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第5章 ライバル登場ですけど?
2.
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「イッチー、ここ」
今日のお店はカジュアルイタリアンだった。
「ここもお洒落なお店ですね」
「だろ?」
内壁はレンガ風……というよりもレンガのようだ。
さらにアイアンと木材という素朴な組み合わせのテーブルと椅子がイタリアの片田舎を彷彿とさせる。
辺りを見渡す私とは反対に、網代さんはメニューを開いた。
「写真はあとな。
とりあえず、注文」
メニューから視線を逸らさず、網代さんが声をかけてくる。
おかげで勢いよく携帯をテーブルの上に伏せていた。
「そうですね」
……私の行動はすべてお見通し、ですか。
それもそうか、彼と恋人関係になってもう二ヶ月以上過ぎたんだし。
とりあえず網代さんのビールと私のカシスオレンジ、生ハムサラダを注文した。
「こういう店、好きだろ?」
写真を撮りながらこくこくと頷く。
好きだし、凄く勉強になる。
「網代さんってこういう情報、どこで仕入れているんですか?」
どうも彼は私を連れてくる店を、〝料理が美味しい〟ではなく〝内装が素敵〟という基準で選んでいる気がする。
そしてそれは、私の勉強になった。
「んー、秘密」
綺麗に唇を三日月型にし、悪戯っぽく彼が笑う。
「うー、意地悪です」
「イッチーが喜んでくれるなら、それでいいんだ」
おかしそうに小さくくすくすと笑いながら、運ばれてきたビールに網代さんは口をつけた。
……それって好きってことじゃないんですか?
なんて言葉が出かかったが、飲み込んだ。
違うって言われたときに立ち直れる気がしないから無理だ。
「話があるんだったよな」
サラダも来て、追加でピザとアクアパッツァを頼み、網代さんが聞いてくる。
「その」
グラスを置いて姿勢を正す。
ただし、視線はあわせられなくてテーブルの上を這った。
「……木村さんから映画に誘われて」
ちらっ、と上目で網代さんをうかがう。
「ふーん」
しかし彼は関心なさそうにそれだけ言い、ビールをひとくち飲んだ。
「……それだけ、ですか?」
もしかして、いやきっと怒ってくれる。
そんな期待は一気に萎えていった。
「あー、そうだな。
イッチーが行きたくないのなら行かないでいいんじゃないか」
「そうじゃなくて」
「違うのか?
行った方がいいのか悩んでいるから僕に相談したんだと思ったんだが」
意外そうに網代さんがレンズの奥で数度、まばたきをする。
違わないけど、違う。
それもあるが、私はせめて止めてほしかったのだ。
「その。
私が他の男性から映画……デートに誘われて、どう思ってるんですか」
「どう……?」
グラスを口に運ぼうとして彼が止まる。
テーブルの上にグラスを戻し、じっとそれを見つめて考えている彼が再び口を開くのを待った。
「……そうだな。
行かないでほしい」
そんなに悩まないと出てこない答えだったんだ、なんて俯きかけていたあたまが上がる。
――けれど。
「……とか言うのが、彼氏としては当たり前の答えなんだろうな」
自嘲するかのように小さくふふっと笑い、彼はグラスの残っていたビールを一気に飲み干した。
「正直、僕にはわからない。
それに僕にそんな感情が抱けなくても、木村さんとならそうなるかもしれないだろ?
イッチーのそんな機会を僕が潰すわけにはいかないからな」
これは彼の優しさだ。
でもその優しさが私を傷つける。
「……じゃあ、行ってきますね。
クライアントだから簡単に断れませんし」
「行きたくないなら無理はしなくていいんだぞ?
クライアントだからとデートを強要してくるのはパワハラで訴えられるからな」
眼鏡の下で網代さんが眉間に深く皺を刻む。
心配してくれるのも優しくしてくれるのも嬉しい。
でも同時に、ワイヤーでも巻き付いたのかのごとく心臓がギリギリと痛む。
「別に木村さんが苦手とかないですし。
それにほら、網代さんの言うとおり、恋ができるチャンスかもしれないじゃないですか」
無理にでも笑って答える。
いくら期待したところで私が望む言葉は網代さんの口から出てこない。
そんなの、初めからわかっていたじゃないか。
「そうか?
なら、いいけど。
でも、なんかあったらすぐに連絡しろ」
「そうさせてもらいます」
人の優しさってこんなに凶器になるんだ。
そんなの、知らなかった。
知りたくなかった――。
今日のお店はカジュアルイタリアンだった。
「ここもお洒落なお店ですね」
「だろ?」
内壁はレンガ風……というよりもレンガのようだ。
さらにアイアンと木材という素朴な組み合わせのテーブルと椅子がイタリアの片田舎を彷彿とさせる。
辺りを見渡す私とは反対に、網代さんはメニューを開いた。
「写真はあとな。
とりあえず、注文」
メニューから視線を逸らさず、網代さんが声をかけてくる。
おかげで勢いよく携帯をテーブルの上に伏せていた。
「そうですね」
……私の行動はすべてお見通し、ですか。
それもそうか、彼と恋人関係になってもう二ヶ月以上過ぎたんだし。
とりあえず網代さんのビールと私のカシスオレンジ、生ハムサラダを注文した。
「こういう店、好きだろ?」
写真を撮りながらこくこくと頷く。
好きだし、凄く勉強になる。
「網代さんってこういう情報、どこで仕入れているんですか?」
どうも彼は私を連れてくる店を、〝料理が美味しい〟ではなく〝内装が素敵〟という基準で選んでいる気がする。
そしてそれは、私の勉強になった。
「んー、秘密」
綺麗に唇を三日月型にし、悪戯っぽく彼が笑う。
「うー、意地悪です」
「イッチーが喜んでくれるなら、それでいいんだ」
おかしそうに小さくくすくすと笑いながら、運ばれてきたビールに網代さんは口をつけた。
……それって好きってことじゃないんですか?
なんて言葉が出かかったが、飲み込んだ。
違うって言われたときに立ち直れる気がしないから無理だ。
「話があるんだったよな」
サラダも来て、追加でピザとアクアパッツァを頼み、網代さんが聞いてくる。
「その」
グラスを置いて姿勢を正す。
ただし、視線はあわせられなくてテーブルの上を這った。
「……木村さんから映画に誘われて」
ちらっ、と上目で網代さんをうかがう。
「ふーん」
しかし彼は関心なさそうにそれだけ言い、ビールをひとくち飲んだ。
「……それだけ、ですか?」
もしかして、いやきっと怒ってくれる。
そんな期待は一気に萎えていった。
「あー、そうだな。
イッチーが行きたくないのなら行かないでいいんじゃないか」
「そうじゃなくて」
「違うのか?
行った方がいいのか悩んでいるから僕に相談したんだと思ったんだが」
意外そうに網代さんがレンズの奥で数度、まばたきをする。
違わないけど、違う。
それもあるが、私はせめて止めてほしかったのだ。
「その。
私が他の男性から映画……デートに誘われて、どう思ってるんですか」
「どう……?」
グラスを口に運ぼうとして彼が止まる。
テーブルの上にグラスを戻し、じっとそれを見つめて考えている彼が再び口を開くのを待った。
「……そうだな。
行かないでほしい」
そんなに悩まないと出てこない答えだったんだ、なんて俯きかけていたあたまが上がる。
――けれど。
「……とか言うのが、彼氏としては当たり前の答えなんだろうな」
自嘲するかのように小さくふふっと笑い、彼はグラスの残っていたビールを一気に飲み干した。
「正直、僕にはわからない。
それに僕にそんな感情が抱けなくても、木村さんとならそうなるかもしれないだろ?
イッチーのそんな機会を僕が潰すわけにはいかないからな」
これは彼の優しさだ。
でもその優しさが私を傷つける。
「……じゃあ、行ってきますね。
クライアントだから簡単に断れませんし」
「行きたくないなら無理はしなくていいんだぞ?
クライアントだからとデートを強要してくるのはパワハラで訴えられるからな」
眼鏡の下で網代さんが眉間に深く皺を刻む。
心配してくれるのも優しくしてくれるのも嬉しい。
でも同時に、ワイヤーでも巻き付いたのかのごとく心臓がギリギリと痛む。
「別に木村さんが苦手とかないですし。
それにほら、網代さんの言うとおり、恋ができるチャンスかもしれないじゃないですか」
無理にでも笑って答える。
いくら期待したところで私が望む言葉は網代さんの口から出てこない。
そんなの、初めからわかっていたじゃないか。
「そうか?
なら、いいけど。
でも、なんかあったらすぐに連絡しろ」
「そうさせてもらいます」
人の優しさってこんなに凶器になるんだ。
そんなの、知らなかった。
知りたくなかった――。
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