恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗

文字の大きさ
81 / 235
第06章 真実

第081話 セインの記憶(3)

しおりを挟む
――――クーデターを起こす前にシトラル国王との密会を行った。
 アトラス王国は豊かで平和な国ではあったが、武力に関してはあまり強いものではない。
 いつ狙われてもおかしくない状態だった。

「弊国の軍事力で貴国を守ります」
「北方全土を支配する貴国が何故わざわざ同盟を結ぶのか」
「支配をするのは容易い。しかし、それでは貴国のような理想郷を作り上げることは叶わない。私は弊国を健全化させるべくシトラル陛下に知恵と力を貸していただきたい」
「はっはっはっ。我が国を支配するのは容易いか。そんな貴国をどう信用しろと?」

 シトラル国王は威圧的に見据える。

「我が弟セインを預けます。セインは私と同等の力を持っており、必ず貴国のお役に立ちましょう」
「内通するかもしれない相手を側に置いておけと?」

 リアムがそう提案しても、目の前のシトラル国王は頷こうとはしなかった。

「陛下。私の記憶を全て消します。そうすれば兄が私を使って裏で手を引くかもしれないなどという心配ごともなくなりましょう。どうか兄が王となった暁には弊国との同盟を」
「セイン、記憶を消せばお前は死んだものと同じ。そんなこと――」

 驚いたリアムはセインの提案を止めた。

「いえ、私の本質は生き続けます。アトラス王国に忠誠を誓い、必ずお役に立ってみせます!」
「セイン……」

 リアムは瞳を閉じた後、シトラル国王に向き直った。

「失礼しました。我らはダルスのような過ちは決して起こさない。ローンズの民を平和な国へと導きたい。どうか我らに力をお貸しください」

 リアムとセインは頭を下げる。

「……弾圧されている国は反乱を起こしやすい。貴国との同盟によってその者たちがこちらに刃を向けてくる可能性が出るのでは? それについてはどのように考える」
「返還を行う予定です。また貴国への刃は必ず我等が阻止いたします」

「ならば、そなたが王になり沈静化させることが出来れば、その提案に賛同しよう」
「お約束いたします」

 シトラル陛下と側近二名以外にはこの事実を知らせてはいけないことと、セイン王子の安全を保証することを条件に成立した。



 同盟は互いの支援。





――――二人は父ダルスを討ち、侵略した国の返還を行った。
 しかし、侵略は主にリアムが行ってきたため、素直に喜ぶ者は多くはない。新たな魔王が誕生しただけだと、未だに多くの国が脅え様子を窺っていた。

 またダルスを支持していた者達との抗争も始まった。
 この時セインは初めて多くの者に手をかけた。

 震える手で剣を強く握りしめる。
 そして命の重みを感じながら突き進んだ。

 失った者達のためにも貫き通す。
 自分の信じた正義のために――!!







――――反発する者達の沈静化に力を注いだ後、リアムとセインはアトラス王国へと向かった。
 約束どおりシトラル国王はセインを受け入れる。

「兄さん、あとは宜しくね。俺もここで頑張るから」
「心配はしていない。俺はお前を信頼している」
「あはは。うん。俺も兄さんを信頼している」

 最後の言葉を交わし、ベッドに横たわった。
 リアムとローンズ王国の繁栄を願い、瞳を閉じる。



 そしてセインは全ての記憶を失った――――。



 記憶のかけらが全て揃い、真っ白な世界に色が加わる。



 レイがゆっくりと瞳を開けると一筋の涙が溢れた。
 大切な記憶を取り戻し、全てが繋がった。



 横を向くとリアム国王がベッドの脇に置いた椅子に座ったまま眠っている。
 懐かしいその姿に胸が詰まった。

「兄さん……」

 何年ぶりかに口にした言葉が震える。
 その声に導かれるようにリアム国王はゆっくりと瞳を開けた。 

「セイン……」

 視界が歪む中、リアム国王が傍に寄ってくるのが見え、思わず腕で自分の目を隠す。
 合わせる顔がなかった。

「兄さん……ごめんなさい……俺……」

 ベッドの端に重みを感じたが、レイ、もといセイン王子は顔を上げることが出来ずにいた。

「いや、問題ない。セインが無事に戻ってきてくれて私は嬉しい。お前のおかげでローンズはここまで大きくなれた。むしろ感謝している。お前にこんなことをさせてしまって申し訳なかった」

 リアム国王の言葉に嘘はなかった。

 傍若無人の独裁者だった父ダルスから母メーヴェルとセインをずっと守ってきた。
 ダルスの信頼を得ていれば二人に危害が及ばない。
 そう思い、ずっと忠実に従っていた。

 しかしそうではないのだとセインに教わった。
 自分の手で変えることが出来る。

 だからダルスを討ち、国を立て直す気持ちになれた。

 なのに母はクーデターの犠牲となり、セインは他国の捕虜となった。
 一番守りたいものを守れていないのだ。

 リアムはこの結果に疑問を抱き、ずっと悔やんでいた……。
 
「兄さん」

 ゆっくりと体を起こしたセイン王子はリアム国王の背に頭をつけた。

「これは俺が言い出したことなんだから謝らないで。俺は兄さんのためなら喜んで何でもやる。だけど俺は戦争になりかねないことをしてしまった……」

 セイン王子はベッドから降り、リアム国王の前で跪く。

「この度の件は申し訳ございませんでした」
「セイン、もういい。お前が早急に手を打ってくれたおかげで、最悪な事態は免れた。それにシトラル陛下から今後についての提案も来ている。これから先のことについて考えよう」

 リアム国王は安心させるように微笑んだ。

「……はい」
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜
恋愛
✨ 第6回comicoお題チャレンジ『空』受賞作 阿須加家のお嬢様である結月は、親に虐げられていた。裕福でありながら自由はなく、まるで人形のように生きる日々… だが、そんな結月の元に、新しく執事がやってくる。背が高く整った顔立ちをした彼は、まさに非の打ち所のない完璧な執事。 だが、その執事の正体は、なんと結月の『恋人』だった。レオが執事になって戻ってきたのは、結月を救うため。だけど、そんなレオの記憶を、結月は全て失っていた。 これは、記憶をなくしたお嬢様と、恋人に忘れられてしまった執事が、二度目の恋を始める話。 「お嬢様、私を愛してください」 「……え?」 好きだとバレたら即刻解雇の屋敷の中、レオの愛は、再び、結月に届くのか? 一度結ばれたはずの二人が、今度は立場を変えて恋をする。溺愛執事×箱入りお嬢様の甘く切ない純愛ストーリー。 ✣✣✣ カクヨムにて完結済みです。 この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。 ※第6回comicoお題チャレンジ『空』の受賞作ですが、著作などの権利は全て戻ってきております。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

恋。となり、となり、隣。

雉虎 悠雨
恋愛
友人の部屋にルームシェアすることになった篠崎ゆきは、引っ越してから三ヶ月、家が変わった以外は今まで通りの日常を送っていた。隣は赤ちゃんがいる家族と一人暮らしの背の高いあまり表情のない男。 ある日、マンションに帰ってくると、隣の部屋の前でその部屋の男、目雲周弥が倒れていた。 そして泥酔していたのを介抱する。 その一ヶ月後、またも帰宅すると隣の部屋の前でうずくまっている。また泥酔したのかとゆきが近づくと、前回と様子が違い酷いめまいを起こしているようだった。 ゆきは部屋になんとか運び入れ、また介抱した。 そこからゆきの日常も目雲の日常も変化していく。 小説家になろうにも掲載しています

【完結】初恋の人に嫁ぐお姫様は毎日が幸せです。

くまい
恋愛
王国の姫であるヴェロニカには忘れられない初恋の人がいた。その人は王族に使える騎士の団長で、幼少期に兄たちに剣術を教えていたのを目撃したヴェロニカはその姿に一目惚れをしてしまった。 だが一国の姫の結婚は、国の政治の道具として見知らぬ国の王子に嫁がされるのが当たり前だった。だからヴェロニカは好きな人の元に嫁ぐことは夢物語だと諦めていた。 そしてヴェロニカが成人を迎えた年、王妃である母にこの中から結婚相手を探しなさいと釣書を渡された。あぁ、ついにこの日が来たのだと覚悟を決めて相手を見定めていると、最後の釣書には初恋の人の名前が。 これは最後のチャンスかもしれない。ヴェロニカは息を大きく吸い込んで叫ぶ。 「私、ヴェロニカ・エッフェンベルガーはアーデルヘルム・シュタインベックに婚約を申し込みます!」 (小説家になろう、カクヨミでも掲載中)

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん
恋愛
   アイリスは十六歳の誕生日の前の日に、姉ヴィクトリアと幼なじみジェイドと共に馬車で王宮に向かう途中、事故に遭い命を落とした───はずだったが、目覚めると何故か事故の日の朝に巻き戻っていた。  何度もその日を繰り返して、その度事故に遭って死んでしまうアイリス。  何度目の「今日」かもわからなくなった頃、目が覚めると、そこにはヴィクトリアの婚約者で第三王子ウォルターがいた。  「明日」が来たんだわ。私、十六歳になれたんだ…

処理中です...