灰かぶり姫と月の魔法使い

星 佑紀

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第壱譚

0002:月の魔法使い

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「ごめんくださいー‼ 誰かいますかー?」



 皆様、どうも、お一人様を存分に楽しんでいる灰かぶりです。

 日が暮れる数刻前、洗濯物を取り込んでいた私は、勝手口のドア付近でガサゴソしている男性を見つけてしまいました。



「ふんふふっふふーん♪(鼻歌)」


 カチャカチャ



 陽気にドアの鍵をカチャカチャしている泥棒さん(?)には悪いですが、この状況を放っておくわけにはいきません。私は足音を潜め、常備しておいた木刀を手に取り、泥棒さんの背後へとまわりました。



「あっれれー、おかしいなーー、なんで開かないのー?」


「……あの、すみません、この家の者ですが、一体何をしているのでしょうか?」


「えっとねー、このお屋敷の中に入ろうとしているんだけど、鍵が開かないんだ♪」


「はい、不法侵入ですね。逮捕です‼」


 ブンッ


 バキッ



 すかさず木刀を振りかぶり、彼の顔側面を狙って振り落とすと、勝手口のドアへ木刀が突き刺さりました。

 ガバッと振り向いた男性(?)の顔は長い黒髪で隠されており、表情はわかりません。そして、全身を覆う黒いローブを身に纏っていらっしゃいます。


 ……とても怪しいですね。早めに警察へ連行してもらいましょう。



「や、やあ僕はの魔法使いのツクヨミ。『ツクヨミ』って呼んでね!(ウインク) 今日は灰かぶり姫に会いに来たんだ! 君が、灰かぶり姫かい?」


「……巷では、そう言われていますが。(怪訝)」


「僕は君を迎えに来たんだ‼」



 ガバッと立ち上がったツクヨミ(?)さんは木刀を持つ私の手を取り、ブンブンと握手しました。



「君をここから解放してあげる‼」






 パクパク


 カチャカチャ


 モグモグ


 ズズーー


 質素な作りの私の部屋に、ツクヨミさんの咀嚼音が響き渡ります。

 とても美味しそうにクッキーを頬張っているツクヨミさんに対して、私はふと思いました。

 ――なぜ、このツクヨミさんとやらは、私のお部屋まで上がることができたのでしょうか?

 今までも不法侵入しようとして来られた人達は沢山いました。しかし、自衛のために木刀をブンブン振りまわしますと、皆さん、私を恐れてすぐ逃げていかれますのに。……ツクヨミさんに手を取られた瞬間、力が抜けていつの間にかここでお茶会をしているのです。


 ――不思議ですね。


 ――これが、魔法使いのなのでしょうか。


 私はやや険しい目で、ツクヨミさんを直視しました。



「……んもう、灰かぶり姫、そんなに見つめられると照れちゃうよー‼(嬉)」


「照れないでください!(怒)」



 ……ツクヨミさんが、かぶりついているそのクッキーは、私が大事に取っておいた、とっておきのものなのですよ!


 継母様おかあさま達にバレないよう、戸棚の奥の奥の奥に隠していましたのに……。






 【回想 始】



「まずはお茶だよね‼ 灰かぶり姫秘蔵のクッキーでも食べようかなー。(ガサゴソ)」


 ガチャガチャガチャ


「おー、あったあった‼ ……灰かぶり姫、紅茶用意してよー!(笑)」



 【回想 終】




 ――許しません。ツクヨミさん、絶対に許しませんからね‼


 食べ物の恨みは恐ろしいのです。



「あはは、さては灰かぶり姫、僕に惚れちゃった? ……一目惚れってやつなのかな?」



 少し黙っていただけませんか、変態ツクヨミさん。熱々のティーポットが貴方の御手々に掛かってしまいますわよ‼



「……まさかそんなに僕のことが。(神妙な顔)」



 やめてください! 変な誤解をしないでください、ツクヨミさん‼





「でも、ダメなんだ。君は、……隣国の第一王子様のお嫁さんになるんだからね……。(小声)」



 ボソッと呟いたツクヨミさんの表情は見えません。声が小さ過ぎて私には聞こえませんでしたが、その代わりに、謎の悪寒に包まれたのでした。
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