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第4章 幸せになる後ろめたさ
4.図書館のような家
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十分も歩かずにオランウータンさんの家に着いた。
「おおーい、アレク、いるかー!?」
「いるから大きな声を出すな、この阿呆ライオンが!」
レオンが呼びかけるのとほぼ同時にドアが開いた。
中から出てきたオランウータンは眼鏡をかけており、学者っぽい。
彼はレオンと一緒に立っている私の、あたまのてっぺんからつま先まで視線を往復させたあと、はぁーっと大きなため息をついた。
「……入れ」
小さく呟き、彼はさっさと家の中へと入っていく。
「おう、邪魔するな」
「……おじゃま、します」
いまさらながら、人間ごとに私が初めましての獣のお宅にお邪魔してもいいんだろうか。
けれどレオンはまったく気にしていないようで、伴われて一緒に家に入る。
「うわーっ」
中に一歩入って驚いた。
そこはまるで小さな図書館のように、書棚が理路整然と並んでいた。
「凄いだろ?」
なぜかドヤ顔のレオンに、うん、うん、と何度も頷く。
ここはまさしく、私の理想の家といった感じだ。
「それで、なんの用?
人間なんか連れて」
唯一置かれている、応接セットのソファーにオランウータンがどさっと座る。
「ああ、紹介するな。
俺の助手のチハル。
チハル、俺の友人のアレク、アレキサンダーだ」
「……友人じゃない。
ただの腐れ縁だ」
はぁーっ、とオランウータン――アレクさんの口から陰鬱なため息が落ちていく。
「えっと。
チハル、です。
よろしくお願いします」
「……人間によろしくされたって嬉しくないね」
また、はぁーっとため息が落ちる。
レオンはさっきからここに座れと自分の隣をとんとんしているが、それすらも悩む。
「チハル」
とうとう、しびれを切らしたレオンさんが私の腕を引っ張り、同じソファーへ座らせる。
それを見てアレクさんの口から、ちっ、と舌打ちが漏れた。
「……レオン。
そんな乱雑に人間の腕を引っ張ったら、千切れるだろ?」
「うっ」
途端に、ぱっ、と私の腕を掴んでいたレオンの手が離れる。
「ち、力加減は気をつけているから大丈夫だ」
「どうだか。
アンジーの腕を千切ったの、忘れてないよね?」
「うっ。
あ、あれは子供の頃の話だろ。
もういい大人なんだからそれくらい、できる」
「そーですか」
アレクさんは完全に、レオンを小馬鹿にしている感じだが、この二匹の関係ってなんなんだろう。
「それで?
今日はなんの用?
僕に人間の奴隷を見せに来ただけじゃないだろ?」
ソファーの背に腕を置き、指先でこめかみを押さえているアレクさんはなんだか、偉そうだ。
「チハルは奴隷じゃない。
対等な俺の助手だ」
「はいはい、もうレオンの人間対等主義は聞き飽きた」
ふぁーぁ、なんてわざとらしくあくびをし、アレクさんは近くにあった本を手に取った。
「僕は忙しいんだよね。
用がないなら帰ってくれる?」
とうとう、私たちを無視してページを捲りはじめる。
私が人間だからというのを差し引いても、失礼な獣だ。
「ああ。
チハルに本を貸してやってほしいんだ」
「……は?」
顔を上げたアレクさんの手から本が落ち、ごとっ、と重い音を立てた。
その音で我に返ったのか慌てて本を拾い、彼は傷がついていないか確かめている。
「本を?
その人間のメスに?」
異常がなかったのかほっと息をつきながら、本を元の場所へ積んだアレクさんは、まじまじと私を見た。
「ああ」
「人間が本なんてどうするんだ?
食べるのか?」
「さすがに食ったりはしないだろ」
すました顔でレオンがツッコむ。
あー、でも、食べないは保証できないかも……。
嘘か本当かわからないけど、革靴はいざというときの非常食になるらしいし、なら羊皮紙の本なら食べられるかもしれない。
あ、いや、そもそもにおいてこの世界では、羊の皮である羊皮紙は存在しないのか?
「食わないならどうするんだ?」
「読むに決まってるだろ」
レオンの答えにアレクさんは盛んに首を捻っている。
「本を読む?
この人間のメスが?」
彼の疑問はもっともだ。
レオンの助手をしていてわかったが、この世界では獣人ですら読み書きがおぼつかないものも少なくない。
獣人でこれなら、最下層の人間が文字が読めるなんて思わないだろう。
現に、私がレオンの元で普通に働けているのを見て、大抵の獣は驚く。
「そうだ。
チハルは文字が読めるし計算もできる。
しかもかけ算、割り算もだ。
文字は書けなかったが、教えたら覚えたしな」
レオンは酷く、自慢げだ。
「いやいや。
計算ができるのは置いておいて、文字が読めるのと本が読めるのは別の問題だろ?」
興奮しているのか、アレクさんの腰が半ば、浮く。
「チハルはうちにある本を読んで、ちゃんと内容も理解しているが?」
「これは驚いた」
とすっ、と腰が抜けたかのようにアレクさんはソファーへ再び座った。
「本を読む人間なんて初めてだ」
「だろ?
チハルはいろいろ、面白いんだ」
ごろごろと喉の奥を鳴らしておかしそうにレオンが笑う。
確かに私はこの世界の人間としては規格外だけどね。
「うん。
なんか僕も興味が出てきたから、特別に本を貸してやってもいい」
「ほんとですか!?」
近くにあった紙へ、アレクさんは猛烈な勢いでなにかを書き込んでいる。
ちらりと見たら、【人間に文字が読める?】【突然変異か?】とか書いてあって、苦笑いしかできない。
「ああ。
ただし、絶対に汚すなよ!」
顔を上げてびしっ!と私を指さしてそれだけ言い、あとは邪魔だといわんばかりに手を振ってまた、書き物に集中している。
「ありがとうございます!」
あたまを下げて勢いよく立ち上がった。
「よかったな、チハル」
「はい。
その、本を選んできていいですか?」
「ああ。
そのあいだに台所を借りてお茶を淹れてくる。
……いいよな、アレク?」
勝手にしろ、なのか顔も上げずにアレクさんは邪険に手を振った。
それに苦笑いしつつ、レオンは台所へ向かい、私は書棚と向きあう。
「うわぁーっ、凄い……!」
読みたい神話関係はもちろん、ラブロマンスなんてものまである。
「迷っちゃうな……」
泊まり込んで何日も読んでいたいところだが、さすがにそれはできない。
借りて帰るなら、二、三冊といったところか。
手近なところから本を開き、吟味に入ったんだけど……。
「おおーい、アレク、いるかー!?」
「いるから大きな声を出すな、この阿呆ライオンが!」
レオンが呼びかけるのとほぼ同時にドアが開いた。
中から出てきたオランウータンは眼鏡をかけており、学者っぽい。
彼はレオンと一緒に立っている私の、あたまのてっぺんからつま先まで視線を往復させたあと、はぁーっと大きなため息をついた。
「……入れ」
小さく呟き、彼はさっさと家の中へと入っていく。
「おう、邪魔するな」
「……おじゃま、します」
いまさらながら、人間ごとに私が初めましての獣のお宅にお邪魔してもいいんだろうか。
けれどレオンはまったく気にしていないようで、伴われて一緒に家に入る。
「うわーっ」
中に一歩入って驚いた。
そこはまるで小さな図書館のように、書棚が理路整然と並んでいた。
「凄いだろ?」
なぜかドヤ顔のレオンに、うん、うん、と何度も頷く。
ここはまさしく、私の理想の家といった感じだ。
「それで、なんの用?
人間なんか連れて」
唯一置かれている、応接セットのソファーにオランウータンがどさっと座る。
「ああ、紹介するな。
俺の助手のチハル。
チハル、俺の友人のアレク、アレキサンダーだ」
「……友人じゃない。
ただの腐れ縁だ」
はぁーっ、とオランウータン――アレクさんの口から陰鬱なため息が落ちていく。
「えっと。
チハル、です。
よろしくお願いします」
「……人間によろしくされたって嬉しくないね」
また、はぁーっとため息が落ちる。
レオンはさっきからここに座れと自分の隣をとんとんしているが、それすらも悩む。
「チハル」
とうとう、しびれを切らしたレオンさんが私の腕を引っ張り、同じソファーへ座らせる。
それを見てアレクさんの口から、ちっ、と舌打ちが漏れた。
「……レオン。
そんな乱雑に人間の腕を引っ張ったら、千切れるだろ?」
「うっ」
途端に、ぱっ、と私の腕を掴んでいたレオンの手が離れる。
「ち、力加減は気をつけているから大丈夫だ」
「どうだか。
アンジーの腕を千切ったの、忘れてないよね?」
「うっ。
あ、あれは子供の頃の話だろ。
もういい大人なんだからそれくらい、できる」
「そーですか」
アレクさんは完全に、レオンを小馬鹿にしている感じだが、この二匹の関係ってなんなんだろう。
「それで?
今日はなんの用?
僕に人間の奴隷を見せに来ただけじゃないだろ?」
ソファーの背に腕を置き、指先でこめかみを押さえているアレクさんはなんだか、偉そうだ。
「チハルは奴隷じゃない。
対等な俺の助手だ」
「はいはい、もうレオンの人間対等主義は聞き飽きた」
ふぁーぁ、なんてわざとらしくあくびをし、アレクさんは近くにあった本を手に取った。
「僕は忙しいんだよね。
用がないなら帰ってくれる?」
とうとう、私たちを無視してページを捲りはじめる。
私が人間だからというのを差し引いても、失礼な獣だ。
「ああ。
チハルに本を貸してやってほしいんだ」
「……は?」
顔を上げたアレクさんの手から本が落ち、ごとっ、と重い音を立てた。
その音で我に返ったのか慌てて本を拾い、彼は傷がついていないか確かめている。
「本を?
その人間のメスに?」
異常がなかったのかほっと息をつきながら、本を元の場所へ積んだアレクさんは、まじまじと私を見た。
「ああ」
「人間が本なんてどうするんだ?
食べるのか?」
「さすがに食ったりはしないだろ」
すました顔でレオンがツッコむ。
あー、でも、食べないは保証できないかも……。
嘘か本当かわからないけど、革靴はいざというときの非常食になるらしいし、なら羊皮紙の本なら食べられるかもしれない。
あ、いや、そもそもにおいてこの世界では、羊の皮である羊皮紙は存在しないのか?
「食わないならどうするんだ?」
「読むに決まってるだろ」
レオンの答えにアレクさんは盛んに首を捻っている。
「本を読む?
この人間のメスが?」
彼の疑問はもっともだ。
レオンの助手をしていてわかったが、この世界では獣人ですら読み書きがおぼつかないものも少なくない。
獣人でこれなら、最下層の人間が文字が読めるなんて思わないだろう。
現に、私がレオンの元で普通に働けているのを見て、大抵の獣は驚く。
「そうだ。
チハルは文字が読めるし計算もできる。
しかもかけ算、割り算もだ。
文字は書けなかったが、教えたら覚えたしな」
レオンは酷く、自慢げだ。
「いやいや。
計算ができるのは置いておいて、文字が読めるのと本が読めるのは別の問題だろ?」
興奮しているのか、アレクさんの腰が半ば、浮く。
「チハルはうちにある本を読んで、ちゃんと内容も理解しているが?」
「これは驚いた」
とすっ、と腰が抜けたかのようにアレクさんはソファーへ再び座った。
「本を読む人間なんて初めてだ」
「だろ?
チハルはいろいろ、面白いんだ」
ごろごろと喉の奥を鳴らしておかしそうにレオンが笑う。
確かに私はこの世界の人間としては規格外だけどね。
「うん。
なんか僕も興味が出てきたから、特別に本を貸してやってもいい」
「ほんとですか!?」
近くにあった紙へ、アレクさんは猛烈な勢いでなにかを書き込んでいる。
ちらりと見たら、【人間に文字が読める?】【突然変異か?】とか書いてあって、苦笑いしかできない。
「ああ。
ただし、絶対に汚すなよ!」
顔を上げてびしっ!と私を指さしてそれだけ言い、あとは邪魔だといわんばかりに手を振ってまた、書き物に集中している。
「ありがとうございます!」
あたまを下げて勢いよく立ち上がった。
「よかったな、チハル」
「はい。
その、本を選んできていいですか?」
「ああ。
そのあいだに台所を借りてお茶を淹れてくる。
……いいよな、アレク?」
勝手にしろ、なのか顔も上げずにアレクさんは邪険に手を振った。
それに苦笑いしつつ、レオンは台所へ向かい、私は書棚と向きあう。
「うわぁーっ、凄い……!」
読みたい神話関係はもちろん、ラブロマンスなんてものまである。
「迷っちゃうな……」
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