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第7章 郊外にある村 *
3.人間が多く暮らす村
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馬車に乗ってすぐに、首輪を外してくれた。
バルドゥルさんとなら必要ないからって。
レオンとバルドゥルさんは楽しそうに、近状報告なんてしている。
「お嬢さんの服は古着か?」
バルドゥルさんの視線が私へと向かう。
「ああ。
知り合いのうさぎがくれたんです」
ミレニーさんに作ってもらった服もあるが、今日はアプリコットさんのお古だ。
ここには既製服などなくフルオーダーしかないけれど、それでも高い。
もちろん、ミシンなんかなく手縫いだからだ。
なので市場に出る古着から、自分の体型にあったものを買うのが普通らしい。
そんなわけでミレニーさんに作ってもらった服は日常着にするには気が引けて、自分で特別な日、と決めた日だけ着ている。
「よく似合っているが、やはり少し無理があるな」
バルドゥルさんの指摘はもっともだ。
動くには支障がないけれど、塞いだとはいえ尻尾用のスリットとかあるし、やはり作りが少し違う。
「村で買っていけばいい。
いや、お近づきの印に私が準備しよう。
古着で悪いがな」
「いいんですか、おじさん!」
「ああ。
ついでに今日は、泊まっていけばいい」
「ありがとうございます!」
私を置いて話は勝手に進んでいく。
が、レオンが喜んでいるということは、私に悪い話じゃないのだろう。
「……その」
「……酔ったのか?」
それまで黙っていた私が口を開き、心配そうにレオンが顔をうかがう。
「それは、大丈夫です」
……お尻はかなり、痛いけど。
それでも強がって笑ってみせる。
「なら、なんだ?」
浮かせた腰を、レオンは元へ戻した。
「えっと、ですね。
……あの人たちはどうなるんですか?」
進行方向とは逆向きに座っているため、後ろを走っている人間たちが乗る馬車がちらちらと視界に入る。
奴隷を買った、と言っていた。
けれどバルドゥルさんがそんなふうに人間を扱うようには見えない。
「気になりますか」
「……はい」
失礼な質問だとは思う。
けれど、彼らの今後がそれなりに心配だ。
「そうですよね。
……彼らには私の村で働いてもらいます」
「……!」
瞬間、出そうになった声はどうにか抑え込んだ。
私を一緒の馬車に乗せるなど、彼は人間に理解があるのだと思っていた。
でも本当は違ったんだろうか。
「チハル、違うんだ」
悔しくて俯いた私の手を、レオンがそっと握る。
違うって、なにが?
労働力として買ったんでしょ?
この人たちを社畜時代の私みたいに……。
「確かに彼らにはおじさんの村で働いてもらう。
けれどその対価として、獣並みの生活を保障しているんだ」
「十二分にできているとは言えません。
彼らの自由は私の村の中でしか保証されないのですから」
バルドゥルさんが申し訳なさそうに目を伏せる。
私はブラック企業を想像していたが、もしかしてホワイト企業ってことなんだろうか。
「言葉だけで説明して信じろ、っていう方が無理だよな。
実際に見た方が早い。
……もう、村に着く」
気づけば道の回りは畑になっていた。
作業をしている人もいる。
まるで落ち穂拾いなんかの、西洋名画で見るような景色。
……うん。
だって、そこにいる人たちは例の貫頭衣ではなく、獣たちと同じ服を着ていた。
馬車に気づき、彼らが作業の手を止めてあたまを下げる。
「……え?」
そのうち、馬車は村へと入っていく。
家々は最初に見た、燃えていた村よりもずっと立派で、街にある家よりは質素であるけれど、村であることを考慮すればたぶん獣人たちが暮らす家と変わりないのだろう。
「これはバルドゥル様、おかえりなさいませ」
村の中に入り、視察も兼ねているのか馬車はゆっくりになった。
目を留めた人間がごく自然に声をかけてくる。
「新入りを連れてきたから、あとで頼むな」
「はい、かしこまりました」
「あ、バルドゥル様!」
「バルドゥル様だ!」
少し馬車を止めた隙に、あっというまに人垣ができた。
「採れたての果物です。
どうぞ!」
「美味しいワインができたんで、ぜひバルドゥル様に飲んでいただきたく!」
「バルドゥル様。
昨晩、子供が無事に生まれました!
ぜひ、名前をつけていただきたく!」
「おお、そうか!」
ひとりの男の声で、とうとうバルドゥルさんは馬車を降りてしまった。
「少し寄るところができてしまった。
お前たちは先に、我が家へ行っていてくれ」
馭者に合図し、彼が馬車を出させる。
「……バルドゥルさんって、人気者なんですね」
あんなに人間に慕われている獣がいるだなんて知らなかった。
それにここの人たちは目がキラキラしていて、とても生き生きしている。
「おじさんは俺が尊敬する獣だからな」
レオンの顔はとても、誇らしげだった。
バルドゥルさんのお宅はさすが領主らしく、簡素ながらも城だった。
「すまん、すまん。
遅くなって」
通された客間でお手伝いの方が淹れてくれたお茶を飲んでいたら、腕いっぱいにいろいろ抱えてバルドゥルさんが帰ってきた。
いや、どうも抱えきれてないみたいで、ぽろぽろ落ちているけど。
「どこか、出掛ける予定だったんだろ」
野菜やら果物やらをお手伝いさんに渡し、バルドゥルさんはソファーにどさっと座った。
お手伝いさんは人間と猫さんだ。
「あー……、明日にします。
それよりもチハルに村の中を案内してもいいですか」
少し考えたあと、レオンがカップをソーサーへと戻す。
そういえばレオンは、私をどこへ連れていく気なんだろう?
ここかと思ったけれど、どうも違うみたいだし。
「ああ、かまわない。
その前に、腹が減ってるだろ?
食事に……」
「いえ。
準備してきているんで。
すみません」
お手伝いさんに命じようとしていたバルドゥルさんは、残念そうだ。
「夜はごちそうになりますので、期待しています」
「そうか!」
レオンの言葉で一気に、バルドゥルさんが上機嫌になる。
もしかしておもてなし好きな方なのかな。
バルドゥルさんとなら必要ないからって。
レオンとバルドゥルさんは楽しそうに、近状報告なんてしている。
「お嬢さんの服は古着か?」
バルドゥルさんの視線が私へと向かう。
「ああ。
知り合いのうさぎがくれたんです」
ミレニーさんに作ってもらった服もあるが、今日はアプリコットさんのお古だ。
ここには既製服などなくフルオーダーしかないけれど、それでも高い。
もちろん、ミシンなんかなく手縫いだからだ。
なので市場に出る古着から、自分の体型にあったものを買うのが普通らしい。
そんなわけでミレニーさんに作ってもらった服は日常着にするには気が引けて、自分で特別な日、と決めた日だけ着ている。
「よく似合っているが、やはり少し無理があるな」
バルドゥルさんの指摘はもっともだ。
動くには支障がないけれど、塞いだとはいえ尻尾用のスリットとかあるし、やはり作りが少し違う。
「村で買っていけばいい。
いや、お近づきの印に私が準備しよう。
古着で悪いがな」
「いいんですか、おじさん!」
「ああ。
ついでに今日は、泊まっていけばいい」
「ありがとうございます!」
私を置いて話は勝手に進んでいく。
が、レオンが喜んでいるということは、私に悪い話じゃないのだろう。
「……その」
「……酔ったのか?」
それまで黙っていた私が口を開き、心配そうにレオンが顔をうかがう。
「それは、大丈夫です」
……お尻はかなり、痛いけど。
それでも強がって笑ってみせる。
「なら、なんだ?」
浮かせた腰を、レオンは元へ戻した。
「えっと、ですね。
……あの人たちはどうなるんですか?」
進行方向とは逆向きに座っているため、後ろを走っている人間たちが乗る馬車がちらちらと視界に入る。
奴隷を買った、と言っていた。
けれどバルドゥルさんがそんなふうに人間を扱うようには見えない。
「気になりますか」
「……はい」
失礼な質問だとは思う。
けれど、彼らの今後がそれなりに心配だ。
「そうですよね。
……彼らには私の村で働いてもらいます」
「……!」
瞬間、出そうになった声はどうにか抑え込んだ。
私を一緒の馬車に乗せるなど、彼は人間に理解があるのだと思っていた。
でも本当は違ったんだろうか。
「チハル、違うんだ」
悔しくて俯いた私の手を、レオンがそっと握る。
違うって、なにが?
労働力として買ったんでしょ?
この人たちを社畜時代の私みたいに……。
「確かに彼らにはおじさんの村で働いてもらう。
けれどその対価として、獣並みの生活を保障しているんだ」
「十二分にできているとは言えません。
彼らの自由は私の村の中でしか保証されないのですから」
バルドゥルさんが申し訳なさそうに目を伏せる。
私はブラック企業を想像していたが、もしかしてホワイト企業ってことなんだろうか。
「言葉だけで説明して信じろ、っていう方が無理だよな。
実際に見た方が早い。
……もう、村に着く」
気づけば道の回りは畑になっていた。
作業をしている人もいる。
まるで落ち穂拾いなんかの、西洋名画で見るような景色。
……うん。
だって、そこにいる人たちは例の貫頭衣ではなく、獣たちと同じ服を着ていた。
馬車に気づき、彼らが作業の手を止めてあたまを下げる。
「……え?」
そのうち、馬車は村へと入っていく。
家々は最初に見た、燃えていた村よりもずっと立派で、街にある家よりは質素であるけれど、村であることを考慮すればたぶん獣人たちが暮らす家と変わりないのだろう。
「これはバルドゥル様、おかえりなさいませ」
村の中に入り、視察も兼ねているのか馬車はゆっくりになった。
目を留めた人間がごく自然に声をかけてくる。
「新入りを連れてきたから、あとで頼むな」
「はい、かしこまりました」
「あ、バルドゥル様!」
「バルドゥル様だ!」
少し馬車を止めた隙に、あっというまに人垣ができた。
「採れたての果物です。
どうぞ!」
「美味しいワインができたんで、ぜひバルドゥル様に飲んでいただきたく!」
「バルドゥル様。
昨晩、子供が無事に生まれました!
ぜひ、名前をつけていただきたく!」
「おお、そうか!」
ひとりの男の声で、とうとうバルドゥルさんは馬車を降りてしまった。
「少し寄るところができてしまった。
お前たちは先に、我が家へ行っていてくれ」
馭者に合図し、彼が馬車を出させる。
「……バルドゥルさんって、人気者なんですね」
あんなに人間に慕われている獣がいるだなんて知らなかった。
それにここの人たちは目がキラキラしていて、とても生き生きしている。
「おじさんは俺が尊敬する獣だからな」
レオンの顔はとても、誇らしげだった。
バルドゥルさんのお宅はさすが領主らしく、簡素ながらも城だった。
「すまん、すまん。
遅くなって」
通された客間でお手伝いの方が淹れてくれたお茶を飲んでいたら、腕いっぱいにいろいろ抱えてバルドゥルさんが帰ってきた。
いや、どうも抱えきれてないみたいで、ぽろぽろ落ちているけど。
「どこか、出掛ける予定だったんだろ」
野菜やら果物やらをお手伝いさんに渡し、バルドゥルさんはソファーにどさっと座った。
お手伝いさんは人間と猫さんだ。
「あー……、明日にします。
それよりもチハルに村の中を案内してもいいですか」
少し考えたあと、レオンがカップをソーサーへと戻す。
そういえばレオンは、私をどこへ連れていく気なんだろう?
ここかと思ったけれど、どうも違うみたいだし。
「ああ、かまわない。
その前に、腹が減ってるだろ?
食事に……」
「いえ。
準備してきているんで。
すみません」
お手伝いさんに命じようとしていたバルドゥルさんは、残念そうだ。
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「そうか!」
レオンの言葉で一気に、バルドゥルさんが上機嫌になる。
もしかしておもてなし好きな方なのかな。
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