網代さんを怒らせたい

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第5章 ライバル登場ですけど?

6.

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翌朝。
私は早起きしてお弁当を作っていた。
特に理由はないのだが、母が今日は午後休取ったので作らないというので。
なら、自分の分を作るついでに網代さんの分も作ってお昼誘ったらいいかなー、なんて思う。

「おはよう、イッチー」

出社したらすでに網代さんは来ていた。

「おはようございます、網代さん」

「ん」

傍に行って出された手を、わけがわからなくて見つめる。

「昨日の分、領収書もらってきてるだろ?
出せ」

「へ?」

これはもしかして、経費処理してくれるというんだろうか。
ということは彼の中で昨日の木村さんとのデートは、仕事として片付けられている?

「え、もらってきてないですけど……。
ていうか、木村さんが全部払ってくれましたし」

「ふーん、そうか」

感想はそれだけなのかとも思うが、相手はあの網代さんなのだ。
過剰な期待をしてはダメだ。

「あ、あの!
今日、網代さんの分もお弁当作ってきたんです。
よかったらお昼、一緒に食べませんか?」

持ってきたお弁当を証明するかのように少し上げてみせる。

「イッチーの弁当?
それは興味あるな」

右の頬を歪ませ、意地悪く網代さんはニヤリと笑った。

「……なんか酷いこと言われてる気がするんですが?」

「気のせいじゃないか?」

彼は涼しい顔をしているが、気のせいじゃないと思う。

仕事は特に問題なく進んでいく。
いまはある会社の、カフェテリアのデザインをしている。
まだ完成はしていないがrecontreが上手くいったので、これからはひとりで担当する案件を増やしてくれるそうだ。

お昼になり、網代さんを誘って休憩室に行く。

「たいしたものじゃないですが、どうぞ」

「ありがとう」

作ってきたお弁当を網代さんの前に置く。
お茶は弁当作ってきてくれたからと網代さんが買ってくれた。

「美味しそうだな」

お弁当の蓋を開け、眼鏡の奥で彼がにぱっと笑う。
それで胸の内がぽっと温かくなった。

今日のおかずは玉子焼きに人参とピーマンと豚肉を甘辛く炒めたの、それにほうれん草の胡麻和えと彩りのミニトマトだ。

「玉子焼き、好きなんだよな」

どきどきしながら網代さんが玉子焼きを食べるのを待つ。
彼はひとくちでそれを食べた。

「うん、美味しいな。
僕の好きな甘いやつだ」

とりあえず最低基準はクリアできたと安心して私も食べはじめる。

「昨日はどうだった?」

「あー……」

長く発し、箸を置く。

「……キス、されました」

……ちょっとくらい、嫌がって。

祈るような気持ちで適当に笑ってみせながら、網代さんの顔をうかがう。

「ふーん」

しかし網代さんの反応はいつもどおり、それだった。

……だよね。
網代さんだもの。

心の中でため息をつき、再び箸を持ち上げる。

「……ちょっとムカつくな」

「……え?」

少しいじけて俯いていたあたまが上がった。
網代さんはなんでもないように大きく口を開けてごはんを入れた。

「あれだな、妹に彼氏ができた兄の気持ち」

「……ああ」

やっぱり、恋愛感情ではないんだとがっかりしたものの、それでもどんな気持ちにしろ嫌な気持ちになってくれたのは彼にしては上出来では?

「額だったんですけどね。
でもなんか、嫌だったです」

「唇だろうと額だろうと関係ない。
今度会ったときに抗議してやる。
うちの和倉にセクハラ行為は困ります、って」

〝うちの〟が〝僕の〟だったら最高なんだけどなー、なんていうのはごはんと一緒に飲み込んだ。

「お願いします」

「うん」

網代さんは恋ができない。
恋愛感情なんて持てない。
それでも私に家族のような愛情を抱いてくれるなら、それは幸せと言うんじゃないのかな。
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