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第04章 禁じられた恋
第062話 邪な気持ち
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エリー王女は昼食用のドレスに一人で着替えてみることになった。
「こちらのドレスは上下に分かれておりますので、まずは上から」
「はい、こちらが前でしょうか?」
レイが横目でエリー王女の様子を探ってみれば、いつも以上に真剣な眼差しでマーサの説明を聞いていた。何か意識が変わったように思える。
王となりたいというのは本当だろうか。
期待しないと言ったものの、レイの心の中はどこか浮わついている。
側にいて支えるだけでいい。
多くを望んではダメだ。
そんな風に思っている心の奥底に、期待感が生まれてしまった。
「レイ?」
エリー王女は視線を感じたのか、隣にいるレイを見上げふわりと微笑む。
首を傾げる姿にレイの胸はきゅっと締め付けられた。
「ううん。どう? できそう?」
「はい。これくらいなら私にも出来そうです。あ、ですが後ろのリボンは難しいです……」
何事もないように笑顔で尋ねると、エリー王女は鏡を見ながら困った顔して手を止める。
「あー、じゃあこれは俺がやってあげるね。マーサさん、いい?」
「ええ、お願いいたします」
マーサが笑みを返すと、エリー王女も嬉しそうに笑みを零す。こんな小さなことでも、エリー王女の役に立つことがレイにとっては嬉しかった。
もっと頼られたい。
もっと一緒にいたい。
もっと触れ合いたい。
それが出来るのは自分でありたい。
エリー王女と関係を持ってしまったことで、レイの独占欲は強くなっていた。
そこに王配という小さな希望を与えられ、欲望がより大きくなっていく。
「ほら、どう?」
「わぁ、凄い。レイはリボンも結べるのですね!」
「そりゃー、靴紐もリボンにするしね」
自分の靴を見せるとエリー王女は関心したように顔をほころばせる。
レイもまた笑顔を返していたが、心の中はもやもやとしたままだった。
王配になりたいから?
他の人に取られたくないから?
このような邪(よこしま)な気持ちで、王となることを進めてもいいのだろうか。
自分の気持ちを圧し殺し、エリー王女を正しい道へと導かなければならないのだ。国にとって大きな決断だ。自分の偏った考え方は捨てなくてはならないのに……。
そんな気持ちのままで果たして側近としての仕事を全うすることが出来るのだろうか。
レイは不安で仕方がなかった。
◇
「俺もいるだろ」
夜、部屋に帰ってきたアランにそのことを伝えると、ため息混じりにそう言った。
「レイだけの判断で進めるわけじゃない。ダメだったらダメだと俺が言うし、陛下や親父だって止める。あんまり思いつめるな」
「うん……」
自分の気持ちと側近としての立場。今はどう考えてどう動いていいのかわからない。
「王になるのは悪くない。ただ、エリー様も俺たちもこれからかなり大変になる。反対する意見も出てくるだろう。シトラル陛下と同じように出来るまで底上げが出来なければ厳しいな。かなり荒い波に飲まれることは間違いない」
「そうだよね。エリーはまだ人の汚いところに触れてない。政治に関われば嫌というほど見ることになっちゃうよね。そんなこと、あんまりさせたくないな……。あっ……」
さっそく自分の気持ちが出ていることに、言ってから気が付いた。口を押さえて俯けば、アランの漏らす息が耳に入る。
「……俺にもそういう邪な気持ちはあるぞ」
「え?」
どういう意味なのか理解できず顔を上げると、いつものように真面目な顔をしたアランがレイを見ていた。
「俺は親父のように王の側近になりたい。ただエリー様を見守るだけの立ち位置ではなく、この国を、世界を動かすような政治に関与していきたい。だからエリー様が王となればそれが叶う。これだって立派な邪な気持ちだ。しかし、結局最後に決めるのはエリー様だ。今、エリー様が前向きにそうお考えならば我々はそれに向かって対策を講じればいい」
アランの言葉はすっと入ってきた。自分だけではないということがこんなにも心を軽くしてくれる。
「ありがとう。やっぱりアランは凄いね」
「いや……。あ、ああ、そうだ。これ」
照れた顔を隠すようにアランは隣に置いてあった大きな封筒をレイに手渡した。
「リアム陛下がクーデターが起こす前までいたこの国の貴族名簿だ。とりあえずここから探るのがいいだろう。その中からいくつか調べたがまだ有益な情報は得られていない」
「かなりの数があるから、もう少し時間がかかりそうだね。ジェルドにも手伝ってもらったらどうかな?」
ジェルドは城に通じるドドドン酒場を管理しており、裏の顔は情報秘密機関の隊長をしていた。レイはよくジェルドの仕事を手伝っており、仲も良かった。
「そうだな。ジェルドにはお前からうまく頼んでおいてくれ。ただ内密に動いてもらえよ。不利益な情報になるかもしれないからな」
「うん。あと別件で……先日襲ってきたエリー様を狙う人物も調べてもらわないと」
やるべきことは沢山ある。
自分のことは二の次でいいのだ。
「こちらのドレスは上下に分かれておりますので、まずは上から」
「はい、こちらが前でしょうか?」
レイが横目でエリー王女の様子を探ってみれば、いつも以上に真剣な眼差しでマーサの説明を聞いていた。何か意識が変わったように思える。
王となりたいというのは本当だろうか。
期待しないと言ったものの、レイの心の中はどこか浮わついている。
側にいて支えるだけでいい。
多くを望んではダメだ。
そんな風に思っている心の奥底に、期待感が生まれてしまった。
「レイ?」
エリー王女は視線を感じたのか、隣にいるレイを見上げふわりと微笑む。
首を傾げる姿にレイの胸はきゅっと締め付けられた。
「ううん。どう? できそう?」
「はい。これくらいなら私にも出来そうです。あ、ですが後ろのリボンは難しいです……」
何事もないように笑顔で尋ねると、エリー王女は鏡を見ながら困った顔して手を止める。
「あー、じゃあこれは俺がやってあげるね。マーサさん、いい?」
「ええ、お願いいたします」
マーサが笑みを返すと、エリー王女も嬉しそうに笑みを零す。こんな小さなことでも、エリー王女の役に立つことがレイにとっては嬉しかった。
もっと頼られたい。
もっと一緒にいたい。
もっと触れ合いたい。
それが出来るのは自分でありたい。
エリー王女と関係を持ってしまったことで、レイの独占欲は強くなっていた。
そこに王配という小さな希望を与えられ、欲望がより大きくなっていく。
「ほら、どう?」
「わぁ、凄い。レイはリボンも結べるのですね!」
「そりゃー、靴紐もリボンにするしね」
自分の靴を見せるとエリー王女は関心したように顔をほころばせる。
レイもまた笑顔を返していたが、心の中はもやもやとしたままだった。
王配になりたいから?
他の人に取られたくないから?
このような邪(よこしま)な気持ちで、王となることを進めてもいいのだろうか。
自分の気持ちを圧し殺し、エリー王女を正しい道へと導かなければならないのだ。国にとって大きな決断だ。自分の偏った考え方は捨てなくてはならないのに……。
そんな気持ちのままで果たして側近としての仕事を全うすることが出来るのだろうか。
レイは不安で仕方がなかった。
◇
「俺もいるだろ」
夜、部屋に帰ってきたアランにそのことを伝えると、ため息混じりにそう言った。
「レイだけの判断で進めるわけじゃない。ダメだったらダメだと俺が言うし、陛下や親父だって止める。あんまり思いつめるな」
「うん……」
自分の気持ちと側近としての立場。今はどう考えてどう動いていいのかわからない。
「王になるのは悪くない。ただ、エリー様も俺たちもこれからかなり大変になる。反対する意見も出てくるだろう。シトラル陛下と同じように出来るまで底上げが出来なければ厳しいな。かなり荒い波に飲まれることは間違いない」
「そうだよね。エリーはまだ人の汚いところに触れてない。政治に関われば嫌というほど見ることになっちゃうよね。そんなこと、あんまりさせたくないな……。あっ……」
さっそく自分の気持ちが出ていることに、言ってから気が付いた。口を押さえて俯けば、アランの漏らす息が耳に入る。
「……俺にもそういう邪な気持ちはあるぞ」
「え?」
どういう意味なのか理解できず顔を上げると、いつものように真面目な顔をしたアランがレイを見ていた。
「俺は親父のように王の側近になりたい。ただエリー様を見守るだけの立ち位置ではなく、この国を、世界を動かすような政治に関与していきたい。だからエリー様が王となればそれが叶う。これだって立派な邪な気持ちだ。しかし、結局最後に決めるのはエリー様だ。今、エリー様が前向きにそうお考えならば我々はそれに向かって対策を講じればいい」
アランの言葉はすっと入ってきた。自分だけではないということがこんなにも心を軽くしてくれる。
「ありがとう。やっぱりアランは凄いね」
「いや……。あ、ああ、そうだ。これ」
照れた顔を隠すようにアランは隣に置いてあった大きな封筒をレイに手渡した。
「リアム陛下がクーデターが起こす前までいたこの国の貴族名簿だ。とりあえずここから探るのがいいだろう。その中からいくつか調べたがまだ有益な情報は得られていない」
「かなりの数があるから、もう少し時間がかかりそうだね。ジェルドにも手伝ってもらったらどうかな?」
ジェルドは城に通じるドドドン酒場を管理しており、裏の顔は情報秘密機関の隊長をしていた。レイはよくジェルドの仕事を手伝っており、仲も良かった。
「そうだな。ジェルドにはお前からうまく頼んでおいてくれ。ただ内密に動いてもらえよ。不利益な情報になるかもしれないからな」
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