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第08章 絶望
第102話 母と子
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「強欲な女は身を滅ぼす……」
ビルボートの問いである"面白い事実"について、バフォールは語りだした。
そこにいた全員は、身構えながらも耳を傾ける。
「レナ……あの女がいた場所……私が王妃になるはずだった……。憎い……憎い憎い憎い……。せめて……我が血を分け合った息子が王になれば、私は報われよう」
その言葉は、バフォールではなくハーネイスの言葉だった。
「私は、レナと夫を……殺した」
「なっ、何故そのような!」
ビルボートの問いに、ハーネイスは失笑する。
「分からぬのか? 邪魔だからだ。エリーも同じだ。サイラスが王になるために不要なものを排除せねばならない」
「そんな身勝手な! それに悪魔など利用してただで済むとお思いか!」
ハーネイスは暫く口を開かなかった。
「サイラスのため……?」
何かを考えるように眉間にシワを寄せる。
重い沈黙。
「いや違うな……。何もかも上手くいかぬのなら、全てを壊しても良い。死んだあとのことなどどうでも良いと……そう……」
――――シトラルが傷付けばそれで良い。
まるでハーネイスの燃えたぎる魂を見ているようで、その場にいた全員の背中がぞくりと震えた。
「くっくっくっ。それがこの女の本心だ。人間は悪魔より残酷だな。お前達はそうとは知らずにこの女にひれ伏してきた。悔しかろう。無能な自分達を責め、嘆くべきだな」
バフォールはビルボートを見据えていたが、ふと視線を外す。
「……ああ、一人。強くこちらに憎しみを向けている者がいるな」
それに気がついたアランは、バフォールの視線を辿る。その先には手を震わす一人の男が立っていた。
「母に似た者が城を荒らしていると聞いて来てみれば……やはり……母が……父を!!」
「サ、サイラス様!? 危険ですっ!! ここはお下がり下さい!!」
アランの制止を聞かず、サイラスは腰につけていた剣を抜く。
金属がこすれる音が重く響いた。
「何故! 父に手をかける必要があったのか! 何故! 悪魔になど願いを託すのか!」
サイラスは力強く地を踏み、元母親であるバフォールに剣を向ける。
打ち込んだ剣はバフォールの剣とぶつかりキンっという音を鳴らした。
軽々と受けた剣はサイラスを押し、はね除ける。
「世界に未来がなければそれでいい。だ、そうだ。……くっくっくっ。お前のことなど何一つ考えていないようだな」
「黙れ!! そのようなことは分かっている!!」
サイラスはずっと母親を見てきた。
だからこそ、母親の心が自分に向いていないことは知っていた。
愛などは求めていない。
自分が信じていたのは父親だけだ。
なのに、その言葉に激しく心を揺さぶられた。
「いいぞ、憎しみと悲しみが混じり合っている」
「悲しみなどっ! くそっ!」
父親の死に疑問を抱いていたサイラスは、初めから母親を疑っていた。しかし、真実を知った今、何故か心がずっしりと重くなっていた。
期待などしていない!
こんな女は切られて当然なのだ!!
「父の仇は俺が!!」
「サイラス様、お下がりください! ここは我々が!」
「手を出すな! これは、私がやらねばならない!!」
「しかしっ!」
サイラスはビルボートの言葉を無視し、剣を振るう。
バフォールは受けるだけではなく、少しずつサイラスに傷を負わせた。
打ち合う剣に火花が散り、サイラスの血が舞う。
手、足、顔、体……。
じわじわとなぶられ、視界に滲みが生まれる。
何度もビルボートの声が飛んでくるが、助けを拒否した。
「お前はひ弱で使えない。父親も母親も救えない小さな人間。自分の弱さに絶望するがいい」
そうだ。
結局何も成し遂げられなかった。
母を止めることも出来ない。
黒い瞳の母親の姿をした悪魔。
バフォールの剣は心までもいたぶった。
「くっくっくっ。私の可愛いサイラス。もう限界のようですね。貴方も父のようにこの手で殺してあげましょう」
バフォールが剣を大きく振り、サイラス目掛けて魔法を放つ。
「サイラス様っ!」
「っ!!」
その時だった。
バフォールが放った赤黒い炎と後方から飛んできた青い稲妻がぶつかった。
眩い光がビリビリと迸り、サイラスはよろめき尻餅をついた。
「サイラス様、こちらへ!」
サイラスが視線を上げると、そこには青緑色の瞳をした黒髪の青年がいた。
ビルボートの問いである"面白い事実"について、バフォールは語りだした。
そこにいた全員は、身構えながらも耳を傾ける。
「レナ……あの女がいた場所……私が王妃になるはずだった……。憎い……憎い憎い憎い……。せめて……我が血を分け合った息子が王になれば、私は報われよう」
その言葉は、バフォールではなくハーネイスの言葉だった。
「私は、レナと夫を……殺した」
「なっ、何故そのような!」
ビルボートの問いに、ハーネイスは失笑する。
「分からぬのか? 邪魔だからだ。エリーも同じだ。サイラスが王になるために不要なものを排除せねばならない」
「そんな身勝手な! それに悪魔など利用してただで済むとお思いか!」
ハーネイスは暫く口を開かなかった。
「サイラスのため……?」
何かを考えるように眉間にシワを寄せる。
重い沈黙。
「いや違うな……。何もかも上手くいかぬのなら、全てを壊しても良い。死んだあとのことなどどうでも良いと……そう……」
――――シトラルが傷付けばそれで良い。
まるでハーネイスの燃えたぎる魂を見ているようで、その場にいた全員の背中がぞくりと震えた。
「くっくっくっ。それがこの女の本心だ。人間は悪魔より残酷だな。お前達はそうとは知らずにこの女にひれ伏してきた。悔しかろう。無能な自分達を責め、嘆くべきだな」
バフォールはビルボートを見据えていたが、ふと視線を外す。
「……ああ、一人。強くこちらに憎しみを向けている者がいるな」
それに気がついたアランは、バフォールの視線を辿る。その先には手を震わす一人の男が立っていた。
「母に似た者が城を荒らしていると聞いて来てみれば……やはり……母が……父を!!」
「サ、サイラス様!? 危険ですっ!! ここはお下がり下さい!!」
アランの制止を聞かず、サイラスは腰につけていた剣を抜く。
金属がこすれる音が重く響いた。
「何故! 父に手をかける必要があったのか! 何故! 悪魔になど願いを託すのか!」
サイラスは力強く地を踏み、元母親であるバフォールに剣を向ける。
打ち込んだ剣はバフォールの剣とぶつかりキンっという音を鳴らした。
軽々と受けた剣はサイラスを押し、はね除ける。
「世界に未来がなければそれでいい。だ、そうだ。……くっくっくっ。お前のことなど何一つ考えていないようだな」
「黙れ!! そのようなことは分かっている!!」
サイラスはずっと母親を見てきた。
だからこそ、母親の心が自分に向いていないことは知っていた。
愛などは求めていない。
自分が信じていたのは父親だけだ。
なのに、その言葉に激しく心を揺さぶられた。
「いいぞ、憎しみと悲しみが混じり合っている」
「悲しみなどっ! くそっ!」
父親の死に疑問を抱いていたサイラスは、初めから母親を疑っていた。しかし、真実を知った今、何故か心がずっしりと重くなっていた。
期待などしていない!
こんな女は切られて当然なのだ!!
「父の仇は俺が!!」
「サイラス様、お下がりください! ここは我々が!」
「手を出すな! これは、私がやらねばならない!!」
「しかしっ!」
サイラスはビルボートの言葉を無視し、剣を振るう。
バフォールは受けるだけではなく、少しずつサイラスに傷を負わせた。
打ち合う剣に火花が散り、サイラスの血が舞う。
手、足、顔、体……。
じわじわとなぶられ、視界に滲みが生まれる。
何度もビルボートの声が飛んでくるが、助けを拒否した。
「お前はひ弱で使えない。父親も母親も救えない小さな人間。自分の弱さに絶望するがいい」
そうだ。
結局何も成し遂げられなかった。
母を止めることも出来ない。
黒い瞳の母親の姿をした悪魔。
バフォールの剣は心までもいたぶった。
「くっくっくっ。私の可愛いサイラス。もう限界のようですね。貴方も父のようにこの手で殺してあげましょう」
バフォールが剣を大きく振り、サイラス目掛けて魔法を放つ。
「サイラス様っ!」
「っ!!」
その時だった。
バフォールが放った赤黒い炎と後方から飛んできた青い稲妻がぶつかった。
眩い光がビリビリと迸り、サイラスはよろめき尻餅をついた。
「サイラス様、こちらへ!」
サイラスが視線を上げると、そこには青緑色の瞳をした黒髪の青年がいた。
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