いつかあなたに食べられる日まで~元社畜女子はもふもふに癒やされる~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第7章 郊外にある村 *

2.バルドゥルおじさん

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再び馬車だまりへ行こうとしたら、声をかけられた。

「レオン?
レオンハルトじゃないか!」

振り返った先には、いかにも紳士なライオンがいた。

「これはバルドゥルおじさん!」

二匹は抱きあって背中をバンバン叩きあっているが……お知り合い、なのかな?

「チハル、紹介するな。
遠縁のバルドゥルおじさんだ」

「こんにちは、お嬢さん」

レオンからごく自然に私を紹介されたモノクルのライオンさんは、優雅に私へお辞儀をした。

「おじさん。
俺の、かっ、家族の!
チハル、です」

「……はじめ、まして」

家族、と言うときのレオンの声は完全に裏返っていた。

「奴隷じゃないのか」

彼もレオンをバカにするのかと思ったものの。

「だから。
チハルは俺の家族です」

「家族か。
昔からお前の考えることはちっともわからないな」

ライオンさん――バルドゥルさんは喉の奥をごろごろ鳴らしながら笑っている。
それは呆れるような否定的なものではなく、肯定的に面白がっているようだった。

「それにしても、おじさんが街に出てくるなんて珍しいですね」

「ああ。
奴隷を買いにきたんだ」

バルドゥルさんがステッキでさした先には、七、八人の人間がいた。
乗せられているのは獣用の馬車よりはずっと簡素とはいえ、檻ではない。
屋根はないけど。

「ああ、そういうことですか」

レオンの声に、軽蔑するような色はない。
それよりも尊敬の方が深そうだ。

「レオンハルトこそなにをやっていたんだ?」

「あー。
チハルと街の外へ出掛けようと思ったんですが、馬車に全部、断られてしまって……」

は、ははは、とレオンの口から乾いた笑いが落ちた。

「……彼女を連れているからか」

不快そうにバルドゥルさんの鼻に皺が寄る。
なぜか私に友好的なように見えたけれど、本当はやはり下賤な人間と思っているんだろうか。

「……はい」

がっくりとレオンの、肩も尻尾も落ちる。
耳まで情けなく、ぺたんと倒されていた。

「……なんだ、それは」

低く、唸り声が聞こえた。
バルドゥルさんの尻尾は、大きく左右に振られている。

「人間が一緒だから乗せない!?
どこまで人間を貶せば気が済むんだ!」

とうとうバルドゥルさんが吠え、周りの視線が集まった。

「おじさん、落ち着いて」

「ああ、すまん」

レオンに声をかけられ、彼は我に返ったようだ。
小さく咳払いして気持ちを切り替え、私の手を取ってくる。

「お嬢さん。
このたびは大変、申し訳なかった」

「え……。
いえ、そんな」

まさか、詫びられるなんて思ってもいなかった。
私のために怒ってくれたのですら、意外だったのに。

「いろいろ働きかけてはいるのですが、依然、人間差別は続く一方です。
本当に嘆かわしい」

バルドゥルさんは本気で、人間差別を嘆いているようだった。

「おじさんは人間を差別するのはおかしいと、考えている獣なんだ」

「はい。
人間は魔法が使えないだけで我々と同じ二本足の獣です。
なのにどうして、差別などしないといけないのでしょう?」

レオン以外にも人間を差別するべきじゃないなんて考えの獣がいるのだと驚いた。
アプリコットさんやレオンの元をよく訪れる獣は確かに、私に友好的だ。
けれど人間全体になると違う。
さすがに闇肉は否定的だが、奴隷は当たり前だと思っている。
まさか、レオン以外にもいるなんて。
いや、親戚だからなのか?

「あの、その。
……ありがとう、ございます」

私が人間代表みたいにお礼を言うのはおかしいとわかっている。
それでも、彼にお礼を言いたかった。

「いえ。
私にできることなんてほんの僅かです」

私に詫びるバルドゥルさんの目は、深い悲しみに満ちていた。
レオンやバルドゥルさんがいる。
彼らがいればそのうち、人間が食べられるなんてこともなくなるのだろうか。

「それで。
乗せてくれる馬車がないんだったな」

「そうなんですよ……」

はぁーっ、とレオンの口からため息が落ちていく。

「なら、乗っていくか?
ちょうど村に帰るところだ」

バルドゥルさんが軽く顎でさした先には、馬車だまりにいた乗合馬車よりももっと立派な馬車が停まっていた。

「いいんですか!?」

「ああ、かまわない」

話は決まり、って感じだけど、人間ごときの私があんなに立派な馬車に乗っていいんでしょうか……?
遠慮する私をよそに、レオンがぽーんと放り込むように私を馬車に乗せる。

「助かりました、おじさん」

「いや、別にかまわないさ」

私は戸惑っているのに、はっはっはー、なんて二匹のライオンは爽やかに笑いあっていた。
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