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第1章 今日の敵は明日の……彼氏!?
3.
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翌日。
パソコンで映画を観ながら携帯の時計表示を何度も確認してしまう。
もし、私が行かなかったら網代さんはどうするのだろう。
嫌いだし、敵だけど、私のせいで彼が困るのはなんか嫌だ。
「ああもう!
行けばいいんだよね、行けば!」
迷いを振り切るように勢いよく立ち上がる。
クローゼットを開けて服を選んだ。
さすがに、家着のピンクのスウェットでは行けない。
どうしようか悩んで、通販で届いたばかりの服にした。
そうだ、今日はこの服を着るために出掛けるんだ。
あと、パフェのため。
「ちょっと出掛けてくるねー」
リビングでテレビを観ていた母に声をかける。
「あんたまた、そんな服買ったの?」
私の格好を見て母は呆れていた。
そんな服って、着物風のブラウスに袴風のスカートのどこが悪い?
「別にいいでしょ。
いってきまーす」
母のせいでちょっと気分は悪くなったのでさっさと家を出る。
私の私服のほとんどは、和風や中華風の服で占められていた。
コスプレとかからかう人間もいるけれど、私はこれが好きからかまわずに着ている。
新池駅に着いたものの、どの出口かとか聞いていない。
人の邪魔にならないところに避けて携帯を取りだし、NYAIN(ニヤイン)で網代さんにメッセージを送る。
ちなみにNYAINとは猫のマークが可愛い、SNS連絡ツールだ。
【着きましたけど、どうしたらいいですか?】
画面を見つめていたらすぐに既読がついた。
少し待つと返信が上がってくる。
【どこにいる?】
【東改札を出たところです】
【迎えにいくから待ってろ】
OKのスタンプを送り、そのまま待つ。
さほどたたず、遠くに網代さんが見えた。
背が高いからすぐにわかるんだよね。
私服の彼はライトグレーのパンツにVネックの白カットソー、それに黒のスウェットジャケットを羽織っていて、お洒落ではあるけれど無難な感じだ。
「へぇ」
私の格好を見て、彼の感想はそれだけだった。
しかも真顔だからリアクションに困る。
なんと返そうかと考えていたら、さりげなく背中に手を回された。
「じゃあいこうか」
そのまま、促してくるが。
「どこに連れていかれるんですか?」
十一時に駅に集合とは聞いたけれど、それ以外はなにも聞かされていないので不安になる。
「いいからついてこい」
「あっ」
私の手を掴み、強引に網代さんは歩いていく。
けれど歩みはゆっくりで、私にあわせてくれていた。
着いた先は普通のカフェでほっとした。
網代さんは店員の案内を待たずにさっさと店内に入っていく。
「お待たせ」
そう言って私を奥へ追いやり座らせた席には、向かいあって私の両親とさほど年の変わらなさそうな男女が座っていた。
いったい誰だろうとと言う私の疑問に答えるように、網代さんが紹介してくれた。
「僕の両親だ」
状況がまったく理解できない。
なぜ私はいま、網代さんの両親と対峙している?
なんていう疑問もすぐに、解決した。
信じられない答えだったが。
「こちら、僕が結婚しようと思っている和倉千代子さん」
「……は?」
思わず変な声が出て、ご両親が怪訝そうな顔をする。
笑って誤魔化したものの、〝結婚しようと思っている〟って私たちは付き合ってすらない。
それどころか仲は悪いくらいだ。
……いや、私が一方的に嫌っているだけだけれど。
どういうことか網代さんの太ももを思いっきりつついたら、手を掴まれた。
しかもそのまま指をへし折られそうな勢いで、おとなしくする。
しかも。
「立生(たつき)に結婚を考えるような相手ができてよかった……!」
ご両親は感激し、いまに泣きそうだ。
お母さんにいたってはハンカチで目尻を拭っているし。
「これで安心だろ?」
笑った網代さんはいかにも胡散臭いが、ご両親はふたり揃ってうんうんと頷いた。
微妙な気分でランチを食べる。
ご両親は嬉しくて仕方ないのか、にこにこしっぱなしだ。
網代さんも同じく笑顔だが、あれは完璧な作り笑顔だ。
ご両親相手にそんな顔なんて……って、騙しているんだからそうなるか。
私はといえば曖昧な笑みを貼り付け、適当に相槌を打っていた。
「千代子さんとはどこで知り合ったの?」
興味津々といった感じでお母さんが聞いてくる。
「どこって、会社。
少し前に転職しただろ?
そこに千代子がいた」
網代さんに〝千代子〟なんて呼び捨てにされて背筋がぞわっと逆立った。
彼から市松以外で呼ばれるのはなんか、気持ち悪い。
「そうなの。
千代子さんのどこがいいの?」
「そうだな。
人を疑うなんてことを知らない純粋なところとかかな」
眼鏡の奥からちらりと私を見た彼がふふっと小さく笑い、かっと頬に熱が走った。
いつもいつも私を騙して愉しんでいる彼だもの、あれは絶対にバカにしている。
「千代子さんはうちの息子のどこがいいのかしら?」
「どこ……?」
隣に座る当人を見上げるとレンズ越しに目があった。
優しげに微笑んではいるがその目はまったく笑っていなくて、むしろ下手なことを言ったらただじゃおかないからなと脅してくる。
「……優しいところ、ですね」
視線をお母さんに戻したら、隣でうんうんと頷く気配がした。
まあ、嘘は言っていない。
仕事でアイディアが煮詰まってこのままじゃ締め切りに間に合わないとかパニクっていたら、僕がなんとかしてやるからとにかく落ち着いて仕事に集中しろと、先方と調整してくれたりする。
嫌なヤツで敵だが、そういう部分では頼りにしているし、尊敬していた。
だからこそ、今日はすっぽかして困らせたら悪いなときたのに、まさか両親に結婚相手として紹介されるだなんて思っていない。
「まあ、息子を優しいだなんて……!」
お母さんは驚いているが、普段の網代さんからしたらそうかもしれない。
なんていったって私を騙しては愉しんでいるような人間だ。
その後もあれやこれやと尋ねられた。
「ええっと……」
言葉に詰まっていたらちょん、と太ももを隣から指で突かれる。
思わずそちらを見ると下手なことを言うんじゃないぞと目で脅す網代さんが見えた。
嘘はつきたくないがあとも怖い。
結局、ありもしない彼とのハートフルエピソードを捏造した。
初デートでランドに行って、マメができて歩けなくなった私を気遣ってくれただとか。
プロポーズは綺麗な夕日が沈む海岸だったとか。
実際には最近やっている乙女ゲーのエピソードだ。
「千代子さん、うちの息子をよろしくお願いします」
ひとしきり聞いて満足し、ご両親は帰っていった。
「……いったい、どういうことか説明してもらえるんですよね?」
ひくひくと唇の端が引き攣る。
「するから場所を変えよう」
伝票を手に網代さんは立ち上がって私を見下ろした。
パソコンで映画を観ながら携帯の時計表示を何度も確認してしまう。
もし、私が行かなかったら網代さんはどうするのだろう。
嫌いだし、敵だけど、私のせいで彼が困るのはなんか嫌だ。
「ああもう!
行けばいいんだよね、行けば!」
迷いを振り切るように勢いよく立ち上がる。
クローゼットを開けて服を選んだ。
さすがに、家着のピンクのスウェットでは行けない。
どうしようか悩んで、通販で届いたばかりの服にした。
そうだ、今日はこの服を着るために出掛けるんだ。
あと、パフェのため。
「ちょっと出掛けてくるねー」
リビングでテレビを観ていた母に声をかける。
「あんたまた、そんな服買ったの?」
私の格好を見て母は呆れていた。
そんな服って、着物風のブラウスに袴風のスカートのどこが悪い?
「別にいいでしょ。
いってきまーす」
母のせいでちょっと気分は悪くなったのでさっさと家を出る。
私の私服のほとんどは、和風や中華風の服で占められていた。
コスプレとかからかう人間もいるけれど、私はこれが好きからかまわずに着ている。
新池駅に着いたものの、どの出口かとか聞いていない。
人の邪魔にならないところに避けて携帯を取りだし、NYAIN(ニヤイン)で網代さんにメッセージを送る。
ちなみにNYAINとは猫のマークが可愛い、SNS連絡ツールだ。
【着きましたけど、どうしたらいいですか?】
画面を見つめていたらすぐに既読がついた。
少し待つと返信が上がってくる。
【どこにいる?】
【東改札を出たところです】
【迎えにいくから待ってろ】
OKのスタンプを送り、そのまま待つ。
さほどたたず、遠くに網代さんが見えた。
背が高いからすぐにわかるんだよね。
私服の彼はライトグレーのパンツにVネックの白カットソー、それに黒のスウェットジャケットを羽織っていて、お洒落ではあるけれど無難な感じだ。
「へぇ」
私の格好を見て、彼の感想はそれだけだった。
しかも真顔だからリアクションに困る。
なんと返そうかと考えていたら、さりげなく背中に手を回された。
「じゃあいこうか」
そのまま、促してくるが。
「どこに連れていかれるんですか?」
十一時に駅に集合とは聞いたけれど、それ以外はなにも聞かされていないので不安になる。
「いいからついてこい」
「あっ」
私の手を掴み、強引に網代さんは歩いていく。
けれど歩みはゆっくりで、私にあわせてくれていた。
着いた先は普通のカフェでほっとした。
網代さんは店員の案内を待たずにさっさと店内に入っていく。
「お待たせ」
そう言って私を奥へ追いやり座らせた席には、向かいあって私の両親とさほど年の変わらなさそうな男女が座っていた。
いったい誰だろうとと言う私の疑問に答えるように、網代さんが紹介してくれた。
「僕の両親だ」
状況がまったく理解できない。
なぜ私はいま、網代さんの両親と対峙している?
なんていう疑問もすぐに、解決した。
信じられない答えだったが。
「こちら、僕が結婚しようと思っている和倉千代子さん」
「……は?」
思わず変な声が出て、ご両親が怪訝そうな顔をする。
笑って誤魔化したものの、〝結婚しようと思っている〟って私たちは付き合ってすらない。
それどころか仲は悪いくらいだ。
……いや、私が一方的に嫌っているだけだけれど。
どういうことか網代さんの太ももを思いっきりつついたら、手を掴まれた。
しかもそのまま指をへし折られそうな勢いで、おとなしくする。
しかも。
「立生(たつき)に結婚を考えるような相手ができてよかった……!」
ご両親は感激し、いまに泣きそうだ。
お母さんにいたってはハンカチで目尻を拭っているし。
「これで安心だろ?」
笑った網代さんはいかにも胡散臭いが、ご両親はふたり揃ってうんうんと頷いた。
微妙な気分でランチを食べる。
ご両親は嬉しくて仕方ないのか、にこにこしっぱなしだ。
網代さんも同じく笑顔だが、あれは完璧な作り笑顔だ。
ご両親相手にそんな顔なんて……って、騙しているんだからそうなるか。
私はといえば曖昧な笑みを貼り付け、適当に相槌を打っていた。
「千代子さんとはどこで知り合ったの?」
興味津々といった感じでお母さんが聞いてくる。
「どこって、会社。
少し前に転職しただろ?
そこに千代子がいた」
網代さんに〝千代子〟なんて呼び捨てにされて背筋がぞわっと逆立った。
彼から市松以外で呼ばれるのはなんか、気持ち悪い。
「そうなの。
千代子さんのどこがいいの?」
「そうだな。
人を疑うなんてことを知らない純粋なところとかかな」
眼鏡の奥からちらりと私を見た彼がふふっと小さく笑い、かっと頬に熱が走った。
いつもいつも私を騙して愉しんでいる彼だもの、あれは絶対にバカにしている。
「千代子さんはうちの息子のどこがいいのかしら?」
「どこ……?」
隣に座る当人を見上げるとレンズ越しに目があった。
優しげに微笑んではいるがその目はまったく笑っていなくて、むしろ下手なことを言ったらただじゃおかないからなと脅してくる。
「……優しいところ、ですね」
視線をお母さんに戻したら、隣でうんうんと頷く気配がした。
まあ、嘘は言っていない。
仕事でアイディアが煮詰まってこのままじゃ締め切りに間に合わないとかパニクっていたら、僕がなんとかしてやるからとにかく落ち着いて仕事に集中しろと、先方と調整してくれたりする。
嫌なヤツで敵だが、そういう部分では頼りにしているし、尊敬していた。
だからこそ、今日はすっぽかして困らせたら悪いなときたのに、まさか両親に結婚相手として紹介されるだなんて思っていない。
「まあ、息子を優しいだなんて……!」
お母さんは驚いているが、普段の網代さんからしたらそうかもしれない。
なんていったって私を騙しては愉しんでいるような人間だ。
その後もあれやこれやと尋ねられた。
「ええっと……」
言葉に詰まっていたらちょん、と太ももを隣から指で突かれる。
思わずそちらを見ると下手なことを言うんじゃないぞと目で脅す網代さんが見えた。
嘘はつきたくないがあとも怖い。
結局、ありもしない彼とのハートフルエピソードを捏造した。
初デートでランドに行って、マメができて歩けなくなった私を気遣ってくれただとか。
プロポーズは綺麗な夕日が沈む海岸だったとか。
実際には最近やっている乙女ゲーのエピソードだ。
「千代子さん、うちの息子をよろしくお願いします」
ひとしきり聞いて満足し、ご両親は帰っていった。
「……いったい、どういうことか説明してもらえるんですよね?」
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