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第05章 偽装
第070話 承認欲求の果て
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「今回も失敗か……」
側近であるソルブからの手紙を手にした男が呟いた。
窓に映る男の顔は苦々しい。
目に入る飾り気のない庭は男の心を更に苛立たせた。
華やかなアトラス城や威厳あるローンズ城とは比べるまでもないほど小さな城に住むその男は、シロルディア王国の第一王子ディーンである。
「何か他の手を考えなくては……」
ディーン王子は奥歯をキリキリと噛み締めた。
エリー王女の誕生日パーティーが行われる数日前、ディーン王子はとある屋敷を訪れていた。
その屋敷の主人は、エリー王女の叔母にあたるハーネイスと言う名の女だった。
そこへ、ディーン王子はとある提案を持ちかける。
「ハーネイス様が望むようなことがこれから起きるでしょう。もしもそうなった場合、あなたの息子であるサイラス様が国王にお成りになることでしょう。その暁には私を、いえ、私の国に力をお与え下さい」
それは、ハーネイスがとても望んでいることだった。ハーネイスは、男にこのように約束をした。
――――シロルディア王国の繁栄に協力しよう。
シロルディア王国の繁栄。
ディーン王子は何故それほどまでに拘るのか。
それは、ディーン王子はこの自然豊かな田舎の国がとても嫌いだったからだ。
ここ、シロルディア王国はローンズ王国の西側に隣国している小国である。自然豊かであると言えば聞こえは良いが、実際には何もない田舎だった。地産地消でなんとかやっている程度で、輸出するほどの物資はない。
その証拠に、隣国のローンズ王国は数多くの国を攻め植民地にしてきたにも拘らず、シロルディア王国には目もくれなかった。
ローンズ王国との間には大きな川が流れており、わざわざ労力を費やしてまで攻め入るほどの価値がなかったからだろう。
そして他国の王たちも、シロルディア王国を相手にすることはない。
鼻で馬鹿にし、いないものとして扱うのだ。
それがどれ程惨めで悔しいか……。
ディーン王子と初めて会ったエリー王女も他の者と同じだった。
もちろん期待などはしていない。国としての価値はもちろん、ディーン王子本人も見た目が良いわけでもなかった。背は高いが貧相な体格な上に、血色も悪い。真っ黒な髪は細い目を隠すように流れており、陰湿な感じも漂っているような男だ。それは自分でも理解している。
ただ、分かっていてもあからさまに興味のない態度を取られては腹も立つ。
――――エリー王女殺害。
おかげでハーネイスが望むようにしたとしても、心を痛めることはなかった。
これさえ出来れば国は少しは大きくなるかもしれない。
ディーン王子はどんなことをしてでも、小さな国を他国から認めてもらえるほど大きくしたかった。
認められたい。
ただそれだけだった……。
「セイン王子の件も早く調べなくてはな」
だからこそ、これ以外にも色々と画策はしていた。
そのうちの一つはローンズ王国との接点を持つこと。
ディーン王子は植物について多くの知識を持っていた。もしかしたらセイン王子の病気も治せるかもしれない。
そう思い、リアム国王に申し出をした。
しかし会うことすら許されなかった。
それは、自分が田舎者で役に立たないと言われたようだった。
ディーン王子の心にミシミシと亀裂が入る。
「今に必ず……」
ならば弱みを握ろう。
セイン王子はすでに亡くなっているのではという噂もある。
隠す理由はなんなのか。
探せ……。
誰かを陥れる何かを……!
ディーン王子はローンズ王国だけではなくいたるところに情報網を張り巡らせた。
「私は諦めない。いつか認めさせてやるのだ……」
受け取った手紙を破ると、灰皿の上で火を点ける。燃え上がる赤い光にディーン王子は唇をぎゅっと結んだ。
側近であるソルブからの手紙を手にした男が呟いた。
窓に映る男の顔は苦々しい。
目に入る飾り気のない庭は男の心を更に苛立たせた。
華やかなアトラス城や威厳あるローンズ城とは比べるまでもないほど小さな城に住むその男は、シロルディア王国の第一王子ディーンである。
「何か他の手を考えなくては……」
ディーン王子は奥歯をキリキリと噛み締めた。
エリー王女の誕生日パーティーが行われる数日前、ディーン王子はとある屋敷を訪れていた。
その屋敷の主人は、エリー王女の叔母にあたるハーネイスと言う名の女だった。
そこへ、ディーン王子はとある提案を持ちかける。
「ハーネイス様が望むようなことがこれから起きるでしょう。もしもそうなった場合、あなたの息子であるサイラス様が国王にお成りになることでしょう。その暁には私を、いえ、私の国に力をお与え下さい」
それは、ハーネイスがとても望んでいることだった。ハーネイスは、男にこのように約束をした。
――――シロルディア王国の繁栄に協力しよう。
シロルディア王国の繁栄。
ディーン王子は何故それほどまでに拘るのか。
それは、ディーン王子はこの自然豊かな田舎の国がとても嫌いだったからだ。
ここ、シロルディア王国はローンズ王国の西側に隣国している小国である。自然豊かであると言えば聞こえは良いが、実際には何もない田舎だった。地産地消でなんとかやっている程度で、輸出するほどの物資はない。
その証拠に、隣国のローンズ王国は数多くの国を攻め植民地にしてきたにも拘らず、シロルディア王国には目もくれなかった。
ローンズ王国との間には大きな川が流れており、わざわざ労力を費やしてまで攻め入るほどの価値がなかったからだろう。
そして他国の王たちも、シロルディア王国を相手にすることはない。
鼻で馬鹿にし、いないものとして扱うのだ。
それがどれ程惨めで悔しいか……。
ディーン王子と初めて会ったエリー王女も他の者と同じだった。
もちろん期待などはしていない。国としての価値はもちろん、ディーン王子本人も見た目が良いわけでもなかった。背は高いが貧相な体格な上に、血色も悪い。真っ黒な髪は細い目を隠すように流れており、陰湿な感じも漂っているような男だ。それは自分でも理解している。
ただ、分かっていてもあからさまに興味のない態度を取られては腹も立つ。
――――エリー王女殺害。
おかげでハーネイスが望むようにしたとしても、心を痛めることはなかった。
これさえ出来れば国は少しは大きくなるかもしれない。
ディーン王子はどんなことをしてでも、小さな国を他国から認めてもらえるほど大きくしたかった。
認められたい。
ただそれだけだった……。
「セイン王子の件も早く調べなくてはな」
だからこそ、これ以外にも色々と画策はしていた。
そのうちの一つはローンズ王国との接点を持つこと。
ディーン王子は植物について多くの知識を持っていた。もしかしたらセイン王子の病気も治せるかもしれない。
そう思い、リアム国王に申し出をした。
しかし会うことすら許されなかった。
それは、自分が田舎者で役に立たないと言われたようだった。
ディーン王子の心にミシミシと亀裂が入る。
「今に必ず……」
ならば弱みを握ろう。
セイン王子はすでに亡くなっているのではという噂もある。
隠す理由はなんなのか。
探せ……。
誰かを陥れる何かを……!
ディーン王子はローンズ王国だけではなくいたるところに情報網を張り巡らせた。
「私は諦めない。いつか認めさせてやるのだ……」
受け取った手紙を破ると、灰皿の上で火を点ける。燃え上がる赤い光にディーン王子は唇をぎゅっと結んだ。
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