び入れ、また介抱した。
そこからゆきの日常も目雲の日常も変化していく。
小説家になろうにも掲載しています
【完結】結婚式の隣の席
山田森湖
恋愛
親友の結婚式、隣の席に座ったのは——かつて同じ人を想っていた男性だった。
ふとした共感から始まった、ふたりの一夜とその先の関係。
「幸せになってやろう」
過去の想いを超えて、新たな恋に踏み出すラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
