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第7章 郊外にある村 *
4.モウとブウ
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レオンと一緒に城を出る。
「こんにちはー」
「えっ、あ、……こんにちは」
ごく自然に、同じ年くらいの女性から声をかけられて思わず不審な行動を取ってしまう。
「なに、驚いてるんだ?」
「だ、だって」
ごろごろとおかしそうにレオンは笑っているが、仕方ないじゃない。
こっちに来て、まともに人間と言葉を交わしたのはたぶん、これが初めてだよ?
奴隷の檻の中では私がこの世界じゃない服を着ているせいもあって、仲間はずれだったし。
「こんにちはー」
「こんにちはー」
すれ違う人も獣も当たり前のように挨拶をしてくる。
人間と歩くレオンを卑下したり、怖がったりすることなく。
「いいところですね、ここ」
「そうだろ」
少し歩いて、小高い丘の上でレオンがハンカチを引いてくれた。
促されてその上に座る。
「この村でおじさんは、人間を差別しないしさせないからな」
「全部がこうだったらいいのに」
ここでは獣と人間が、普通に生活していた。
割合としては人間の方が多いのは、バルドゥルさんが保護してくるからかな。
……うん。
もう、バルドゥルさんは奴隷として人間を買っているのではなく、レオンが私を買ったのと同じで保護なんだと理解していた。
「そうだな。
……腹が減ってるだろ。
昼にしよう」
バッグからサンドイッチを取りだして、レオンが渡してくれる。
丘の下では人々が畑を耕す牧歌的な風景が見えた。
けれど。
「レオン。
あれ、なんですか?」
丘裾の方で、白黒の変な生き物が数匹、蠢いている。
牛サイズの、いうなれば毛の生えたウミウシみたいな?
色も白黒だし、それっぽい角というか触覚というかもある。
「あれがモウだ」
「あれが……」
あれなら食べても問題ないよね。
だってもう、何本って数える足じゃないし。
それに牛みたいな味がするのもなんか納得だ。
「モウはなにを食べるんですか」
「草だな」
よく見ればモウが通ったあとは草が短くなっていた。
どこに口があるんだかわかんないけど。
「おもしろーい」
あんな生き物が世の中にはいるんだ。
動きはちょっと、気持ち悪いけど。
「じゃあ、ブウは?
ブウは見られませんか?」
「ブウは放牧できないんだ。
あとで飼っているところへ連れていってやる」
おおっ、ブウも見られるんだ!
なんか興味、出てきたなー。
お昼ごはんのあとは小さいながら市場へ連れてきてくれた。
「わーっ」
野菜や果物、肉を売る店はもちろん、日用品や服を売る店だってある。
獣用もあるが、ほとんどが人間用だった。
「必要なものがあったら言ってくれ。
街では人間用のものはほとんど手に入らないからな」
うんうんと頷きながら、気になった。
「なんで人間用の服が、あれなんですか?」
店頭にかかっていた貫頭衣をさす。
ここでそれは、異彩を放っていた。
「布は高いからな、貧しい人間には買えない。
古着でもな。
自分たちで仕立てようにも、仕事に追われてそんな時間もない。
それで、獣が使い古したシーツやなんかを簡単に服にしている」
「……」
そこまでここでは人間は搾取されている。
さらになおかつ、奴隷として狩られ、食われることだってあるのだ。
「あとは差別だな。
そういう決まりはないが、無意識にみんな、人間はあれしか着てはいけないと思っているんだ。
俺たちと違うという証しとして」
なんでそんな差別をするのだろう。
この村では獣も人間も仲良く暮らしているのに。
……ううん。
元の世界では人間同士ですら、差別していた。
肌の色が違う、目の色が違う。
言葉が違う、宗教が違う。
……ほんの少し、人よりも作業が遅い。
興味があるものが変わっている。
同じ人間なのに、そんな些細な理由で差別はあった。
なら、魔法が使えないという決定的な差がある人間は差別されても仕方ないのでは?
そんな考えがあたまの隅を掠めていく。
「魔法が使えるとか使えないとか、些細な差に過ぎない。
人間はたまたま、魔法の実を食えなかっただけだ。
もしかしたらそれは、俺たちライオンだったかもしれん。
なのに、差別なんてしていいのか」
「……」
レオンの言葉が、ドスッ、と胸に刺さる。
私はいま、差別されても仕方ないとか考えた。
そんなはず、ないのに。
「……そうですね」
ぎゅっと手を握った私を、怪訝そうにレオンが見る。
「私、間違ってました」
「チハル?」
「私、レオンみたいな獣になりたいです」
とはいえ、なにができるかわからないけど。
とりあえず、人間だからとかいう卑屈な考えを捨てるところからはじめたい。
「チハルが俺みたいになったら困るだろ。
そ、そのままのチハルが、か、可愛いのに!」
ぽりぽりと顔を掻きながら、声を裏返らせるレオンがおかしい。
「えー、そうですか?」
「そ、そうだ!」
レオンはとても、素敵なライオンだ。
彼に買われてよかった。
「あ、そうだ。
買い物の前にブウを見にいくか」
いくつかお店を覗き、ああでもないこうでもないと悩んでいたら、唐突に訊かれた。
「荷物を持ってブウを見にいくのはあれだからな。
……またあとでくる」
「お待ちしてまーす」
店主の男に声をかけ、私の手を引いて歩きだす。
市場を出てさらにその奥、村はずれの建物からはブウブウとよく知った鳴き声が聞こえてきた。
……え?
まさか。
でもモウはそれなりに牛に似ていたし……。
興味津々に覗いたそこには、豚とは似ても似つかない生き物がいた。
「……これがブウですか?」
「そうだ」
レオンは頷くが、えーっ!
だってさ、毛も生えない、ピンクの丸い物体なんだよ、ほぼ。
大きさは豚くらいだけど。
モウは足らしきものはあったが、ブウにはそれすらない。
丸い物体がみっちり柵の中に詰まり、象の鼻のようなものをその前に置かれている桶に突っ込んで、灰色のなんだかぐちょぐちょしたものを吸い取って……いるんだろうね、たぶん。
しかもときどき、桶から口……でいいんだよね、が跳ねて、中のものをまき散らす。
荷物を持って見にこられない理由に納得だ。
「なんか思っていたのと全然違いました……」
口から吐きだす息がブウと鳴る。
こんなのもう、生物として存在していていいのかすら怪しい。
「そうか?
どんなのを想像していたんだ?」
「どんなのって……」
考えてみたけど、思い浮かばなかった。
けれど絶対、こんな肉団子じゃないとだけは断言できる。
「こんにちはー」
「えっ、あ、……こんにちは」
ごく自然に、同じ年くらいの女性から声をかけられて思わず不審な行動を取ってしまう。
「なに、驚いてるんだ?」
「だ、だって」
ごろごろとおかしそうにレオンは笑っているが、仕方ないじゃない。
こっちに来て、まともに人間と言葉を交わしたのはたぶん、これが初めてだよ?
奴隷の檻の中では私がこの世界じゃない服を着ているせいもあって、仲間はずれだったし。
「こんにちはー」
「こんにちはー」
すれ違う人も獣も当たり前のように挨拶をしてくる。
人間と歩くレオンを卑下したり、怖がったりすることなく。
「いいところですね、ここ」
「そうだろ」
少し歩いて、小高い丘の上でレオンがハンカチを引いてくれた。
促されてその上に座る。
「この村でおじさんは、人間を差別しないしさせないからな」
「全部がこうだったらいいのに」
ここでは獣と人間が、普通に生活していた。
割合としては人間の方が多いのは、バルドゥルさんが保護してくるからかな。
……うん。
もう、バルドゥルさんは奴隷として人間を買っているのではなく、レオンが私を買ったのと同じで保護なんだと理解していた。
「そうだな。
……腹が減ってるだろ。
昼にしよう」
バッグからサンドイッチを取りだして、レオンが渡してくれる。
丘の下では人々が畑を耕す牧歌的な風景が見えた。
けれど。
「レオン。
あれ、なんですか?」
丘裾の方で、白黒の変な生き物が数匹、蠢いている。
牛サイズの、いうなれば毛の生えたウミウシみたいな?
色も白黒だし、それっぽい角というか触覚というかもある。
「あれがモウだ」
「あれが……」
あれなら食べても問題ないよね。
だってもう、何本って数える足じゃないし。
それに牛みたいな味がするのもなんか納得だ。
「モウはなにを食べるんですか」
「草だな」
よく見ればモウが通ったあとは草が短くなっていた。
どこに口があるんだかわかんないけど。
「おもしろーい」
あんな生き物が世の中にはいるんだ。
動きはちょっと、気持ち悪いけど。
「じゃあ、ブウは?
ブウは見られませんか?」
「ブウは放牧できないんだ。
あとで飼っているところへ連れていってやる」
おおっ、ブウも見られるんだ!
なんか興味、出てきたなー。
お昼ごはんのあとは小さいながら市場へ連れてきてくれた。
「わーっ」
野菜や果物、肉を売る店はもちろん、日用品や服を売る店だってある。
獣用もあるが、ほとんどが人間用だった。
「必要なものがあったら言ってくれ。
街では人間用のものはほとんど手に入らないからな」
うんうんと頷きながら、気になった。
「なんで人間用の服が、あれなんですか?」
店頭にかかっていた貫頭衣をさす。
ここでそれは、異彩を放っていた。
「布は高いからな、貧しい人間には買えない。
古着でもな。
自分たちで仕立てようにも、仕事に追われてそんな時間もない。
それで、獣が使い古したシーツやなんかを簡単に服にしている」
「……」
そこまでここでは人間は搾取されている。
さらになおかつ、奴隷として狩られ、食われることだってあるのだ。
「あとは差別だな。
そういう決まりはないが、無意識にみんな、人間はあれしか着てはいけないと思っているんだ。
俺たちと違うという証しとして」
なんでそんな差別をするのだろう。
この村では獣も人間も仲良く暮らしているのに。
……ううん。
元の世界では人間同士ですら、差別していた。
肌の色が違う、目の色が違う。
言葉が違う、宗教が違う。
……ほんの少し、人よりも作業が遅い。
興味があるものが変わっている。
同じ人間なのに、そんな些細な理由で差別はあった。
なら、魔法が使えないという決定的な差がある人間は差別されても仕方ないのでは?
そんな考えがあたまの隅を掠めていく。
「魔法が使えるとか使えないとか、些細な差に過ぎない。
人間はたまたま、魔法の実を食えなかっただけだ。
もしかしたらそれは、俺たちライオンだったかもしれん。
なのに、差別なんてしていいのか」
「……」
レオンの言葉が、ドスッ、と胸に刺さる。
私はいま、差別されても仕方ないとか考えた。
そんなはず、ないのに。
「……そうですね」
ぎゅっと手を握った私を、怪訝そうにレオンが見る。
「私、間違ってました」
「チハル?」
「私、レオンみたいな獣になりたいです」
とはいえ、なにができるかわからないけど。
とりあえず、人間だからとかいう卑屈な考えを捨てるところからはじめたい。
「チハルが俺みたいになったら困るだろ。
そ、そのままのチハルが、か、可愛いのに!」
ぽりぽりと顔を掻きながら、声を裏返らせるレオンがおかしい。
「えー、そうですか?」
「そ、そうだ!」
レオンはとても、素敵なライオンだ。
彼に買われてよかった。
「あ、そうだ。
買い物の前にブウを見にいくか」
いくつかお店を覗き、ああでもないこうでもないと悩んでいたら、唐突に訊かれた。
「荷物を持ってブウを見にいくのはあれだからな。
……またあとでくる」
「お待ちしてまーす」
店主の男に声をかけ、私の手を引いて歩きだす。
市場を出てさらにその奥、村はずれの建物からはブウブウとよく知った鳴き声が聞こえてきた。
……え?
まさか。
でもモウはそれなりに牛に似ていたし……。
興味津々に覗いたそこには、豚とは似ても似つかない生き物がいた。
「……これがブウですか?」
「そうだ」
レオンは頷くが、えーっ!
だってさ、毛も生えない、ピンクの丸い物体なんだよ、ほぼ。
大きさは豚くらいだけど。
モウは足らしきものはあったが、ブウにはそれすらない。
丸い物体がみっちり柵の中に詰まり、象の鼻のようなものをその前に置かれている桶に突っ込んで、灰色のなんだかぐちょぐちょしたものを吸い取って……いるんだろうね、たぶん。
しかもときどき、桶から口……でいいんだよね、が跳ねて、中のものをまき散らす。
荷物を持って見にこられない理由に納得だ。
「なんか思っていたのと全然違いました……」
口から吐きだす息がブウと鳴る。
こんなのもう、生物として存在していていいのかすら怪しい。
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どんなのを想像していたんだ?」
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