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一七
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天井が、はっきりと見える。
何所となく新鮮な面持ちで、リュエルは上半身をベッドの上に起こした。
もう、朝だろうか? それとも、夕方? 窓から入ってくる光から考えると夕方のような気がするが、本当に、どっちなのだろう? 何かから逃れるように、リュエルは取り留めもないことを考え続けた。
だが。考えなければならない。脅迫じみたその思いが、リュエルの胸を刺す。目を瞑ると、瞼の裏に、石畳に広がった鮮血がはっきりと見えた。何も言わず斃れているトゥエの青白い顔と、その背に刺さったマチウの幅広の剣も。
それは、久し振りにはっきりと見えた光景だった。
「……陛下」
マチウの声が、白昼夢を破る。
ゆっくりと目を開くと、いつになく青白い顔のマチウが目の前に居た。
「お目覚めに、なりましたか」
「ああ」
だるくなってきたので、ゆっくりと、再びベッドの上に横たわる。マチウが薄い布団を掛けてくれたのが、触覚だけで分かった。マチウが次に何を言うのか、も。
「……あの、陛下」
普段のマチウとは違う、動揺しきった声が、リュエルの耳に響く。聞きたくない。しかしその想いを、リュエルは大急ぎで心の奥底へと押し込めた。聞かなければ、ならない。自分も、……当事者なのだから。
「トゥエのこと、申し訳ありませんでした」
「いや……」
リュエルに向かって深々と頭を下げるマチウに、やっとの事でそれだけ言う。
マチウを責めても、仕方が無い。マチウは、自分の責務を果たしただけ。悪いのは、得体の知れない闇に囚われてしまった、リュエル自身。その闇から救い出してくれた乳兄弟の青白い顔が脳裏に浮かび、リュエルは思わず首を強く振った。
空しさと後悔が、全身を苛む。しかし何故か、その原因を作ったウォリスに対して憎悪の感情は湧かなかった。
ただ、空しいだけ。
「陛下! 大丈夫ですか!」
慌てるマチウの声に、リュエルは静かに首を横に振った。
今は、感傷に浸っているときではない。だが、次に進むには、自分はまだ脆すぎる。
だから。
「もう少しだけ、休ませてくれ」
それだけ言うと、リュエルは静かに目を閉じた。
「行かなければいけない場所が、ある」
今なら、はっきりと分かる。マチウの想いも、トゥエの願いも、ウォリスの望みも。
自分を含め、皆、それぞれの意志に従い、行動しただけ。
何所となく新鮮な面持ちで、リュエルは上半身をベッドの上に起こした。
もう、朝だろうか? それとも、夕方? 窓から入ってくる光から考えると夕方のような気がするが、本当に、どっちなのだろう? 何かから逃れるように、リュエルは取り留めもないことを考え続けた。
だが。考えなければならない。脅迫じみたその思いが、リュエルの胸を刺す。目を瞑ると、瞼の裏に、石畳に広がった鮮血がはっきりと見えた。何も言わず斃れているトゥエの青白い顔と、その背に刺さったマチウの幅広の剣も。
それは、久し振りにはっきりと見えた光景だった。
「……陛下」
マチウの声が、白昼夢を破る。
ゆっくりと目を開くと、いつになく青白い顔のマチウが目の前に居た。
「お目覚めに、なりましたか」
「ああ」
だるくなってきたので、ゆっくりと、再びベッドの上に横たわる。マチウが薄い布団を掛けてくれたのが、触覚だけで分かった。マチウが次に何を言うのか、も。
「……あの、陛下」
普段のマチウとは違う、動揺しきった声が、リュエルの耳に響く。聞きたくない。しかしその想いを、リュエルは大急ぎで心の奥底へと押し込めた。聞かなければ、ならない。自分も、……当事者なのだから。
「トゥエのこと、申し訳ありませんでした」
「いや……」
リュエルに向かって深々と頭を下げるマチウに、やっとの事でそれだけ言う。
マチウを責めても、仕方が無い。マチウは、自分の責務を果たしただけ。悪いのは、得体の知れない闇に囚われてしまった、リュエル自身。その闇から救い出してくれた乳兄弟の青白い顔が脳裏に浮かび、リュエルは思わず首を強く振った。
空しさと後悔が、全身を苛む。しかし何故か、その原因を作ったウォリスに対して憎悪の感情は湧かなかった。
ただ、空しいだけ。
「陛下! 大丈夫ですか!」
慌てるマチウの声に、リュエルは静かに首を横に振った。
今は、感傷に浸っているときではない。だが、次に進むには、自分はまだ脆すぎる。
だから。
「もう少しだけ、休ませてくれ」
それだけ言うと、リュエルは静かに目を閉じた。
「行かなければいけない場所が、ある」
今なら、はっきりと分かる。マチウの想いも、トゥエの願いも、ウォリスの望みも。
自分を含め、皆、それぞれの意志に従い、行動しただけ。
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