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第16章 囚われた王女と失われた記憶
第191話 大切な人
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翌朝。
エリー王女の部屋にはディーン王子がいた。というよりも、毎朝毎晩必ずセロードとヒースクリフを引連れて訪れてくる。
「今日も一段と美しい。早く婚儀を済ませたいものですね」
腰に手を回し、露になっているエリー王女の首筋に口づけをする。その間、エリー王女は息を止め必死に耐えていた。そんな姿もディーン王子には愛おしく感じているようで、満足そうに笑みを浮かべている。
「では、また夜に……」
ディーン王子が部屋を出ると、廊下で待っていたマーサと侍女が、深く頭を下げた。廊下に立っていた二人は、ディーン王子が見えなくなるのを待ってからエリー王女の部屋へと入る。しかし、エリー王女の姿がない。侍女はきょろきょろと部屋を見回した。
「恐らく浴室の方にいらっしゃるのだと思います」
マーサがそう伝えると侍女は浴室へと向かう。浴室に行くとエリー王女がタオルで首を拭いていた。
「首、どうしたの?」
侍女はエリー王女の後ろから声をかける。侍女らしからぬ言葉遣いだ。その声にエリー王女はピタリと動きを止めた。
この声をエリー王女はよく知っている。心臓が跳ねるほど驚き、悪いことをして見つかってしまった時のような罪悪感が溢れ出てきた。言葉が出てこない。
「あいつに何かされたの?」
侍女の声には怒気が含まれていた。後ろからタオルをゆっくり奪い、拭いていたその場所に口づける。エリー王女はその瞬間、ぴくりと体をよじった。
「あの……ごめんなさい……」
エリー王女は俯く。
侍女は首に顔を埋めたまま後ろからきゅっと抱き締めた。
「されたんだ……。ここ以外は触れられた?」
首を小さく振るエリーを見て安堵した。
「ねぇ、アランから聞いたよ。俺は嫌だから。エリーを他のやつになんて渡したくない。だからお願い……俺を信じて待っていてほしい」
「………………あの……もうお体は大丈夫なのでしょうか……?」
話を逸らすエリー王女に侍女は小さくため息をつき、エリー王女の前へと回り込む。
「エリー、はぐらかさないで」
真っすぐ見つめてくるその姿は魔法薬で女性となったセイン王子だった。会えたことは嬉しいのに、今は自分の選択を責められているようで怖かった。
「ですがセイン様……」
「ううん。ダメだよエリー。俺がエリーと結婚するんだから。ね?」
セイン王子はにこっと笑った。怒られると思っていたエリー王女は、その笑顔に胸がきゅっと締め付けられる。
「セイン様……」
「はい、笑って? そして俺を信じるって言って? ほら、笑顔は笑顔を生むんだよ~? そして笑顔が幸せを運ぶんだよ~?」
エリー王女の頬をプニプニと両手の人差し指でつつきながら、楽しそうに笑う。セイン王子の笑顔はいつも幸せにしてくれた。胸が痛いほど苦しいのに暖かい……。
そっとセイン王子の手を掴み、頬に手を置いたまま考える。そう、この笑顔を私が奪おうとしていたのだ。そして、ある言葉を思い出す。
「……一人一人が大切な者を作り、その笑顔を守る。それだけで幸せが連鎖する……」
昔、セイン王子がレイだった頃に教えてくれた言葉だった。
「あ、親父さんの言葉だ。覚えていてくれたんだね!」
セイン王子は嬉しそうに笑う。
「あの……ごめんなさい……。私はまた大事なことを忘れるところでした。大切な人を幸せにするということを……」
エリー王女は困ったように笑顔を見せた。
「私はセイン様の笑顔を守りたいです……」
一筋の涙が溢れ、それをセイン王子が優しく拭う。
「うん。俺も必ずエリーの笑顔を守るよ」
二人で微笑みを交わし合うと、エリー王女の中にあった重りが軽くなったような気がした。
「あの……セイン様。会いに来てくれてありがとうございます」
「うん。俺はエリーのためならどんなところでも会いにいくよ。あー……でも、本当はこんな姿でエリーの前に現れたくなかったんだけどねー」
浴室にいる二人は、全身が写る鏡の前に立っていた。自分の姿を見つめながらセイン王子は顔をしかめる。
「何故ですか? とても素敵です。それに以前も何度か女性になっておりましたので特に気になりませんが……」
エリー王女は首をかしげて鏡越しにセイン王子をまじまじと見つめた。侍女の制服もとてもよく似合っており、とても美しく可愛いと本当にそう思った。
「あのときは女の服じゃなかったし……。それにこの姿じゃキスも出来ない。あー……、ねえ。それとも俺が女でも嫌じゃない?」
試すように唇をギリギリのところまでぐいっと近づけてきた。あと僅かで唇が合わさりそうだ。エリー王女の体が熱くなる。
「あ……」
「俺は良いんだよ? エリーは変わらないわけだし?」
腰を抱きよせられ、少し意地悪な表情で誘ってくる女性姿のセイン王子は、艶やかでドキドキとした。女性の姿であってもセイン王子はセイン王子である。嫌なわけはなかった。
「え……あの……」
「んー、エリーのその顔、凄く興奮する……。こういうのも悪くないかも……」
セイン王子がそっと唇を重ねようとした時、部屋の方から咳払いが聞こえてきた。
「あっ……アランだ……。早く来いってことかな。でも少しだけ……」
「っ……」
いつもとは違う柔らかな感触を一瞬だけ感じ、目を見開くとそこにはイタズラっぽく笑うセイン王子の顔があった。
「じゃ、戻ろうか」
「は、はい……」
エリー王女は熱くなった頬を押さえながら返事をすると、もう一度唇が重なった。
エリー王女の部屋にはディーン王子がいた。というよりも、毎朝毎晩必ずセロードとヒースクリフを引連れて訪れてくる。
「今日も一段と美しい。早く婚儀を済ませたいものですね」
腰に手を回し、露になっているエリー王女の首筋に口づけをする。その間、エリー王女は息を止め必死に耐えていた。そんな姿もディーン王子には愛おしく感じているようで、満足そうに笑みを浮かべている。
「では、また夜に……」
ディーン王子が部屋を出ると、廊下で待っていたマーサと侍女が、深く頭を下げた。廊下に立っていた二人は、ディーン王子が見えなくなるのを待ってからエリー王女の部屋へと入る。しかし、エリー王女の姿がない。侍女はきょろきょろと部屋を見回した。
「恐らく浴室の方にいらっしゃるのだと思います」
マーサがそう伝えると侍女は浴室へと向かう。浴室に行くとエリー王女がタオルで首を拭いていた。
「首、どうしたの?」
侍女はエリー王女の後ろから声をかける。侍女らしからぬ言葉遣いだ。その声にエリー王女はピタリと動きを止めた。
この声をエリー王女はよく知っている。心臓が跳ねるほど驚き、悪いことをして見つかってしまった時のような罪悪感が溢れ出てきた。言葉が出てこない。
「あいつに何かされたの?」
侍女の声には怒気が含まれていた。後ろからタオルをゆっくり奪い、拭いていたその場所に口づける。エリー王女はその瞬間、ぴくりと体をよじった。
「あの……ごめんなさい……」
エリー王女は俯く。
侍女は首に顔を埋めたまま後ろからきゅっと抱き締めた。
「されたんだ……。ここ以外は触れられた?」
首を小さく振るエリーを見て安堵した。
「ねぇ、アランから聞いたよ。俺は嫌だから。エリーを他のやつになんて渡したくない。だからお願い……俺を信じて待っていてほしい」
「………………あの……もうお体は大丈夫なのでしょうか……?」
話を逸らすエリー王女に侍女は小さくため息をつき、エリー王女の前へと回り込む。
「エリー、はぐらかさないで」
真っすぐ見つめてくるその姿は魔法薬で女性となったセイン王子だった。会えたことは嬉しいのに、今は自分の選択を責められているようで怖かった。
「ですがセイン様……」
「ううん。ダメだよエリー。俺がエリーと結婚するんだから。ね?」
セイン王子はにこっと笑った。怒られると思っていたエリー王女は、その笑顔に胸がきゅっと締め付けられる。
「セイン様……」
「はい、笑って? そして俺を信じるって言って? ほら、笑顔は笑顔を生むんだよ~? そして笑顔が幸せを運ぶんだよ~?」
エリー王女の頬をプニプニと両手の人差し指でつつきながら、楽しそうに笑う。セイン王子の笑顔はいつも幸せにしてくれた。胸が痛いほど苦しいのに暖かい……。
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「……一人一人が大切な者を作り、その笑顔を守る。それだけで幸せが連鎖する……」
昔、セイン王子がレイだった頃に教えてくれた言葉だった。
「あ、親父さんの言葉だ。覚えていてくれたんだね!」
セイン王子は嬉しそうに笑う。
「あの……ごめんなさい……。私はまた大事なことを忘れるところでした。大切な人を幸せにするということを……」
エリー王女は困ったように笑顔を見せた。
「私はセイン様の笑顔を守りたいです……」
一筋の涙が溢れ、それをセイン王子が優しく拭う。
「うん。俺も必ずエリーの笑顔を守るよ」
二人で微笑みを交わし合うと、エリー王女の中にあった重りが軽くなったような気がした。
「あの……セイン様。会いに来てくれてありがとうございます」
「うん。俺はエリーのためならどんなところでも会いにいくよ。あー……でも、本当はこんな姿でエリーの前に現れたくなかったんだけどねー」
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「何故ですか? とても素敵です。それに以前も何度か女性になっておりましたので特に気になりませんが……」
エリー王女は首をかしげて鏡越しにセイン王子をまじまじと見つめた。侍女の制服もとてもよく似合っており、とても美しく可愛いと本当にそう思った。
「あのときは女の服じゃなかったし……。それにこの姿じゃキスも出来ない。あー……、ねえ。それとも俺が女でも嫌じゃない?」
試すように唇をギリギリのところまでぐいっと近づけてきた。あと僅かで唇が合わさりそうだ。エリー王女の体が熱くなる。
「あ……」
「俺は良いんだよ? エリーは変わらないわけだし?」
腰を抱きよせられ、少し意地悪な表情で誘ってくる女性姿のセイン王子は、艶やかでドキドキとした。女性の姿であってもセイン王子はセイン王子である。嫌なわけはなかった。
「え……あの……」
「んー、エリーのその顔、凄く興奮する……。こういうのも悪くないかも……」
セイン王子がそっと唇を重ねようとした時、部屋の方から咳払いが聞こえてきた。
「あっ……アランだ……。早く来いってことかな。でも少しだけ……」
「っ……」
いつもとは違う柔らかな感触を一瞬だけ感じ、目を見開くとそこにはイタズラっぽく笑うセイン王子の顔があった。
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