いつかあなたに食べられる日まで~元社畜女子はもふもふに癒やされる~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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最終章 いつかあなたに食べられる日まで *

4.食殺ショー

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「出ろ」

夜になって、私を捕まえたトラから檻を出された。
すぐに首輪をつけられ、綱を引っ張って歩かされる。
舞台裏のようなところで、首に番号の書かれた札を下げられた。
幕の向こうからは次第に上がっていく金額の声が聞こえており、どうも私は、オークションにかけられるようだ。

「次は本日の目玉!
我々の敵、バルドゥルの奴隷です!」

カーテンが開き、会場内が見える。
司会はイタチで、客席には大型の肉食獣がひしめきあっていた。
それを見て一歩、足が後ろへ下がるが、すぐにトラにぶつかった。
トラが、私の目を睨む。
瞬間、身体から力が……意思が、抜けた。
背中を押され、操られるかのようにふらふらと自ら、舞台の中央に立つ。

「一万!」

「二万!」

「二万五千!」

徐々に上がっていく価格を、なんの感情もなく聞いていた。
それすら、奪われていた。
これは経験がある、アライグマのときも黒豹のときもそうだった。
でも、あのときは……。

「二万八千!」

「五万!」

肉食獣たちの熱気は凄まじく、心を支配されていなかったらきっと、その場で座り込んでいただろう。
はぁはぁと口から荒い息を吐いているのはもちろん、興奮しているのかぐるぐると喉を唸らせ、涎を垂らしている獣までいる。

「十三万!
十三万でもう、他にありませんか!?」

会場が静かになり、それ以上の声は上がらなくなる。

「では、十三万で落札です!」

カン、とイタチが木槌を打った音が、甲高く響いた。

すぐに舞台上が片付けられ、私を落札したシロクマが上がってくる。

「それでは、落札者による食殺ショーをお楽しみください!」

イタチの声で、すべてを悟った。
私はこのシロクマに、犯されながら食べられるのだ。

「はあーっ、はあーっ」

大きく開けた口から湯気が立ち上りそうなほど熱い息を吐き、涎をだらだら垂れ落としながらシロクマが迫ってくる。

……逃げなきゃ。

わかっているのに身体は少しも動かない。

「……たまんねぇな」

窮屈で仕方ないのか、シロクマがズボンごと下着を取り去る。
その下からはすっかり立ち上がった凶悪な凶器が出ていた。

「……脱がすなんて、まどろっこしい」

「……!」

シロクマの鋭い爪が私の服を切り裂く。
その際、爪が皮膚に当たってあちこちが切れた。
その鋭い痛みと共に……束縛が、解ける。

「まずは突っ込んで、思う存分犯してから治癒魔法をかけつつ少しずつ……」

どうもシロクマは死なせないように気をつけながら、苦痛を少しでも引き延ばして多く与えたいようだ。
観客もそれがお望みらしく、大いに沸いている。

……そんなこと、させないから。

次にシロクマの顔が近づいてきたら、あの鼻に噛みついてやる!
そうすれば、シロクマは怒り狂って、私を一撃で殺すだろう。
犯されながら食べられるなんて嫌だ。
どうせ死ぬならせめて、その手段は自分で選ぶ。

私を押し倒したシロクマの顔を睨む。
彼は私の支配が解けているなんて気づいていない。
私のにおいを嗅ごうと近づけられたその鼻に思いっきり……噛みついた!

「ギャーッ!」

シロクマが悲鳴を上げ、鼻を両手で押さえて離れる。
その隙に無駄な抵抗だと知りながら舞台の隅まで逃げた。
ご愁傷様。
首輪の魔法があるからなにがあっても抵抗できるはずがないと油断していたみたいだけど、私は魔法が効かないのだ。

客席からは大きなブーイングと、怒号が上がっている。

「捕まえろ!」

「殺せ!」

舞台を下り、あの中を逃げるのは不可能だろう。

……詰んだな。

わかっているけれど、後悔はない。
これならきっとあっというまに殺されるだろうから、……そんなに苦しまないで済むはず。

怒り狂ったシロクマが私へ大きく、手を振りあげる。

……一瞬で、済みますように。

そう願いながら、目を閉じた……瞬間。

「ごぶっ!?」

シロクマの戸惑いの声が耳に届き、目を開ける。
鼻血を垂らしながら悶絶するシロクマの前には……ライオンが、立っていた。

「誰が、俺のチハルを殺して食っていいなんていった?」

ライオンは殺気立っており、ぐるるるっ、と低い唸り声を上げている。
それを肉食獣たちは警戒し、遠巻きにしていた。

「かかってこい。
チハルに危害を加える奴は俺が全員、倒してやる!」

ライオンの咆哮と共に肉食獣たちが一斉に彼に襲いかかった、……が。

――ピィーッ!
――ピィーッ、ピィーッ!

甲高い警笛の音が響いてきて、怯む。

「ヤバい、ガサ入れだ!」

「全員、そこを動くな!
食殺、及び違法競売の罪で逮捕だ!」

蜘蛛の子を散らすように逃げていく肉食獣たちをライオンのおまわりさんたちが追いかけ、辺りは大混乱となった。

「……大丈夫か」

私の姿を見てライオン――レオンは一瞬、顔をしかめたあと、シャツを脱いで私に着せた。

「レ……」

「無事、ならそれでいい。
……おい!」

私がなにか言うより早くレオンが顔を背け、近くにいたピエールさんを呼ぶ。

「保護、頼む」

彼に私を押しつけ、自分は去ろうとするレオンの腕を掴んでいた。

「……行かないで」

「……」

レオンからの返事はない。
カタカタと細かく震えるその腕に、ますます強くしがみついた。

「行かないで。
傍にいて。
……お願い」

「……」

レオンはずっと、黙っている。
次第に騒ぎは、静かになっていった。

「……はぁーっ。
わかった」

しばらくして諦めたかのように、レオンはため息をついた。
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