いつかあなたに食べられる日まで~元社畜女子はもふもふに癒やされる~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

文字の大きさ
24 / 60
第5章 病めるときも健やかなるときも *

4.肉食獣と関係を持つ、危険

しおりを挟む
「……はぁーっ」

食事をしながらため息が漏れる。
ここ数日、レオンは一緒に食わない方がいいからと仕事場で食事をしている。

「わかるん、だけど……」

アプリコットさんから聞いた話は、かなり衝撃的だった。
発情した肉食獣が我を忘れ、力加減ができずに相手に傷をつける……は、想定の範囲内だ。
レオンもそうだったんだろうし。
それで手足が欠損することもある、というのはちょっと怖かったけど。
でも、それ以上に。

「食べてしまいたくなる、か……」

興奮によっていつもは奥深くに眠っている本能が呼び起こされるのか、相手の草食獣を食べたくなる。
アプリコットさんのあの傷も昔、捕食衝動に襲われたコヨーテの彼氏に食いちぎられたそうだ。
なら、肉食獣が怖くないのかと聞いたけれど。

『それだけ私を愛してくれていたってことだから。
それにそのあと、自ら命を絶とうとするほど、私を傷つけたことを後悔していた。
そんな獣を嫌いになれないよ』

そんなことが言えるアプリコットさんは、強いと思う。
それでもさすがに、もう肉食獣とは恋愛をしようとは思わないとも言っていたけど。
それにこの傷じゃもう、誰からも愛されないから、なんて笑っていたのにはどう慰めていいのかわからなかった。

「あーもー」

その危険に気づいたからか、レオンは私と距離を取っている。
まだきちんと、お互いの気持ちすら確認もしていないのに。

「でも、食べられるのはなー」

手足の欠損まではまだいい。
それはそういう状態じゃなくてもちょっとした事故で、よくあるらしいし。
なのでちゃんとした医者にかかれば、治癒魔法で簡単にくっつくそうだ。
なら、問題はあまりない。

……いや、痛いのは嫌だけどね。

「うー」

しかし食べられるのは完全に、命の危機だ。
アプリコットさんは、元彼が彼女の肉をひとくち飲み込んだところで我に返ったので一命を取り留めたようだけど、それは運がいい方だという。
ここでは肉食獣と草食獣の恋人間食殺は珍しくない。
といってもそのカップル自体が少ないので必然、食殺も少ないんだけど。

「ごちそうさま」

食器を下げてきたレオンと目があった。
でも、すぐに逸らして流しに食器を置き、仕事場に戻ろうとする。

「レオン、仕事のお手伝いすることはないですか」

ぴた、と足を止めた彼の尻尾は完全に垂れ下がっている。

「……当分、いい」

それだけ言ってすごすごと仕事場へ行ってしまった。

「……はぁーっ」

目すらあわせてくれない彼に、でっかいため息が落ちる。
あれからもう一週間近くがたとうとしており、傷もすっかり癒えた。
しかもアプリコットさんの手当てがよくて痕すら残っていない。

「……もう気にすることないんですよ」

することもないので食器を洗う。
そうだ、モウの肉があるからあれで、シチューとか作ったら喜んでくれないかな?
ちなみにモウという魔獣の肉は牛に似た味がして、ブウという名の魔獣は豚に似た味がする。

煮込み料理は煮込んだ時間だけ美味しくなるので、早速、準備をはじめる。

「チハルー、木の実のケーキを焼いたから持ってきてやったわよ!」

そのうち、ノックもなしにアプリコットさんが勢いよく裏口を開けるのはいつものことだ。

「ありがとうございます。
いま、お茶を淹れますね」

「おねがーい」

もうすでに彼女は、椅子によじ登って座っている。
清々しいばかりに勝手気ままで、返って羨ましい。

「レオンはー?」

淹れたお茶を彼女の前に置く。

「……仕事場にこもって、滅多に出てきません」

お茶を飲みながらまた、はぁーっとため息が落ちる。

「いつまでいじけてるんだか。
……よいしょっ」

椅子を飛び降りた彼女は、……勢いよく、仕事場へのドアをノックしはじめた。

「レオーン、レオーン!
いるんでしょ!」

「うるさい!
来客中だ!」

バン! と勢いよく開いたドアの向こうには、苦笑いの狐の親子が見えた。

「えー、お客とチハルの今後、どっちが大事だと思ってるの?」

いやそれは当然、お客でしょ?
と思ったものの。

「……少し待て」

今度は静かに、バタンとドアが閉められる。

「ダメですよ、アプリコットさん。
仕事の邪魔しちゃ」

「チハル、なに言ってるの?
好きなメスより優先しなきゃいけないことなんてないわ」

すました顔で椅子に座り直し、アプリコットさんはお茶を飲んでいるけれど……そうなのか?
仕事より大事なことなんてないと思うけど。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お嫁さんを探しに来たぼくは、シロクマ獣人の隊長さんと暮らすことになりました!

能登原あめ
恋愛
※ 本編完結後よりR18、ラブコメです。NLです。  ジョゼフはばあちゃんが亡くなってからの四年の間、一人で山奥に暮らしていた。  話し相手は時々やってくる行商人のじいちゃんだけ。   『ばあちゃんと、約束したんだ。十八歳になって成人したら街へ行くって。可愛いお嫁さんをみつけたい。それまではここで過ごすよ』  そうしてとうとう誕生日を迎えた。 『ぼく、大丈夫! だって男の子だから。大人になったら自己責任で冒険していいってばあちゃんが言ってた』  リュックを背負い山を降りたが、さっそくトラブルに巻き込まれる。  そこに現れたのがシロクマ獣人の警備隊長ロイクだった。  人里離れた山奥で男として育てられ、祖母が打ち明ける前に先立ってしまい、そのまま男だと思い込んでいる女の子が主役です。  そのためヒーローが振り回されます。   * 20話位+R(5話程度、R回は※つき) * コメント欄はネタバレ配慮していないのでお気をつけ下さい。 * 表紙はCanva様で作成した画像を使用しております。    

数合わせから始まる俺様の独占欲

日矩 凛太郎
恋愛
アラサーで仕事一筋、恋愛経験ほぼゼロの浅見結(あさみゆい)。 見た目は地味で控えめ、社内では「婚期遅れのお局」と陰口を叩かれながらも、仕事だけは誰にも負けないと自負していた。 そんな彼女が、ある日突然「合コンに来てよ!」と同僚の女性たちに誘われる。 正直乗り気ではなかったが、数合わせのためと割り切って参加することに。 しかし、その場で出会ったのは、俺様気質で圧倒的な存在感を放つイケメン男性。 彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。 仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~ その後

菱沼あゆ
恋愛
その後のみんなの日記です。

Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】

remo
恋愛
「…溶けろよ」 甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。 本宮 のい。新社会人1年目。 永遠に出来そうもない彼氏を夢見つつ、目の前の仕事に奮闘中。 なんだけど。 青井 奏。 高校時代の同級生に再会した。 と思う間もなく、 和泉 碧。 初恋の相手らしき人も現れた。 幸せの青い鳥は一体どこに。 【完結】 ありがとうございました‼︎

もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~

泉南佳那
恋愛
 イケメンカリスマ美容師と内気で地味な書店員との、甘々溺愛ストーリーです!  どうぞお楽しみいただけますように。 〈あらすじ〉  加藤優紀は、現在、25歳の書店員。  東京の中心部ながら、昭和味たっぷりの裏町に位置する「高木書店」という名の本屋を、祖母とふたりで切り盛りしている。  彼女が高木書店で働きはじめたのは、3年ほど前から。  短大卒業後、不動産会社で営業事務をしていたが、同期の、親会社の重役令嬢からいじめに近い嫌がらせを受け、逃げるように会社を辞めた過去があった。  そのことは優紀の心に小さいながらも深い傷をつけた。  人付き合いを恐れるようになった優紀は、それ以来、つぶれかけの本屋で人の目につかない質素な生活に安んじていた。  一方、高木書店の目と鼻の先に、優紀の兄の幼なじみで、大企業の社長令息にしてカリスマ美容師の香坂玲伊が〈リインカネーション〉という総合ビューティーサロンを経営していた。  玲伊は優紀より4歳年上の29歳。  優紀も、兄とともに玲伊と一緒に遊んだ幼なじみであった。  店が近いこともあり、玲伊はしょっちゅう、優紀の本屋に顔を出していた。    子供のころから、かっこよくて優しかった玲伊は、優紀の初恋の人。  その気持ちは今もまったく変わっていなかったが、しがない書店員の自分が、カリスマ美容師にして御曹司の彼に釣り合うはずがないと、その恋心に蓋をしていた。  そんなある日、優紀は玲伊に「自分の店に来て」言われる。  優紀が〈リインカネーション〉を訪れると、人気のファッション誌『KALEN』の編集者が待っていた。  そして「シンデレラ・プロジェクト」のモデルをしてほしいと依頼される。 「シンデレラ・プロジェクト」とは、玲伊の店の1周年記念の企画で、〈リインカネーション〉のすべての施設を使い、2~3カ月でモデルの女性を美しく変身させ、それを雑誌の連載記事として掲載するというもの。  優紀は固辞したが、玲伊の熱心な誘いに負け、最終的に引き受けることとなる。  はじめての経験に戸惑いながらも、超一流の施術に心が満たされていく優紀。  そして、玲伊への恋心はいっそう募ってゆく。  玲伊はとても優しいが、それは親友の妹だから。  そんな切ない気持ちを抱えていた。  プロジェクトがはじまり、ひと月が過ぎた。  書店の仕事と〈リインカネーション〉の施術という二重生活に慣れてきた矢先、大問題が発生する。  突然、編集部に上層部から横やりが入り、優紀は「シンデレラ・プロジェクト」のモデルを下ろされることになった。  残念に思いながらも、やはり夢でしかなかったのだとあきらめる優紀だったが、そんなとき、玲伊から呼び出しを受けて……

DEEP FRENCH KISS

名古屋ゆりあ
恋愛
一夜を過ごしたそのお相手は、 「君を食べちゃいたいよ」 就職先の社長でした 「私は食べ物じゃありません!」 再会したその日から、 社長の猛攻撃が止まりません!

皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる

若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ! 数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。 跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。 両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。 ――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう! エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。 彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。 ――結婚の約束、しただろう? 昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。 (わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?) 記憶がない。記憶にない。 姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない! 都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。 若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。 後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。 (そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?) ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。 エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。 だから。 この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し? 弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに? ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

処理中です...