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第18章 脅かす者
第212話 混乱
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爆発と共に上がる炎の中へ突進して行くのはアランだった。魔法薬を地獄の使者の足元へ投げ、爆発を起こしたのだ。足元からによる攻撃だったため、地獄の使者は鎌で攻撃を防ぐことが出来なかったようだ。燃えながらもなお平然と動きまわる姿は不気味であり、まさに地獄からの使者。
相手の攻撃をアランが剣で受け止める。
「重い……」
蛇のようなその顔は少し笑っているようにも見える。その表情に苛立ったアランは眉間に皺を寄せ、鎌を押し返しもう一度切り込む。脇を切りつけた感触はあったが、硬い。剣だけでは難しいと判断し、横目でペアの子供を見る。少年はおどおどしながらも隙を探っている様子だ。少年から見て背後から狙えるように、攻撃をかわしながら地獄の使者を誘導する。
そして、絶妙のタイミングで魔法が飛んできた。アランもまたその瞬間、剣に魔法薬を振りかけ上から切り込む――――。
ぐぅ……しゅるるる……
「よし! 良くやった! 次いくぞ!」
少年に近づき軽く頭を撫でる。一瞬驚いた表情を見せる少年は少し頬を赤らめ、頷いた。
アランが辺りを見渡しバフォールの姿を探すが、先ほどいた場所には立っていなかった。
倒せない相手ではないが、一体倒す度に一体出てくるためきりがない。
「根源を絶たなければ終わらない……」
暫く戦闘が続き、世界最強の騎士団と言われた騎士たちですら、先の見えない不安が押し寄せてきていた。傷付いていく騎士たちと燃え盛る炎。
ニーキュの目に映し出される光景は恐ろしいものだった。
木々の間隔が広い、整備された山の中であったが火の回りは早い。黒い雲に覆われた空に、橙色の光が下から広がる。パチパチと乾いた木の弾ける音があちこちから聞こえ、その下では金属音が鳴り響いている。炎の熱い空気が、息苦しさを増長させていた。
いやだ。
もう見たくない――――。
思わず後退りしたあと、ニーキュは逃げ出すように走り出した。
遠くへ! もっと遠くへ!
無我夢中で走った。それほど体力のないニーキュは少し行った先の木に手を付き呼吸を整える。喧噪から離れたからか、自分の息遣いがよく響く。
『仲間を置いて逃げたのか?』
はっと後ろを振り返るが、誰もいなかった。ドキドキと胸が鳴り響く中、目だけを動かし周りを伺う。見えるのは薄暗い木々に、僅かに見える黒い空。ざわざわと音を鳴らせるひんやりとした風がニーキュの髪を揺らす。握りしめた両手が震えていた。
「ここだ」
黒い煙の中から目の前にバフォールが突如現れた。その距離はわずか数十センチ。ニーキュは声も上げずに目を見開いた。
「あんなに皆が必死で戦っているのに、お前だけ何もしていなかったな……。恐いのか? ん?」
バフォールは優しくニーキュの頭を撫でる。
「なぁに、気に病むことはないぞ。それが普通だ。戦いたい奴に戦わせておけばいい。こんな子供に戦わせるなんてそもそも間違っているのだ」
「だ、だけど……」
リアム国王やアリスは無理に戦わなくても良いと言っていたことを伝えようとするが、上手く言葉にならなかった。しかし、心が読めるバフォールにとっては言葉は必要ない。
「それがあいつらのやり方だよ。戦わなくてもいいと言いながらも危険な場所に立たせ、あたかも自らの意思で戦うように仕向けているのだ……。可哀想に……利用されているのも知らなかったとは……」
バフォールが優しく見つめ、頭を撫でるとニーキュは混乱した。
自分は騙されているのだろうか?
優しくしてくれたのは利用したいから?
「ニーキュ!」
横を見るとアリスとサンがいた。ここは先ほどいた場所と違い、草木が生い茂っていたため、掻き分けてやってきた。
「バフォール! ニーキュから離れなさい!」
剣を構え、アリスが叫ぶ。
「この子はもうそっちには行かないぞ。お前たちに良いように利用されるのは嫌なのだよ」
「バカなこと言わないでよ! 利用なんか……」
アリスはそう言ったものの、バフォールの魔力を封印するために彼らの魔力は必要だった。全く利用をしていないとは言い切れなかったため、言葉に詰まってしまう。
「くっくっくっ。ほら、『していない』とは断言出来ないようだ。人間はすぐ嘘をつくからな」
バフォールがニーキュの肩を抱き、アリスに笑顔を向ける。一方、バフォールの腕の中にいるニーキュは眉を寄せ、瞳を揺らしながらアリスを見つめていた。
そこへ稲妻が地を這い、バフォール目掛けて走っていく。
サンが二人の会話を無視して攻撃をしかけたのだ。バフォールは片手でそれをはね除ける。アリスはハッとわれに返り、素早く突進し、バフォールを切りつけようと剣を振り上げた。その瞬間、アリスは後ろへ吹き飛ばされ、木にぶつかるとそのまま勢いよく下に落ちた。
しかし、サンは攻撃を休めない。アリスが飛ばされたのと同時にまた稲妻を飛ばす。バフォールはニーキュを庇いつつ、嬉しそうに応戦する。
いつの間にかまたニーキュの目の前で戦いが始まった……。
相手の攻撃をアランが剣で受け止める。
「重い……」
蛇のようなその顔は少し笑っているようにも見える。その表情に苛立ったアランは眉間に皺を寄せ、鎌を押し返しもう一度切り込む。脇を切りつけた感触はあったが、硬い。剣だけでは難しいと判断し、横目でペアの子供を見る。少年はおどおどしながらも隙を探っている様子だ。少年から見て背後から狙えるように、攻撃をかわしながら地獄の使者を誘導する。
そして、絶妙のタイミングで魔法が飛んできた。アランもまたその瞬間、剣に魔法薬を振りかけ上から切り込む――――。
ぐぅ……しゅるるる……
「よし! 良くやった! 次いくぞ!」
少年に近づき軽く頭を撫でる。一瞬驚いた表情を見せる少年は少し頬を赤らめ、頷いた。
アランが辺りを見渡しバフォールの姿を探すが、先ほどいた場所には立っていなかった。
倒せない相手ではないが、一体倒す度に一体出てくるためきりがない。
「根源を絶たなければ終わらない……」
暫く戦闘が続き、世界最強の騎士団と言われた騎士たちですら、先の見えない不安が押し寄せてきていた。傷付いていく騎士たちと燃え盛る炎。
ニーキュの目に映し出される光景は恐ろしいものだった。
木々の間隔が広い、整備された山の中であったが火の回りは早い。黒い雲に覆われた空に、橙色の光が下から広がる。パチパチと乾いた木の弾ける音があちこちから聞こえ、その下では金属音が鳴り響いている。炎の熱い空気が、息苦しさを増長させていた。
いやだ。
もう見たくない――――。
思わず後退りしたあと、ニーキュは逃げ出すように走り出した。
遠くへ! もっと遠くへ!
無我夢中で走った。それほど体力のないニーキュは少し行った先の木に手を付き呼吸を整える。喧噪から離れたからか、自分の息遣いがよく響く。
『仲間を置いて逃げたのか?』
はっと後ろを振り返るが、誰もいなかった。ドキドキと胸が鳴り響く中、目だけを動かし周りを伺う。見えるのは薄暗い木々に、僅かに見える黒い空。ざわざわと音を鳴らせるひんやりとした風がニーキュの髪を揺らす。握りしめた両手が震えていた。
「ここだ」
黒い煙の中から目の前にバフォールが突如現れた。その距離はわずか数十センチ。ニーキュは声も上げずに目を見開いた。
「あんなに皆が必死で戦っているのに、お前だけ何もしていなかったな……。恐いのか? ん?」
バフォールは優しくニーキュの頭を撫でる。
「なぁに、気に病むことはないぞ。それが普通だ。戦いたい奴に戦わせておけばいい。こんな子供に戦わせるなんてそもそも間違っているのだ」
「だ、だけど……」
リアム国王やアリスは無理に戦わなくても良いと言っていたことを伝えようとするが、上手く言葉にならなかった。しかし、心が読めるバフォールにとっては言葉は必要ない。
「それがあいつらのやり方だよ。戦わなくてもいいと言いながらも危険な場所に立たせ、あたかも自らの意思で戦うように仕向けているのだ……。可哀想に……利用されているのも知らなかったとは……」
バフォールが優しく見つめ、頭を撫でるとニーキュは混乱した。
自分は騙されているのだろうか?
優しくしてくれたのは利用したいから?
「ニーキュ!」
横を見るとアリスとサンがいた。ここは先ほどいた場所と違い、草木が生い茂っていたため、掻き分けてやってきた。
「バフォール! ニーキュから離れなさい!」
剣を構え、アリスが叫ぶ。
「この子はもうそっちには行かないぞ。お前たちに良いように利用されるのは嫌なのだよ」
「バカなこと言わないでよ! 利用なんか……」
アリスはそう言ったものの、バフォールの魔力を封印するために彼らの魔力は必要だった。全く利用をしていないとは言い切れなかったため、言葉に詰まってしまう。
「くっくっくっ。ほら、『していない』とは断言出来ないようだ。人間はすぐ嘘をつくからな」
バフォールがニーキュの肩を抱き、アリスに笑顔を向ける。一方、バフォールの腕の中にいるニーキュは眉を寄せ、瞳を揺らしながらアリスを見つめていた。
そこへ稲妻が地を這い、バフォール目掛けて走っていく。
サンが二人の会話を無視して攻撃をしかけたのだ。バフォールは片手でそれをはね除ける。アリスはハッとわれに返り、素早く突進し、バフォールを切りつけようと剣を振り上げた。その瞬間、アリスは後ろへ吹き飛ばされ、木にぶつかるとそのまま勢いよく下に落ちた。
しかし、サンは攻撃を休めない。アリスが飛ばされたのと同時にまた稲妻を飛ばす。バフォールはニーキュを庇いつつ、嬉しそうに応戦する。
いつの間にかまたニーキュの目の前で戦いが始まった……。
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