いつかあなたに食べられる日まで~元社畜女子はもふもふに癒やされる~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

文字の大きさ
35 / 60
第7章 郊外にある村 *

5.レオンに首輪をつけられたい、……って言ったら、怒りますか?

しおりを挟む
「……はぁーっ。
モウは見方によっては可愛いかも?
とか思えましたが、ブウは衝撃的でした……」

市場に戻ってきて、レオンがオレンジジュースを買ってくれた。
その店は人間が経営していたが、狐さんが氷を卸しに来ていた。
おかげで、冷たい。

「まあ、確かにな。
いかにも食ってくださいって感じだしな」

ジュースを飲み終わり、また市場の中を見て回る。
使いやすそうな火打ち石はもちろん、のこぎりやなんかも売っていた。

「チハル」

レオンが手招きした先では、アクセサリーが並んでいる。

「うわーっ、素敵!」

素朴ながらもキラキラ輝く宝石がつくアクセサリーに、ときめかない女子とかいるだろうか。
もちろん、ときめいた。
それに。

「ネックレスとかも売っているんですね」

獣人でしているものはいるが、人間用はもちろん見たことがない。
そもそも、街にいる人間は奴隷で必ず首輪をつけられるから、ネックレスなどできない。

「これとかどうだ?」

並んでいるネックレスの中からひとつを選び、レオンが私の胸もとへ当てる。

「え……」

「あ、もしかして首輪みたいで嫌か?
ならこっちはどうだ?」

慌ててそれを戻し、レオンは髪飾りを掴んだ。

「私に、買ってくれるんですか?」

「当たり前だろ。
す、好きなメスは着飾らせたいに決まっている!」

落ち着かず、レオンの視線があちこちを向く。
さらに店員の男性はニヤニヤ笑っていて、頬が熱い。

「その。
……ありがとう、ございます」

「う、うん。
それで、こっちの髪飾りにするか?
ブルーがチハルの黒髪に映えていい」

青い石のついた髪飾りをレオンが当ててくれる。
それも確かに素敵だけれど。

「あ、あの。
買ってくれるなら、さっきのネックレスがいい……です」

俯いたまま、そっとレオンの袖を引く。

「でも、首輪みたいで嫌じゃないのか?」

気を遣う彼の声に、ううんと首を振る。

「レオンに首輪をつけられたい、……って言ったら、怒りますか?」

最近、出掛けるときにレオンから首輪をつけられるのに喜びを感じていた。
奴隷の証しとしては嫌だが、……レオンのもの、という印は嬉しい。

「首輪なんてつけられるのは嫌だろ。
チハルは奴隷じゃないんだから」

レオンがはぁっ、と短くため息を落とす。
反対に店員はそんな彼にやれやれと呆れていた。
ううっ、なんでレオンはわかってくれないんだ。
こんなの、説明させないでよ。

「だからー、さすがに首輪はあれなので、ネックレスをですね。
その、私は……レオンのもの、……だって」

目をあわせられなくて、足下を見てごにょごにょと呟くように言う。
これでわかってくれなかったらどうしよう。

「店主、これをくれ」

「まいど!」

レオンの声で顔を上げる。
その手にはさっきのネックレスが握られていた。

「他に欲しいものはないか?
なんでも買ってやるぞ!」

「えっ、ええーっ!?」

なぜかそれをバッグにしまい、市場の中を歩きだしたレオンは上機嫌だった。

――そんなわけで。

「服は私が用意してやると言わなかったか?」

レオンの腕に抱えられた大量の荷物を見て、バルドゥルさんが呆れてため息を落とす。

「か、可愛いチハルに買ってやりたいものが、たくさんあったんです!」

「ま、いいけどね。
……食事の支度ができている。
それを置いたら食堂へ来なさい」

ごろごろ喉を鳴らしながら、バルドゥルさんは先へ食堂へ向かった。
案内された客室はベッドに天蓋までついていて、貴族のお屋敷っぽい。
いや、領主なんだから貴族なのか。

食堂ももちろん、立派だった。
料理はすでに並んでいたが、……メインが。
モウのステーキだった。
しかも、レア。

「……」

無言で皿の上を睨んでしまう。

「新鮮なモウの肉だ。
街で食べるよりうまいぞ」

こぽこぽと木製の足つきグラスに赤ワインが注がれる。

「おじさん。
チハルは肉が……」

「レオン。
大丈夫、なので」

私のために断ってくれようとするレオンを止める。
まだこれが、人間の肉じゃないという疑惑が完全になくなったわけじゃない。
でも今日、実際にモウの存在を確かめた。
こんなに人間によくしてくれ、慕われているバルドゥルさんが平気で人間を食べるとは思えない。
それに市場でも、肉は普通に売られ、人間も買っていた。

「……」

ひとつ息をつき、ナイフとフォークを握る。
一口大に切り、口へ運ぶフォークはぶるぶると震えていた。
おそるおそる口へ入れ、咀嚼する。
味はまったくわからない。
それでも抵抗なく、ごくりと飲み込めた。

「……ほら。
食べられました」

ぎこちないまでも、レオンへ笑顔を向ける。

「無理、してないか」

「だから。
大丈夫ですって」

次の一口を切って口へ入れる。
そのまま一心不乱に肉を食べ続けた。
レオンはただ、それを黙って見ている。

「もう、平気ですよ」

「……うん。
そうか。
なら、よかった」

全部、無事に私が食べきり、はぁっとレオンが安堵の息をついた。

「なんだかわからないが、よかったな」

そんな私たちを、バルドゥルさんはワインを傾けながら見ていた。

それ以外は穏やかに食事は進んでいく。
ただ気になるのはこの城にはどうも、お手伝いさん以外はバルドゥルさん一匹しか住んでいないようだということだ。
いまだに獣人の見た目年齢はわかりにくいが、それでもレオンがおじさんと呼んでいるのから考えると、それなりの歳のはず。

「ユリアーナは元気ですか?」

レオンの口から出た、女性っぽい名前にぴくっと耳が反応する。

「ああ。
娘は王立学校で元気にやっているようだ。
学校が楽しすぎるのか、手紙は寄越すが休暇になっても帰ってきやしない」

ワインを飲み干したバルドゥルさんの、苦々しそうな発言は、いかにも父親らしい。

「あー、あそこは面白いことがいっぱいですからね……」

遠い目をしたレオンは、当時を懐かしんでいるんだろうか。
そんなに楽しいところなら行ってみたいが、人間は入れないんだもんね。
残念。
まあ、入れたとしても私は、年齢的にアウトだろうけど。
でも、興味はあるので今度、レオンにどんなところだったか訊いてみよう。

「しかし、ユリアはレオンハルトと結婚させるつもりだったんだがな」

ちらり、とバルドゥルさんの視線が私へと向かう。

「まあでも、いずれそうなるだろうが」

ふふっ、と小さく彼が笑う。
それが、私が人間だからという理由じゃないのはわかっている。
いや、私が人間だから、か。
ここでは恋愛と結婚は別。
結婚は同種族同士が基本なんだから。

「……おじさん」

レオンがナイフとフォークを置く、カチャンという音が妙に大きく響いた。

「俺は一生、チハルと……」

「……私も、そう思ったよ」

バルドゥルさんがレオンの言葉を遮る。
目を伏せ、彼はワイングラスをぐるぐると回していた。

「思ったけれど、ダメだった。
それはレオンハルトも知っているだろう?」

くいっ、と一気に、彼がワインを彼が飲み干す。
それをなぜか、なにも言えずに見つめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お嫁さんを探しに来たぼくは、シロクマ獣人の隊長さんと暮らすことになりました!

能登原あめ
恋愛
※ 本編完結後よりR18、ラブコメです。NLです。  ジョゼフはばあちゃんが亡くなってからの四年の間、一人で山奥に暮らしていた。  話し相手は時々やってくる行商人のじいちゃんだけ。   『ばあちゃんと、約束したんだ。十八歳になって成人したら街へ行くって。可愛いお嫁さんをみつけたい。それまではここで過ごすよ』  そうしてとうとう誕生日を迎えた。 『ぼく、大丈夫! だって男の子だから。大人になったら自己責任で冒険していいってばあちゃんが言ってた』  リュックを背負い山を降りたが、さっそくトラブルに巻き込まれる。  そこに現れたのがシロクマ獣人の警備隊長ロイクだった。  人里離れた山奥で男として育てられ、祖母が打ち明ける前に先立ってしまい、そのまま男だと思い込んでいる女の子が主役です。  そのためヒーローが振り回されます。   * 20話位+R(5話程度、R回は※つき) * コメント欄はネタバレ配慮していないのでお気をつけ下さい。 * 表紙はCanva様で作成した画像を使用しております。    

数合わせから始まる俺様の独占欲

日矩 凛太郎
恋愛
アラサーで仕事一筋、恋愛経験ほぼゼロの浅見結(あさみゆい)。 見た目は地味で控えめ、社内では「婚期遅れのお局」と陰口を叩かれながらも、仕事だけは誰にも負けないと自負していた。 そんな彼女が、ある日突然「合コンに来てよ!」と同僚の女性たちに誘われる。 正直乗り気ではなかったが、数合わせのためと割り切って参加することに。 しかし、その場で出会ったのは、俺様気質で圧倒的な存在感を放つイケメン男性。 彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。 仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~ その後

菱沼あゆ
恋愛
その後のみんなの日記です。

Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】

remo
恋愛
「…溶けろよ」 甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。 本宮 のい。新社会人1年目。 永遠に出来そうもない彼氏を夢見つつ、目の前の仕事に奮闘中。 なんだけど。 青井 奏。 高校時代の同級生に再会した。 と思う間もなく、 和泉 碧。 初恋の相手らしき人も現れた。 幸せの青い鳥は一体どこに。 【完結】 ありがとうございました‼︎

もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~

泉南佳那
恋愛
 イケメンカリスマ美容師と内気で地味な書店員との、甘々溺愛ストーリーです!  どうぞお楽しみいただけますように。 〈あらすじ〉  加藤優紀は、現在、25歳の書店員。  東京の中心部ながら、昭和味たっぷりの裏町に位置する「高木書店」という名の本屋を、祖母とふたりで切り盛りしている。  彼女が高木書店で働きはじめたのは、3年ほど前から。  短大卒業後、不動産会社で営業事務をしていたが、同期の、親会社の重役令嬢からいじめに近い嫌がらせを受け、逃げるように会社を辞めた過去があった。  そのことは優紀の心に小さいながらも深い傷をつけた。  人付き合いを恐れるようになった優紀は、それ以来、つぶれかけの本屋で人の目につかない質素な生活に安んじていた。  一方、高木書店の目と鼻の先に、優紀の兄の幼なじみで、大企業の社長令息にしてカリスマ美容師の香坂玲伊が〈リインカネーション〉という総合ビューティーサロンを経営していた。  玲伊は優紀より4歳年上の29歳。  優紀も、兄とともに玲伊と一緒に遊んだ幼なじみであった。  店が近いこともあり、玲伊はしょっちゅう、優紀の本屋に顔を出していた。    子供のころから、かっこよくて優しかった玲伊は、優紀の初恋の人。  その気持ちは今もまったく変わっていなかったが、しがない書店員の自分が、カリスマ美容師にして御曹司の彼に釣り合うはずがないと、その恋心に蓋をしていた。  そんなある日、優紀は玲伊に「自分の店に来て」言われる。  優紀が〈リインカネーション〉を訪れると、人気のファッション誌『KALEN』の編集者が待っていた。  そして「シンデレラ・プロジェクト」のモデルをしてほしいと依頼される。 「シンデレラ・プロジェクト」とは、玲伊の店の1周年記念の企画で、〈リインカネーション〉のすべての施設を使い、2~3カ月でモデルの女性を美しく変身させ、それを雑誌の連載記事として掲載するというもの。  優紀は固辞したが、玲伊の熱心な誘いに負け、最終的に引き受けることとなる。  はじめての経験に戸惑いながらも、超一流の施術に心が満たされていく優紀。  そして、玲伊への恋心はいっそう募ってゆく。  玲伊はとても優しいが、それは親友の妹だから。  そんな切ない気持ちを抱えていた。  プロジェクトがはじまり、ひと月が過ぎた。  書店の仕事と〈リインカネーション〉の施術という二重生活に慣れてきた矢先、大問題が発生する。  突然、編集部に上層部から横やりが入り、優紀は「シンデレラ・プロジェクト」のモデルを下ろされることになった。  残念に思いながらも、やはり夢でしかなかったのだとあきらめる優紀だったが、そんなとき、玲伊から呼び出しを受けて……

DEEP FRENCH KISS

名古屋ゆりあ
恋愛
一夜を過ごしたそのお相手は、 「君を食べちゃいたいよ」 就職先の社長でした 「私は食べ物じゃありません!」 再会したその日から、 社長の猛攻撃が止まりません!

皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる

若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ! 数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。 跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。 両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。 ――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう! エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。 彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。 ――結婚の約束、しただろう? 昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。 (わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?) 記憶がない。記憶にない。 姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない! 都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。 若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。 後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。 (そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?) ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。 エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。 だから。 この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し? 弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに? ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

処理中です...