恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

文字の大きさ
56 / 235
第04章 禁じられた恋

第056話 幸福と隠れた気持ち

しおりを挟む
 リアム国王がエリー王女に女王が君臨している国について説明している中、ハルやアランなどの四人は食事の準備を進めていた。レイは何も感じていないかのように笑い、ハルとの会話に花を咲かせながら手を動かしている。

「うん、準備完了! じゃあ俺、お二人を呼んできますね」

 自ら進んで二人がいる水辺へとレイは軽やかに走りだした。声をかけられたリアム国王とエリー王女は嬉しそうに応え、仲良く会話をしながら戻ってくる。その姿は誰から見てもおかしなところはない。

 レイの本当の気持ちを知っているアランは、明るく振る舞うレイの姿に複雑な思いが込み上げた。これから先、レイはずっと苦しむのだろうか。

「なんて素敵なのかしら!」

 エリー王女の声にアランは我に返る。準備された食事を見て、エリー王女は高揚し頬を仄かに赤らめていた。

「このようなものを本の挿絵で見たことがございます! ピクニックというものですよね? ああ、私、前からしてみたかったのです」

 エリー王女は瞳を輝かせ、大輪の花のような笑顔を咲かせる。
 大きな木の下に藍色の敷き布が敷かれ、その上にパンやサラダ、スープ、お肉などが奇麗に並べられていた。
 お城で食べる食事よりは質素ではあったが、エリー王女にとってはとても豪華なご馳走に見えた。それは、後宮ではいつも一人で食事をし、食事をする場所も毎日同じ。食事に楽しさを感じたことがなかったからだった。

「陛下、このようなおもてなしをありがとうございます! それに、大きな荷物はこのためでしたのですね。ハルやアランにレイ、マーサもありがとう」

 輝く笑顔は皆に向けられた。素晴らしい景色を見ながら、心許せる人たちと一緒に美味しい食事や楽しい会話。エリー王女にとっては、とても幸せな時を感じていた。



 ◇

 城に戻る頃にはすでに日が落ちており、すぐに食事の時間となった。エリー王女は心地よい疲労感に襲われ食事中にも拘らず、ついうとうととしてしまう。

「今日はゆっくり休むといい。私も溜まった仕事を片付けるとしよう」

 リアム国王の提案をありがたく頂戴し、エリー王女はレイを共につけ、部屋に戻った。

「部屋に異常なし。マーサさんを呼んでくるからソファーで待ってて……っ!」

 室内の点検を終えると、レイはいつものように立ち去ろうとした。するとエリー王女がドアノブに手をかけた腕を掴み、甘えるように胸の中に入ってくる。

「あの……もう少しだけ一緒にいたいです……」



 頬を赤く染めたエリー王女に上目使いでお願いをされたのなら、断れるわけもなかった。

「えっと……。あー……うん。じゃあ、お言葉に甘えて……」

 レイは扉にエリー王女を押し付け、額に唇を乗せた。頬や耳、首筋を順番に口づけを落とせば、甘い息が聞こえてくる。
 それなのに脳裏にはリアム国王とエリー王女の仲良く微笑み合っている姿がちらついた。

 抑えていた嫉妬からか、そんなことをするつもりもなかったのにそのままエリー王女を求めてしまう。優しさなどなかったかもしれない。それでもエリー王女は自分を受け入れてくれた。

 ことを終えると自己嫌悪がレイを襲う。アランも巻き込んでいるというのに何をやっているのか……。

「……ごめん。好きすぎて夢中になっちゃった」
「いえ……あの……嬉しいです……」

 それでも、はにかむエリー王女の笑顔に救われた。



 ◇

「今日は凄く楽しかったね。初めての乗馬だからお尻とか痛いんじゃない? 赤くなっていたし」

 二人はソファーに座り、恋人同士のように手を絡ませていた。

「実は……少しだけ。ですが、レイが言っていたようにとても気持ち良かったので、今度はレイに乗せて貰いたいです。良いですか?」

 瞳をキラキラと耀かせたエリー王女はとても可愛いくて、そんなエリー王女が自分のことを好きでいてくれることが嬉しかった。

「もちろん。アトラスにも素敵な場所はあるから今度一緒に行こう」

 笑顔で答えるとエリー王女も嬉しそうに笑う。

「あー、エリー。もっと一緒にいたいんだけど、さすがにそろそろ行かなくちゃ。マーサさんに薬を渡しておくからお風呂から出たらお尻に塗ってもらってね」

 レイが額に口付けをしてから名残惜しそうに部屋を出て行った。

 残された一人の空間は少し寂しい。しかし、レイに求められた疲労感は心地よかった。そのままソファーに横たわり目を閉じる。

 エリー王女はあっという間に眠りに落ちた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜
恋愛
✨ 第6回comicoお題チャレンジ『空』受賞作 阿須加家のお嬢様である結月は、親に虐げられていた。裕福でありながら自由はなく、まるで人形のように生きる日々… だが、そんな結月の元に、新しく執事がやってくる。背が高く整った顔立ちをした彼は、まさに非の打ち所のない完璧な執事。 だが、その執事の正体は、なんと結月の『恋人』だった。レオが執事になって戻ってきたのは、結月を救うため。だけど、そんなレオの記憶を、結月は全て失っていた。 これは、記憶をなくしたお嬢様と、恋人に忘れられてしまった執事が、二度目の恋を始める話。 「お嬢様、私を愛してください」 「……え?」 好きだとバレたら即刻解雇の屋敷の中、レオの愛は、再び、結月に届くのか? 一度結ばれたはずの二人が、今度は立場を変えて恋をする。溺愛執事×箱入りお嬢様の甘く切ない純愛ストーリー。 ✣✣✣ カクヨムにて完結済みです。 この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。 ※第6回comicoお題チャレンジ『空』の受賞作ですが、著作などの権利は全て戻ってきております。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

恋。となり、となり、隣。

雉虎 悠雨
恋愛
友人の部屋にルームシェアすることになった篠崎ゆきは、引っ越してから三ヶ月、家が変わった以外は今まで通りの日常を送っていた。隣は赤ちゃんがいる家族と一人暮らしの背の高いあまり表情のない男。 ある日、マンションに帰ってくると、隣の部屋の前でその部屋の男、目雲周弥が倒れていた。 そして泥酔していたのを介抱する。 その一ヶ月後、またも帰宅すると隣の部屋の前でうずくまっている。また泥酔したのかとゆきが近づくと、前回と様子が違い酷いめまいを起こしているようだった。 ゆきは部屋になんとか運び入れ、また介抱した。 そこからゆきの日常も目雲の日常も変化していく。 小説家になろうにも掲載しています

【完結】初恋の人に嫁ぐお姫様は毎日が幸せです。

くまい
恋愛
王国の姫であるヴェロニカには忘れられない初恋の人がいた。その人は王族に使える騎士の団長で、幼少期に兄たちに剣術を教えていたのを目撃したヴェロニカはその姿に一目惚れをしてしまった。 だが一国の姫の結婚は、国の政治の道具として見知らぬ国の王子に嫁がされるのが当たり前だった。だからヴェロニカは好きな人の元に嫁ぐことは夢物語だと諦めていた。 そしてヴェロニカが成人を迎えた年、王妃である母にこの中から結婚相手を探しなさいと釣書を渡された。あぁ、ついにこの日が来たのだと覚悟を決めて相手を見定めていると、最後の釣書には初恋の人の名前が。 これは最後のチャンスかもしれない。ヴェロニカは息を大きく吸い込んで叫ぶ。 「私、ヴェロニカ・エッフェンベルガーはアーデルヘルム・シュタインベックに婚約を申し込みます!」 (小説家になろう、カクヨミでも掲載中)

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん
恋愛
   アイリスは十六歳の誕生日の前の日に、姉ヴィクトリアと幼なじみジェイドと共に馬車で王宮に向かう途中、事故に遭い命を落とした───はずだったが、目覚めると何故か事故の日の朝に巻き戻っていた。  何度もその日を繰り返して、その度事故に遭って死んでしまうアイリス。  何度目の「今日」かもわからなくなった頃、目が覚めると、そこにはヴィクトリアの婚約者で第三王子ウォルターがいた。  「明日」が来たんだわ。私、十六歳になれたんだ…

処理中です...